8.主犯二人は被害者(予定)に引き渡される
ーー同時刻
校舎裏の庭へ向かっていたシャルロットとイザベラは、足を止めた。
遅れてでも来るはずのエレナとリリアナの姿がない。
「嫌な予感がするわ」
「私も……」
二人揃えば大抵何かを始めるのは、幼い頃からの常だった。
胸騒ぎを覚えて急ぎ校舎へ戻ると、早足で歩くすれ違いざまに学生たちの噂話が耳に入った。
「見た? 騎士団のカイ様が令嬢二人を抱えて歩いてた……」
二人は息を呑み、同時に足を止める。
状況が嫌なほど具体的に頭に浮かんでくる……
「……行くわよ、ベラ!」
「ええ、急ぎましょう」
事態の深刻さを察した二人はスカートの裾を軽く持ち上げると、いつもの優雅さを横に置いて廊下を急いだ。
息を少し乱しながら控室の扉前へ辿り着いたシャルロットは、一度だけ深呼吸して呼吸を整えると、毅然とした手つきでノックをして扉を開けた。
「失礼いたします」
室内にはカイ、ルシアン、アレクシス、セドリックの姿があり、そしてソファには背筋を伸ばして妙に行儀よく座るエレナとリリアナ。
気まずそうに目を逸らす二人に、シャルロットは静かに問いかけた。
「……何をしたの?」
「何もしてない」
「お前たち二人に罠を仕掛けていた」
二人の白状を待たず、カイが淡々と明かした。
絶句するシャルロットとイザベラ。仕掛けは頭上から色紙が落ちてくるだけのものだと聞き、シャルロットの声が低くなる。
「あなたたち、そこに座っていなさい!」
「もう座ってるけど?」
「そういう意味じゃない!」
反射的に口を挟むエレナを怒声が一閃する。普段の淑女らしからぬ、身内ゆえの容赦ないやり取りだった。
沈黙を守るイザベラも、ただ静かに二人を見つめている。耐えかねたリリアナが身を縮めた。
「ベラ、怒ってる?」
「怒ってないわ」
「その言い方が怖いんだけど!?」
「それで? 誰が言い出したの?」
詰問され、二人はゆっくり視線を交わした。数秒の沈黙の後、リリアナが顔を伏せ、エレナが視線を逸らす。
「リリね?」
「最初に思いついただけ!」
「私は手伝っただけ!」
「エレナ!」
先ほど控室で繰り広げられた擦り付け合いの逆再生に、ルシアンは額を押さえ、セドリックは呆れて笑う。
「暇だったから。二人から色紙を降らせたら面白いと思って」
開き直る二人に、今度こそシャルロットは呆れて額を押さえた。その様子にエレナが思わず口を滑らせる。
「でも、成功してたら面白かったよね」
ぴたり、と空気が止まった。
「エレナ?」
低い声に危機を察した二人は、一閃、扉へ向かって駆け出そうとした――が、一歩目で止まる。
扉の前には、いつの間にかカイが立っていた。
「駄目だ。顔が逃げると言っている」
退路を断たれ、二人はくるりと振り返ると見事な角度で頭を下げた。
「「ごめんなさい!!!」」
形だけの完璧な謝罪。顔を上げれば案の定、二人の目は笑っていた。
「今回は失敗したから。次はもっと――」
「リリ?」
「……何でもないです」
ため息をつくシャルロットと、目を閉じるイザベラ。その姿に、男性陣は自分たちの知らない令嬢たちの素顔を見ていた。
普段は完璧な淑女でありながら、急ぎ駆けつけるほど幼なじみの暴走に頭を抱えるシャルロットとイザベラ。そして懲りずに悪戯を企み、捕まるエレナとリリアナ。
「もう逃げないよ。たぶん」
「たぶんを付けるな」
即座に突っ込むカイに、二人は不満げに顔を見合わせた。
かつて自分たち四人を「城壁」と呼んで遠巻きにしていた令嬢たち。その騒がしくも賑やかな日常に、自分たちもまた、少しずつ巻き込まれ始めているのだった。




