67.イザベラの素朴な疑問
講義を終えたエレナたちは、いつものように四人で本館の廊下を歩いていた。
「休暇前って、いつもより人多くない?」
「休みに入る前に、会っておきたい相手がいるんじゃない?」
前を行く学生たちを避けながらうんざりした顔のリリアナにシャルロットがそう返したところで、少し先に人だかりが見えた。
廊下の窓際にいたのは、アレクシス、ルシアン、カイ、セドリックの四人。その周囲を数人の令嬢が囲んでいる。
「また囲まれてる」
「相変わらずね」
リリアナとシャルロットが半ば感心したように呟く。しばらくアカデミーで顔を合わせなくなる前に、少しでも話しておきたいのだろう。アレクシスとセドリックはいつも通り穏やかに応対し、隣のルシアンとカイも相変わらずの通常運転だ。
四人はそのまま人だかりの方へと進みながら言葉を交わす。
「……ルシアン様とカイ様も、もう少し愛想よくお話しすればいいのに」
イザベラがぽつりと漏らした言葉にエレナが即座に反応する。
「ベラ、それやめときな」
「どうして?」
「この前似たようなこと言って、私とシャル、追いかけられたから」
「……追いかけられたの?」
目を瞬くイザベラに、シャルロットも頷くとリリアナまで同意する。
「私も前にカイカイに『もうちょっと喋ったら?』って言ったら、めっちゃ睨まれたことあるよ」
イザベラは視線をカイに向け、「……みんな、一度は思うのね」と納得したように呟いた。
これで終わるかと思いきや、今度はアレクシスとセドリックへ視線を流す。二人の表情は相変わらずの笑顔だ。
「でも、殿下とセドリック様は逆に大変そうね。毎回ああして笑っていて、疲れないのかしら」
「ベラ」
シャルロットが警戒するように声を低くするも、イザベラは特に気にする様子もなく続ける。
「そもそも、皆さん毎回何をお話ししているのかしら?毎回同じようなご用件なら、殿下たちもいい加減飽きないのかしら?」
「ベラ、声!」
エレナが慌てて腕を掴む。
「普通に話してるだけだけど?」
「それが問題なの!」
リリアナが思わず肩を揺らして笑う。
「でも、ちょっと分かるかも」
「リリまで乗らないで!」
なおもイザベラは首を傾げながら続ける。
「だって、ルシアン様とカイ様だけだと話しかけづらいのか、あのお二人だけの時はあまり囲まれてるのは見かけないでしょう? それに何か進展しているようにも――」
――ゴスッ
「痛っ!」
すかさずシャルロットの肘が、イザベラの脇腹に入る。
「ちょっと!何するの?」
「黙りなさい」
「私、本当のこと言っただけよ?」
「本当かどうかじゃない!」
エレナが小声で突っ込むと、リリアナはとうとう耐えきれなくなったように口元を押さえた。
「ベラ、今日冴えてるね!」
「リリも笑ってないで止めなさい」
四人はそのまま横を通り過ぎ、少しずつ遠ざかっていく。
「でも毎回同じなら、やっぱり飽きると思うのだけれど」
「ベラ、もう黙っとこ?」
「だから何で?」
押し問答を繰り広げながら、四人の背中は廊下の先へと消えていく。
◇ ◇ ◇
一方、残された側は誰もすぐには口を開けなかった。
少し離れたところから歩いてくる四人の声は、最初は雑音に紛れてよく聞き取れなかったが、近づいてくるにつれてイザベラの分析がはっきりと届きはじめ、横を通り過ぎ、遠ざかっていくまで――その全容が余すことなく響き渡っていたのだ。
アレクシスは笑顔のまま固まり、セドリックは何とも言えない表情で遠ざかる四人の背中を見送っている。ルシアンとカイに至っては、何か言う気すら失ったように黙り込んでいた。
囲んでいた令嬢たちも微妙に視線を逸らしている。
先ほどまでの会話はきれいに途切れ、その場には妙な沈黙だけが残っていた。
今まで何度も囲まれてる男性陣に対して、『毎回同じパターンやん』って思ってた事をイザベラが代弁してくれましたwww




