65.男達の心情
*男子会です。
「……婚姻の話だ」
少し躊躇った後、アレクシスの答えに一瞬にして何とも言えない空気が漂った。
「婚姻? シャルロット嬢の……か」
ルシアンの問いに、アレクシスは苦々しく頷く。
「候補が決まっているのか尋ねただけだ」
「それだけで、そんな顔にはならないだろう」
カイの指摘に眉をひそめつつ、アレクシスは重い口を開く。
「……その候補に、俺は入らないのかとも尋ねた」
「……本人に直球で聞いたのか……。アレクシス、思ったより踏み込みましたね」
セドリックが呆れたように口元を緩める。
「それで、何と?」
「俺には婚約候補がいるから、自分が候補に入っている方が不自然だと返された。……それに、婚約者や候補のいる相手との婚姻は考えていない、とも」
「それであんなに落ち込んでいたのか」
「別に落ち込んでは――」
「いや、完全に参ってただろ」
カイの容赦ない追撃に、アレクシスは苛立ちを隠さず睨み返した。
自分の内面を透かして見られているような心地悪さに、腹が立ってくる。
「……お前たちは随分余裕そうだが、人のことを言えるのか?」
その一言で、空気がわずかに緊張を帯る。
「何の話だ」
「ルシアン、お前だ。エレナ嬢への態度、最近分かりやすすぎるだろ」
「そうか?」
「ええ、以前よりはずっと」
名指しされたルシアンは、動じる風もなく淡々と答えるが、カイとセドリックまで当然のように同意するのを見て、少しだけ考えたあと、あっさりと認めた。
「……まあ、そうなるな」
思いのほか潔い返事に、今度はアレクシスたちが言葉を詰まらせた。
「……もう自覚していたのか?」
「しばらく前からな。聞かれなかったから言わなかっただけだ」
開き直るルシアンに呆れかけたアレクシスだったが、ルシアンの視線がそっとカイへと向けられたのを見逃さなかった。
「カイ。お前はリリアナ嬢だろ?」
カイの口が露骨に噤まれる。
「否定はしないのか?」
アレクシスが追撃すると、カイは面倒そうに息を吐き出した。
「……否定する理由がない。あの猫の件以来、リリアナだから嫌じゃなかったんだと気づいただけだ」
「十分だろう、それは」
「うるさい。俺は今知ったんだ」
不毛な言い合いを始める二人を前に、アレクシスは小さく溜め息をついた。
「結局、お前もか……」
「お前に言われる筋合いはないな」
「それは今関係ないだろ」
「十分関係あると思いますけれどね」
セドリックが穏やかに介入した瞬間、三人の視線が一斉に彼へと集中した。
「何ですか」
「お前だけ安全圏にいると思うなよ。――イザベラ嬢だろ?」
アレクシスが名を挙げると、セドリックの返答が一瞬だけ遅れた。
わずかな隙を、ルシアンとカイが逃さず突く。
「今、止まったな」
「分かりやすいやつだ」
「……みなさん、随分楽しそうですね」
セドリックは苦笑交じりに小さな息を漏らすと、あっさりと肩をすくめた。
「……否定はしませんよ」
「お前もなのか……」
アレクシスは頭を抱え、椅子の背もたれに深く身体を預けた。
「待て。じゃあ、自分の感情に気づいていなかったのは俺だけなのか?」
誰も答えない。その沈黙が何よりの回答だった。
「お前は本人に『候補に自分は入らないのか』とまで聞いたんだろう」
「アレクシスが気にしているのは、彼女が誰と結婚するかではなく、その相手が自分でないことでしょう」
ルシアンが淡々と告げ、セドリックの言葉が、まっすぐに胸に突き刺さる。
お茶会でシャルロットが良い相手を探したいと口にした時の胸の騒ぎ。
エレナと楽しそうに笑い合っていた姿を見た時の笑顔。
そして今日、自らの口から出た「私は?」という問い。
もし単なる知り合いなら、自分が候補に入っていないことなど気になるはずがない。
「……ああ」
漏れ出た声とともに、アレクシスは片手で顔を覆った。
「やっと分かったか」
「俺でも気づいてたぞ」
「お前たちに言われると無性に腹が立つな……」
くすくすと笑うセドリックに促され、アレクシスは腹を括った。
いまさら誤魔化したところで、この幼なじみたちに通じるはずもない。
「……好きなんだろうな、俺は」
言葉にして吐き出すと、不思議なほどすんなりと胸に落ちた。
アレクシスは改めて、目の前の三人を見回した。
ルシアンはエレナ、カイはリリアナ、セドリックはイザベラ。
そしてーー自分はシャルロット
「……何なんだ、これは」
互いに視線を交わす。
「……全員じゃないか」
その呟きを否定する者は、誰もいなかった。
ここで片思い編は終了です。




