64.聞かなければよかった
*片思い編、後1話で終わりです
男子会になります
長期休暇も目前に迫り、休暇明けに予定されている合同イベントの会議に出席するため、アレクシスは会議室へ向かっていた。
会議では休暇明けの進行や当日の動きを中心に確認が進められ、いくつか細かな調整はあったものの、大きく揉めることもなく話はまとまった。予定より少し早く終了し、資料を手に会議室を出ると、続いて出てきたシャルロットと目が合った。
「殿下、お疲れ様でした」
「ああ。お前もな」
シャルロットはこのまま帰宅、アレクシスは王族控室へ戻るところだった。途中までは同じ方向だったため、そのまま自然と並んで歩き出す。
「思ったより早く終わりましたね」
「ああ。休暇明けにもう一度確認すれば問題ないだろう」
会議の話が一段落すると、話題は目前に迫った長期休暇へ移る。
「シャルロット嬢は、一度領地へ戻るんだったな」
「はい。家族に顔を見せてから、エレナたちと合流する予定です」
「ノワール領か」
「ええ。殿下たちもロイド様から誘われていましたね。その後、ご予定は?」
「まだ調整中だ。数日なら王都を離れられると思うが、ルシアンたちの予定もあるからな」
「そうでしたね。カイ様だけはその場で決めていらっしゃいましたけれど」
「あいつは聞いた瞬間に返事をしていたからな」
思い出したのか、シャルロットが小さく笑った。
「随分と楽しみにしていらっしゃるようでしたものね」
「騎士団の訓練を見る気でいるんだろう」
「エレナも帰ったらすぐ訓練に顔を出すと思いますよ」
「それを聞いたら、余計に行きたがりそうだな」
他愛のない話をしながら歩いていたが、ふと以前のお茶会で聞いた言葉が頭をよぎる。
――いずれ良い方がいらっしゃれば
あの時は何となく耳に残っただけだと思っていた。だが、なぜか今も忘れられない。
「……シャルロット嬢」
「はい?」
「以前、お茶会で話していただろう」
「何のお話でしょうか」
「婚姻の話だ」
シャルロットが少し首を傾げたあと、思い出したように頷く。
「ああ、そのことですか」
「良い相手がいれば、と言っていたな」
「はい。今すぐどうこうという話ではありませんけれど、いずれはそうなるでしょうね」
「相手は決まっていないのか?」
「今のところは」
「候補も?」
「正式なものはありません。お話をいただくことはありますけれど、まだ在学中ですし」
何でもないことのように答える。
その言葉を聞いた瞬間、アレクシスの口から疑問がこぼれた。
「……私は?」
「はい?」
シャルロットの足が止まり、アレクシスも立ち止まる。
言った直後、自分でも何を聞いているのか分からなくなったが、一度口にしてしまった以上今さらなかったことにもできない。
「いや……だから、その候補に私は入らないのか?」
今度こそ、シャルロットははっきりと目を見開いた。
「……殿下が、ですか?」
「ああ」
「なぜ殿下が?」
「なぜと言われても……」
ーー本当に、なぜだ
王太子である自分には婚約候補が複数いる。それはシャルロットも当然知っている。
それなのに、彼女が自分以外の誰かと婚姻する可能性を口にすると、どうにも気になる。
「殿下には婚約候補の方々がいらっしゃるではありませんか」
「それはそうだが」
「でしたら、私が候補に入っている方が不自然では?」
もっともな返答だったため、アレクシスは何も返せない。
シャルロットは少し考えたあと、静かに続けた。
「それに、私はすでに婚約者や婚約候補のいらっしゃる方との婚姻は考えておりません」
「……そうなのか」
その言葉が、思った以上に胸に引っかかった。
「それとも、何か王家からお話が出ているのですか?」
「いや、そういう話ではない」
「では……?」
「……いや、何でもない」
シャルロットはまだ少し不思議そうにしていたが、それ以上は追及してこなかった。
「私はこちらですので」
「ああ」
「それでは殿下、失礼いたします」
「……また休暇明けにな」
分岐点へ差し掛かり軽く一礼すると、シャルロットはそのまま去っていった。
その後ろ姿が角を曲がって見えなくなっても、アレクシスはしばらくその場から動けなかった。
ーー……私は?
自分で口にした言葉を思い返す。
なぜあんなことを聞いた。
しかも、答えを聞いたところで何をするつもりだったのか全く分からない。
「……何やってるんだ、俺」
小さく呟き、ようやく王族控室へ向かった。
◇ ◇ ◇
控室の扉を開けると、ルシアン、カイ、セドリックの三人が揃っていた。
アレクシスは何も言わず、空いているソファへ腰を下ろす。
「……どうした?」
「何が」
「随分ぼんやりしてる」
ルシアンが真っ先に声をかけてき、セドリックもこちらを見る。
「会議で何かありましたか?」
「何もない」
「では、その後ですか」
「……」
「分かりやすいな」
「うるさい」
カイに言われ、アレクシスは鬱陶しそうに背もたれへ身体を預けた。
「……放っておいてくれ」
「それは無理がありますね」
三人とも引く気はないらしい。
「それで?」
ルシアンが短く尋ねる。
「何が」
「何があった」
「……何も」
「今ので通ると思ってるのか」
「お前たち、随分好き勝手言うな」
しばらく黙っていたが、三人の視線が外れる気配はない。
アレクシスは諦めたように息を吐いた。
「……少しシャルロット嬢と話をしただけだ」
「話?何の話だ?」
「……婚姻の話だ」
少し躊躇った後、アレクシスの答えに一瞬にして何とも言えない空気が漂った。




