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59.騎士科生徒と旗取りゲーム

その日ーーエレナとリリアナが並んで廊下を歩いていると、後ろから聞き覚えのある声が飛んできた。


「お嬢!」


 その呼び方だけで誰なのか察したエレナは、足を止めて振り返る。

「……何?」

「ちょうどよかった!ちょっと来てください!」

「嫌!前もそう言って模擬戦に連れ出されたじゃない」


 警戒するエレナに、ノワール領出身の騎士科生徒は慌てて首を振る。


「今回は模擬戦じゃないんで! リリ様も一緒にやりましょう!」

「え、私も? 行く!」

「リリ?」


 あっさりと相手側へ回るリリアナに、エレナは呆れてため息を吐く。


「まだ何するかも聞いてないでしょ!」

「面白そうだし、模擬戦じゃないなら大丈夫だよ?」


 結局押し切られる形となり、二人が連れて行かれたのは誰でも利用できる一般訓練場だった。そこには数人の騎士科生徒が集まっており、地面の線で仕切られた陣地にはそれぞれ小さな旗が立てられている。


 ルールは敵陣の旗を自分の陣地まで持ち帰った方の勝ちという「旗取り」。敵陣で触られたら捕虜となり、味方に助けてもらうまで動けない。要するに人数合わせだったのだ。


 リリアナが興味津々で旗を眺めていると、訓練場の入口から講義を終えたばかりのルシアンとカイが歩いてくるのが見えた。


「ルー! カイカイ!」


駆け寄ってきたリリアナと騎士科生徒たちに一瞬にして囲まれる二人。


「少しだけだぞ」

「俺は通りかかっただけ……」

「諦めな、ルー」


 嫌がりながらも押し切られ、結局二人も参加することになった。

エレナとカイ、リリアナとルシアンがそれぞれ騎士科生徒たちとチームを組み、二手に分かれると、掛け声とともに、両陣営が一斉に動き出した。


真っ先に飛び出したエレナだったが、騎士科生徒たちに挟まれ、慌てて身を引いた先で正面からルシアンに塞がれた。右へ動けば右へ、左へ寄ればそちらへ。執拗に進路を消され、身をかわそうとしたものの、背後に潜んでいた別の生徒を避けようとした瞬間、肩を叩かれる。


「戻ってくると思った」

「腹立つ! 絶対捕まえるから!」


 エレナは捨てゼリフを吐いて捕虜エリアへ向かった。

 一方、敵陣へ入ったリリアナは本来の目的を忘れ、ひたすらカイを追い回していた。


「カイカイ!」

「……また俺か」


 これで三度目だ。手を伸ばすたび、カイは半歩だけ身を引いて軽々とかわす。身長差も歩幅も違うため、リリアナがいくら必死に手を伸ばしても指先は空を切るばかり。


「わざとでしょ! ギリギリで逃げないで!」

「敵だからな」

「リリ様、旗はいいんですか?」


 生徒に突っ込まれてハッと正気に戻り、旗へ向かおうとした瞬間、背後からポンと肩を叩かれる。


「捕まえた」

「カイカイの意地悪!!」


 夕暮れが近づくにつれ、最初の役割分担など有名無実化していた。

 救出されたエレナが逃げ回れば、なぜか毎回ルシアンが前方に立ちはだかる。「なんで私ばっかり狙うの!?」と叫ぶエレナの横で、リリアナは相変わらずカイへの仕返しに夢中になりながらも、同じチームのルシアンに「ルー! エレナそっち行ったよ!」としっかりアシストまで送ってくる。エレナからすれば余計なお世話である。


 一般訓練場という場所柄、通りがかった生徒たちが足を止め、高位貴族の子女たちが本気で泥臭く旗を奪い合う異様な光景を見守っていた。


「いい加減、他の人狙ってよ!」

「嫌だ」


 最初は乗り気でなかったはずの面々も、気づけば全員が夢中で駆け回り、日が傾く頃には揃って息を切らしているのだった。

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