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57.いつもの日常

講義を終えたリリアナとイザベラは二人で購買へ向かっていた。


「まだあるかなぁ」

「昨日は残っていたけれど……」


いつもより少し早足で歩くリリアナの後ろを、イザベラがのんびりとついていく。

目当てのものは数日前から並んでいる新商品のお菓子だ。前々から食べてみたいと言っていたリリアナに、今日はイザベラが付き添っていた。

 購買の周辺は、講義を終えた学生たちでかなり混み合っていて、人垣を見て足を止めたイザベラに対し、リリアナは人の隙間から覗き込むと、ぱっと顔を輝かせた。


「ベラ、ここで待ってて!」


 返事を待たずに人混みへ飛び込んでいく小さな背中を、イザベラは追うことも諦め、少し離れた場所で見守ることにした。

 しばらくして戻ってきたリリアナは手の中に小さな包みを抱えていたが、先ほどまでの勢いはどこへやら、見るからにしゅんとしている。


「一個しか買えなかった……最後の一つだったの」


イザベラの分がないことを気にしているらしい。イザベラが「元々リリが食べたかったものでしょう? リリが食べなさい」と微笑むと、リリアナの表情は途端に華やぎ、勢いよく抱きついてきた。


「ベラありがとう、大好き!」

「もう、リリったら……」

 

呆れつつも楽しそうに笑うイザベラの前で、リリアナは包みを見つめ、思い直したように顔を上げる。


「やっぱり半分こにしよ。一緒に食べた方がおいしいし!」


 リリアナの気持ちが嬉しくて顔を見合わせて笑い合っていると、ふいに横から声をかけられた。


「あの……よろしければ、こちらをどうぞ」


 声の方に顔を向けると見知らぬ男子生徒が同じ包みを差し出してきた。


「ひとつしか買えなかったと聞こえたんですが、よろしければどうぞ。私は以前食べたことがありますから」

「えっ、本当にいいの? ありがとう、すっごく嬉しい!」


 満面の笑みで礼を言って受け取るリリアナに、男子生徒は少し照れくさそうに会釈をして去っていった。


「ベラ、二個になった! 一個は半分こして食べて、もう一個はエレナとシャルにお土産にしよう」

「ふふ、二人も喜びそうね」


 つい先ほどまで落胆していたのが嘘のように上機嫌な幼なじみを眺めながら、イザベラはふと思い出したように口を開いた。


「リリって、こういうことたまにあるわよね。知らない方から何かいただいたり、声をかけられたり」

「そうかな?」

「うん。エレナも話しかけられることが多いけど、模擬戦以来騎士科の人からよく呼び止められているし、シャルは公爵令嬢だからか皆どこか緊張して話しかけているでしょう? でもリリは誰からも気軽によく声をかけられているよね」

「でもベラだって、講義のあとに『教えて』ってよく聞かれてるじゃん」

「それは……勉強のことばかりでしょう?」

「あはは、じゃあみんな声かけられてるってことで!」


あっけらかんと笑うリリアナにイザベラも苦笑し、二人はそのまま中庭のベンチへと向かった。

 ベンチでお菓子を半分ずつ分け合って味わい、残るひとつは予定通りタウンハウスへ持ち帰った。

帰宅後、嬉しそうに包みを開けたリリアナを囲み、エレナとシャルロットも交えて四人で少しずつ分けて食べるのだった。


 リリアナにとっては、ただそれだけの、いつもと変わらない一日だった。


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