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52.噂の答え合わせ


放課後ーー



 セドリックが手配した学院の会議室には、昼の騒動に関わった者たちが集まっていた。


 エレナ、シャルロット、リリアナ、イザベラの四人、昼間にエレナへ詰め寄った三人の令嬢と、その婚約者である騎士科の生徒三人。さらに、先日の模擬戦でエレナを連れ出したノワール領出身の騎士科生徒が一人。

 そこへアレクシス、ルシアン、カイ、セドリックが加わった総勢十五人だ。


 昼間とは違って野次馬もおらず、かえって緊張感が漂っている。


「では、始めましょう」


 沈黙を破ったのはセドリックだった。


「昼の件ですが、皆さんが実際に見たこと、婚約者から聞いたこと、そして噂として広まっているものが混ざっているようです。一つずつ分けて確認しましょう」


 セドリックは淡々と事実の切り分けを進めると、令嬢たちが実際に目撃したのはエレナが騎士科の男子生徒と話していたことや、一緒に訓練場へ向かっていたことだけだと判明し、続いて婚約者からの話に移る。


「模擬戦で手合わせして強かったと話しました。気さくな方だと感じたのも事実です」

「私も模擬戦自体が楽しかったと話しただけで、ノワール嬢がいたからという意味ではありません」

「私は領地で以前から面識がありました。ノワール領では領主家と騎士団が言葉を交わすのは珍しくありませんから」


 騎士科の生徒たちが口々に釈明する中、誰一人として「エレナと特別親しい」とは話していなかった。


「では、次に噂として広まっている内容です。ノワール嬢が頻繁に騎士科へ出入りしている、男子生徒に囲まれている、男性といる方が楽だと言っている、自らサバサバした性格だと称している。このあたりでしょうか」


 セドリックが挙げた内容に、エレナは思わず眉をひそめた。


「……最後の二つ、一回も言ったことないんだけど」

「分かってる。エレナが自分からそんなこと言い始めたら止めるし」

「なんで?」

「痛いから」


 小声で交わされるリリアナとエレナのやり取りを、シャルロットが軽く制す。


 訓練の参加回数を確認すると、エレナが参加したのはわずか二回。二回目となった先日の模擬戦も、ノワール領出身の生徒たちに人数合わせで半ば強引に連れていかれたものだった。


「『男性に囲まれていた』というのも、連れて行った僕たち三人のことです。逃げられないように囲んでいたので……」


 気まずそうに白状する生徒を見て、イザベラが呆れたような顔をした。


「つまり、噂で囁かれていたような事実は確認できないということですね」


 セドリックが言葉をまとめると、令嬢たちを代表して一人が小さな声を絞り出した。


「ですが……婚約者から何度もノワール様のお名前を聞いて、実際に一緒にいるところを見ていたら、不安になってしまって」

「不安になる気持ちは分かる。だが、それなら先に私に聞いてほしかった。噂だけで決めつける必要はなかったな」


 婚約者である騎士科の生徒が静かに諭す。他のふたりも同意するように頷いた。


「不安になられた理由はわかりました。ですが、今回の件に関係のないリリアナへの言葉や、私やイザベラに交友関係を見直すよう求めた件は別です」


 それとこれとは違うとシャルロットが言及すると、三人の令嬢は顔を合わせ、深く頭を下げた。


「……そちらにつきましては、感情的になり言い過ぎました。深くお詫び申し上げます」


 謝罪を受けたシャルロットたちは静かに頷いた。エレナもまた、不安を抱かせたことについて軽く頭を下げて謝意を示した。


「よし、この件は一旦ここまでにしましょう。少なくとも広まっている噂の多くが事実と異なると理解していただけたはずです」


 セドリックの言葉に続き、アレクシスも重い口を開いた。


「今後、この話を事実のように広めることは禁ずる。今日ここで確認した内容も口外するな」

「承知いたしました」


 令嬢と騎士科の生徒たちが揃って返事をし、一通り話がまとまりかけたその時、それまで静観していたルシアンがぽつりと呟いた。


「一ついいか?『婚約者のいる男に自分から近づいている』という噂の根拠は、結局最後まで出なかったな?誰が言い出したんだ?」


 その一言に、三人の令嬢は再び身を小さくして視線を落とした。噂の出所が令嬢たちにも分からなかったのだろう。


「では、本日は解散とします」


 セドリックの声を合図に全員が立ち上がり始めると、拉致した張本人である騎士科の生徒がエレナに近寄ってきた。


「お嬢、今回はご迷惑をおかけしました」

「本当にね!」

「反省しています!なので、また機会があればぜひ訓練に!」

「絶対嫌!」


 懲りずに誘う生徒に呆れつつも、エレナは「今度何か奢ってよね」と返し、周囲には少しずついつもの空気が戻っていった。


 ひとまず誤解は解けた。


ただ、誰がどこからあの噂を流したのか、それだけは結局分からないままだった。

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