33.放課後の王族の控室
*神視点です
昨日――エレナが食堂で騎士科の上級生と言葉を交わした翌日のことである。
以前、四人で講義のノートと教本を突き合わせた際に解決しなかった疑問点を聞くため、シャルロットとイザベラは講義の合間にアレクシスとセドリックを見つけ、放課後に王族用の控室で教えてもらう約束を取り付けた。
暇だからという理由で当然ついて行こうとしたエレナとリリアナだったが、
「今日は本当に勉強しに行くの。前みたいに荒らされたら困るから、二人は裏庭で待っていて」
シャルロットに釘を刺され、渋々引き下がるしかなかった。
そして、放課後ーー
「……私たち、かなり偉くない?」
「うん。どこにも行かず、何もしてない」
裏庭のベンチに並んで座る二人は、己の忍耐強さに深く感心していた。
しかし、待てど暮らせど二人は戻ってこない。
「……遅くない?」
「様子を見に行くなとは言われてないよね」
それからの二人の決断は早かった。
控室の前に着くと、中から楽しそうな声が漏れている。
そっと覗くと、そこにいたのは四人だけではなかった。
普段から控室を出入りしているルシアンとカイも加わり、六人で穏やかに教本を囲んでいたのだ。
騎士科のカイまで真面目に解説に加わっている様子は、思いのほか打ち解けて見えた。
「……楽しそう」
「私たち、ずっとお利口に待ってたのに」
不満が限界に達した二人は、勢いよく扉を開け放った。
「楽しそうじゃん!」
「私達を待たせて!」
突然の乱入に、部屋の六人が目を丸くする。
「終わったら戻るって言ったでしょ!」
「終わったらとは言ったけれど、すぐとは言っていないわ」
シャルロットの理詰めの反論に、エレナは周囲を見回して言い返した。
「だって六人で楽しそうだったし。私たちは何もせず待ってたんだよ? 偉いでしょ」
「……褒めてほしいのか? 普段どれだけ信用がないんだ」
カイの呆れ顔に、二人の「言い方!」という声が綺麗に重なる。
「二人とも、もうすぐ終わるからここで待たせてもらったら?」
イザベラにそう言われ、二人は空いている席につく。
それから数分間、静かに待たされていた反動か、勉強会がひと区切りついた瞬間に二人は弾かれたように喋り出した。
「やっぱり殿下もセドリック様も、私たちとシャルたちへの対応が違いすぎる!」
「そうだよ! 私たちが何か言ったらすぐ『ダメ』って言うのに、シャルたちが聞いたら『もちろん』って! 差別だ!」
「こっちなんて、何もしてなくても『今度は何をした』って疑ってくるし!」
「差別じゃない、日頃の行いの差だ」
カイの容赦のないツッコミに、エレナとリリアナは不満げに眉をひそめる。
「まだ言ってんの、この人たちは……」
呆れ果てるシャルロットをよそに、部屋の中はそのまま八人での賑やかな雑談へと移行していった。
そんな折、資料を片付けていたセドリックがふと思い出したように口を開いた。
「そういえばエレナ嬢。昨日の昼、食堂で騎士科の上級生に“お嬢”って呼ばれてましたよね?」
エレナの動きがぴたりと止まる。
「……なんで知ってんの?」
「ルシアンと一緒に近くで食べてたんですよ。そこだけ、はっきり聞こえてしまって」
セドリックが和やかに微笑むと、エレナは何とも言えない顔で二人を見つめ返した。




