34.何でお嬢?
「……なんで知ってんの?」
「ルシアンと一緒に近くで食べてたんですよ。そこだけ、はっきり聞こえてしまって」
セドリックが和やかに明かすと、エレナは何とも言えない顔になった。
「領地じゃ昔からそう呼ばれてるだけ。うちのお父様が私のこと“お嬢”って呼んでて、それが辺境伯騎士団とか領地全体に広まった感じ。昨日の上級生も昔から知ってる人だから、つい昔の呼び方が出たんだと思う」
「へえ、ずいぶん浸透してるんだな」
アレクシスが感心したように言うと、横からリリアナが胸を張った。
「でも、それなら私たちだって似たようなものじゃない? 私だって“リリ様”って呼ばれるし。シャルだって“シャル様”、ベラも“ベラ様”って呼ばれることあるでしょ? まあ、辺境には顔見知りが多いからね」
「顔見知りが多い、で済ませるのね…エレナと一緒になって、同い年くらいの子たちと散々やんちゃしていたからでしょう? 雨の日に泥だらけになって怒られていたのも覚えているわ」
「う……昔の話じゃん」
気まずそうに目を逸らすリリアナの横で、エレナが追撃するように口を開いた。
「でもリリ、アカデミーの騎士科の辺境出身の中にも何人かリリ様呼びする人いるじゃん。科も学年も違うからまだ校内で会ってないけど。シャルやベラより愛称で呼んでくる人、圧倒的に多いよ」
「ちょっと、余計なことまで言わなくていいでしょ!」
「事実じゃん。昔から私と一緒に外で遊び回ってたからリリが思ってる以上に顔が広いんだよ。」
図星を突かれて居心地悪そうに眉を寄せるリリアナに、カイが淡々と追撃する。
「昔から二人で好き放題していたってことだな」
「「言い方!」」
二人の綺麗なハモり文句が部屋に響き、アレクシスたちは楽しそうに肩を揺らした。
ひとしきり和んだところで、セドリックが話を戻す。
「で、その上級生とは何か約束でも?」
「一昨日会った時に『今度訓練しよう』って言われてて、昨日はその日程を聞きに来てただけ」
その言葉に、アレクシスとルシアンが即座に反応した。
「訓練?」
「以前、一般訓練場で打ち合っていたろう。一度手合わせしてみたいと思っていたんだ」
「嫌です。絶対目立つし」
即答するエレナだったが、学校も王宮も目立つから嫌だと突っぱねるうち、理詰めで追い詰められていく。
「……そんなにやりたいなら、休みの日にうち来る? 裏に少し動ける場所もあるし」
「…いいのか?」
「行こう」
ルシアンの確認に、アレクシスが間髪入れずに即答した。
「即答すぎない?」
「せっかくの誘いだ、断る理由がない」
「では、週末の予定はこちらで調整しておきますね」
あっという間にセドリックが話をまとめ始めると、黙って聞いていたカイが静かに口を開いた。
「なら、俺も同行させてくれ。殿下とお前が打ち合うなら、騎士として見ておきたい」
「見学だけ?」
「今のところはな。見てから、俺も手合わせするか決める」
「増えるの!?」
頭を抱えるエレナの横で、リリアナが吹き出す。
「セドリック様まで来る前提なんですか?」
「殿下の予定を管理する以上、そのまま同行する方が早いですから」
和やかに笑うセドリックに、ルシアンも淡々と追い打ちをかけた。
「お前が誘ったんだろ」
「それ言えば全部済むと思ってない?」
「事実だ」
真顔で返され、エレナは深く息を吐く。
こうして、本人の想像以上に大ごとになりながらも、週末の予定は着々と形になり始めていた。
*ここで、出会い・交流編は終わりです




