30.静かな部屋に残った噂
*男子トーク回です。短め
ーー翌日
いつもの王族控室には、紙をめくる音とペン先が滑る音だけが響いていた。窓際ではルシアンが本を開き、カイは剣帯の留め具を確かめている。男性陣だけの部屋は、いつになく静かだった。
「今日は、ずいぶん静かですね」
セドリックが書類から顔を上げると、カイは留め具から目を離さずに答えた。
「昨日は、同じ部屋を『静かすぎる』と言われたがな」
「思い出させるな」
低く漏らしたアレクシスに、セドリックは苦笑した。
エレナとリリアナが滞在した時間は決して長くなかった。それなのに、二人が去った後の部屋は妙にぽっかりと静まり返り、普段は気にも留めない紙の音までがはっきりと耳に届く。
「今日も来ると思っていたのか?」
「まさか。……来なければ、その分仕事も進む」
そう言ってアレクシスは積まれた書類を取り上げ、カイも短く頷いた。そのやり取りを聞いていたルシアンが、頁を一枚めくる。
「……二人が来なくても、十分に騒がしいが」
「誰のせいだい?」
「お前だ」
「やっぱり?」
セドリックは笑い、ようやく自分の書類に目を戻した。再び静けさが戻り、アレクシスが最後の一枚に署名を終えた頃、セドリックが思い出したように口を開いた。
「そういえば、さっき廊下で妙な話を聞いたよ。一年の令嬢が男子生徒の前で気さくに振る舞っていたら、"わざと飾らない私を見せている"と噂されていたそうだ」
アレクシスのペンが止まり、ルシアンも本から目を上げた。
「誰の話だ?」
「名前まではわからないよ。見た人の勝手な想像だろうね」
セドリックは肩をすくめた。気さくに話していただけのことに、なぜ「わざと」という邪推がつくのか。どの令嬢のことかも分からないが、本人の与知せぬところでそんな噂が一人歩きしているのが、ルシアンはどうにも気にかかった。
「名前のない話なら、こちらで広める必要はない。もし名前が出たら、まずは何を見て言っているのか確かめるだけだ」
アレクシスの冷静な判断にカイも頷き、剣帯を締め直した。
再び部屋には紙の音だけが残る。ルシアンは開いた本に目を落としたが、途中で先ほどと同じ一行を追っていたことに気づいた。
(……)
頁を少し戻し、最初から読み直す。
結局その日、エレナとリリアナの声が廊下から聞こえてくることはなかった。いつも通りの静寂の中で、ルシアンは最後まで、顔も知らない令嬢の噂をどこか捨てきれずにいた。
ルシアンはちゃんと話しにノッてくれるので優しい(^^)




