29.エレナの母からの手紙
*時系列は28話の続きです
ーー
「そういえば、授業のことで聞きたいことがあるって言ってたよね?」
エレナが尋ねると、シャルロットは鞄からノートを取り出した。
「ええ。殿下に聞く前にみんなのノートも見たくて」
「私も教本を持ってくるね」
「じゃあ私のノートも!」
イザベラとリリアナも立ち上がり、居間のテーブルに四人分の教本とノートが並んだ。
疑問点を確認し合うものの、年表の記載順のズレなど、自分たちだけでは解決しない課題が残る。
「これはセドリック様や殿下に聞いてみましょう」
シャルロットがノートを閉じると、エレナが楽しそうに笑みを浮かべた。
「さっき話してた、あの部屋に行く理由がちゃんとできたね」
「ええ。元々聞きに行こうと思ってたし、勉強するなら静かな部屋の方が落ち着くわ」
イザベラも微笑んで頷いた。そこへ居間の扉が叩かれ、使用人からエレナへ一通の手紙が手渡された。実家からの便箋を改めたエレナの手が、途中でぴたりと止まる。
「……うちの兄たちが、ここに来るらしい」
「「「ゲッ……」」」
居間に四人分の声が重なった。
「どっち? ロイド兄? カイル兄?」
リリアナが身を乗り出して尋ねると、エレナは頭を抱えた。
「手紙には書いてないの。両方の可能性もあるわ」
四人ともエレナの兄たちが嫌いなわけではない。幼い頃から世話を焼いてくれた頼もしい存在だ。ただ、一緒にいると間違いなく予定外の行動に巻き込まれる。
「ロイド兄様だと、また『少し付き合え』って半日訓練させられそうね」
「カイル兄様なら『面白い場所』って行き先も告げずに馬車に乗せられるわ」
シャルロットとイザベラの回想に、エレナとリリアナも深く頷く。
「今回は全員の両親が、私たちの様子を見てくるよう二人に頼んだみたい」
「それなら来る理由は納得だけど……」
「様子を見て帰るだけで済むかどうかね」
シャルロットの言葉に、エレナとリリアナは「だといいね……」と声を揃えた。
いつも周囲を振り回しがちなエレナだが、兄たちの破天荒さはそれを遥かに上回る。妹であるエレナ自身すら時にドン引きするほどで、四人の不安は隠せなかった。
「日程が決まったら連絡が来るみたいだけど、連絡と同時に到着する可能性もゼロじゃないし……」
エレナがつぶやくと、イザベラが居間の椅子に引っかかっている上着を指さした。
「エレナ、片付けておいた方がいいかも。ロイド兄様なら真っ先に注意されるわ」
「カイル兄様なら自分の上着を重ねて掛けそうね」
シャルロットの言葉に思わず笑いが漏れた。振り回されると分かっていても、再会自体は楽しみなのだ。
「まずは連絡を待ちましょう。今日は勉強会の途中だったわね」
シャルロットの一言で、四人は再び教本へ視線を戻した。
「連絡が来たらすぐ教えてね」
「誰が来ても、きちんと迎えよう」
固い約束を交わしつつも、テーブルの端に置かれた手紙が気になって、どこかソワソワと落ち着かない。それでもふと視線が合うたび、お互いの顔を見てくすくすと笑い合いながら、四人は穏やかな時間を過ごした。




