27.結局騒がしくなる
ーー
「うん。私も今、同じこと思った」
リリアナはエレナに顔を寄せたまま、室内をそっと見回した。
アレクシスは書類に目を通し、ルシアンは読書。セドリックはペンを走らせ、カイも壁際から動かない。聞こえるのは紙とペンの音だけだった。
「急に静かになりすぎじゃない?」
「私、こういうの無理かも……」
声を潜めて話していた二人だったが、静まり返った部屋では筒抜けだった。
「聞こえている」
本から目を上げずにルシアンが言う。カイも静かに続けた。
「最初からだ」
「「え……全部?!」」
思わず声を上げた二人を見て、セドリックがくすりと笑う。
「内緒話をするには向かない部屋ですよ」
「退屈なら、廊下の様子を確認させて帰してやってもいい」
アレクシスの言葉に、エレナの顔が一瞬ぱっと明るくなった。だが、すぐに「それはまずい」と思い直したように表情を引き締め、小さく首を振る。
「あ、いえ……退屈というか……皆さんは四人でいるときも、いつもこんなに静かなんですか?」
「話すことがなければな。困ったことはない」
「すごい……」
感心する二人をよそに、彼らは再び作業に戻ろうとする。気にしていない様子に、リリアナがエレナへ耳打ちした。
「……シャルやベラと話すときは、もっと穏やかだよね?」
「それ思った。私達にはすぐ不愛想になるのに」
「二人には何も言わずに庇うのに、私たちが隠れたら先に『何をした』って聞くし」
「聞こえていると言っただろう」
カイが顔を上げると、リリアナは開き直って彼を睨んだ。
「じゃあ、態度が全然違うのはなんでですか? 助けが必要なのは私たちも同じだよ!」
「だから連れてきた」
「引っ張るのは助けたことになりません!」
抗議する二人に向かい、カイは真顔で返す。
「理由を聞いたうえで、必要なら庇う。お前たちなら、説明の途中で相手に追いつかれるからな」
「私たち、そんなに説明長くないもん!」
「長いというより言い合いになる。……今日のことは疑って悪かったと言っているだろう」
「ルシアン様だって!」とエレナが矛先を向ける。
「イザベラにはそんな言い方しないよね?」
「イザベラ嬢は、届かない柱の上のものを一人で取ろうと奮闘したりしない」
「あと少しで届きそうだったの!」
「届かなかっただろう。……それにエレナは言い返す」
「言われっぱなしはいやだからです!」
二人の勢いに、セドリックがとうとう吹き出した。アレクシスが額を押さえる。
「……静かすぎると言ったのはお前たちだぞ」
「でも、まだ言いたいことは――」
そのとき、廊下から足早な足音が近づいてきた。
「この部屋だって聞いたけれど……中、賑やかね」
扉が開き、シャルロットとイザベラが入ってきた。二人は真っ先にエレナとリリアナへ駆け寄る。
「二人とも大丈夫? 廊下で連れていかれたって聞いて……」
「怪我はない?」
心配する二人にアレクシスが簡単に事情を説明し、非がなかったことを伝えると、シャルロットは安堵の息をついた。
「よかった……二人が喧嘩を始めたのかと思ったわ。外まで声が聞こえていたもの」
「喧嘩じゃなくて話し合いだよ!」
「言葉遣いも崩れているわ。殿下の前なのよ」
二人に挟まれて追及され、エレナとリリアナは揃って肩を落とした。
アレクシスはその様子を眺めていたが、やがて書類を置く。
「……もう取り繕う必要はない。私たちの前では、普段どおりに話せばいい。四人ともだ」
一拍の静寂の後、エレナとリリアナはパッと顔を輝かせた。
「殿下から直々に許可が出た! ラッキー!」
「ラッキーじゃないでしょう!」
すかさず叱るシャルロットに、セドリックが笑いながらイザベラへ声をかける。
「イザベラ嬢も、普段どおりで構いませんよ」
「ありがとうございます。ですが、私は今までどおりが話しやすいので」
シャルロットたちに促され、二人は帰り支度を始めた。扉際でリリアナがカイへ振り返る。
「カイ様、次からはちゃんと話聞いてね!」
「分かっている」
エレナも苦笑しながら男性陣へ手を振った。
「今日はお邪魔しました。……連れてこられたんだけどね」
「まだ言うのか」
四人が出ていくと、扉が閉まり、室内は途端に静まり返った。
アレクシスは書類に目を戻し、ルシアンは本のページをめくる。
「……静かになりましたね」
「元からこうだった」
カイの返答にセドリックが笑い、再び書類に向き直る。
ルシアンは本を見つめたまま、先ほどエレナが座っていた椅子へ一度だけ視線の矢印を向けた。
紙をめくる音だけが、部屋の中にやけにはっきりと響いていた。




