24.以外と几帳面
放課後、訓練へ向かう途中だったカイは、資料室の前を通りかかった。
普段ならそのまま通り過ぎる場所だったが、開いた扉の向こうに見覚えのある姿があった。
リリアナが一人でいる。エレナやシャルロットたちと一緒にいる姿を見ることの方が多いだけに、少し意外だった。
何気なく視線を向けると、リリアナは机の上の資料を丁寧に並べていた。表紙の向きを揃え、大きさごとに分け、紙の端までぴたりと合わせる。一度離れて確認し、ほんの少しずれていた一冊を直して「よし」と小さく頷いた。今度はペンを一本ずつ確認し、元あった場所へ戻していく。
可憐で大人しそうな見た目に反して、木に登ったり思い立ったらすぐ行動したりする印象が強い彼女だ。机の上を几帳面に整えている姿は、想像と違っていた。
「……何をしている」
「ひゃっ!?」
肩を跳ねさせて振り返ったリリアナは、「カ、カイ様!?」と驚き、見ていたと知るや顔を赤くした。
「い、いつからいたんですか!?」
「ついさっきだ。資料を並べていたあたりから」
「ほぼ全部じゃない……! 見てたの……?」
「ああ。恥ずかしがることか?」
「恥ずかしいよ! だって、私こういうの気にするタイプに見えないでしょ?」
「見えないな」
「そこは否定してよ!」
間髪いれずに返すと、リリアナは少し頬を膨らませた。だが、すぐに咳払いをして姿勢を正す。
「……コホン。その、私、何でも片付けるのが好きなわけじゃないですからね?」
「違うのか」
「違います。片付けること自体は面倒だし嫌い。ただ、変な場所にあると落ち着かないというか……ちゃんとした場所にある状態が好きなの!」
リリアナは一本のペンを手に取り、鞄の中まで見せてくる。そこには小物が綺麗に仕切られて収まっている。
「片付け好きではないのか。言っていることが矛盾しているぞ」
「矛盾してない! 例えば……エレナと散らかした後に『片付けよう』って言われたら面倒だけど、やり始めたらズレてるのが嫌なの。分かります?」
「……分からん」
「もう、全然分かってない顔だ……」
困ったように笑いながらも言い張るリリアナに、カイは首を傾げた。
「もういいです」とぷいっと横を向いたリリアナだったが、机の端の紙が一枚斜めになっているのに気づき、すぐに端を揃えた。
「……気になるのか」
「気になります。一瞬でもずれてたら嫌なんだもん」
一瞬のズレすら許せないらしい……カイにはやはり理解できなかったが、どこか面白くもあった。
作業を終えたリリアナは机から離れ、全体を確かめるように左右を見やった。
「完璧」
小さく満足そうに笑う。その表情にはどこか達成感があった。
見た目と行動のギャップが大きい人物だということは知っていたが、まだ知らない面があるらしい。カイが黙って見つめていると、リリアナが不思議そうに首をかしげ、距離を詰めてくる。
「カイ様? なんですか?」
「……いや。何でもない」
「怪しい。絶対何か考えてたでしょ?」
「近い」
「あ、ごめんなさい」と素直に下がり、鞄を持ち上げた。
「じゃあ私、帰りますね」
数歩進んでから、リリアナは思い直したように振り返った。
「あの! 今日こと、エレナには絶対内緒にしてね」
「なぜだ」
「『リリってそこだけ妙に細かいよね』って絶対笑われるから!」
「事実では?」
「カイ様!」
再び声を張り上げ、頬を膨らませたあと、気恥ずかしさを隠すように慌てて姿勢を正した。
「……とにかく内緒ですからね! では、ごきげんよう」
取り繕った挨拶を残して立ち去る背中を、カイは見送った。
静かになった資料室には、端まで整然と揃えられた資料が残されている。
木には登るし、片付けは面倒がる。なのに紙の端や小物の配置にはこだわる。
「……よく分からんな」
カイは小さく呟いた。理解はできないものの、先ほど満足そうに浮かべていた笑みが、なぜか妙に印象に残っていた。




