21.日頃の行いって大事
*シャル×ベラコンビの逆襲回です
その日、裏庭のいつもの席に集まっていた四人は、講義の雑談や最近の出来事について言葉を交わしていた。
楽しそうに笑うエレナとリリアナを眺めながら、シャルロットはふと思いを巡らせていた。
思えば昔から、二人の気まぐれには散々振り回されてきた。
思いつきで遠出しては迷子になり、面白そうだと言ってはトラブルを巻き起こし、そのたびに後始末をするのは自分とイザベラだ。もちろん嫌なわけではないし、そんな四人の関係性が心地いいのも事実だが――
(たまには……少しだけ困らせてみても罰は当たらないかでしょう)
ふと隣に視線をやると、イザベラもどこか遠い目をして二人を眺めていた。同じ思いを抱いていると察したシャルロットは、密かに声をかける。
「……ベラ、私たち日頃の仕返しをしてみてもいいと思わない?」
「……思う」
二人の間で静かに決意が固まった。向かいでは当の二人が「明日何しようかな」と何も知らずに能天気な声をあげていた。
◇ ◇ ◇
ーー翌日
午前の講義を終えたエレナが教室を出ようとすると、通りがかった他クラスの女子学生から「これ、頼まれたわ」と一通の折り畳まれた紙を渡された。
『急ぎ。東棟二階の資料室前まで来て』
見覚えのある筆跡。署名はないがシャルロットのものだと察し、エレナは東棟へ向かった。
一方、別棟のリリアナも同様に、見知った友人から手紙を受け取っていた。
『急ぎ。西棟一階の階段前まで来て』
イザベラの字だと直感したリリアナも、疑いもせず歩き出した。
だが、目的地に着いても二人の姿はなく、そこには「場所を変えました」と次の指定が書かれた紙が残されているだけだった。
本館、中庭、西棟、第二講義棟裏、東棟、図書室前――。
二人は何者かの手によって、アカデミー中を延々と歩かされていた。
「……流石におかしくない?」
手元に四枚目の紙を抱えたエレナが立ち止まったところで、向こうから同じく疲れ果てた様子のリリアナが歩いてきた。二人は互いの紙を交換し、顔を見合わせる。
「これ……シャルの字?」
「微妙に似てるけど、微妙に違う」
二人とも妙に負けず嫌いなので、仕掛けられたと悟りつつも「最後まで行って犯人を見つける」と怒りに燃え、さらに二箇所無駄に歩かされ、最後の紙に書かれた場所へ到着する。
裏庭からほど近い場所。紙には一言、『お疲れさま』とだけ書かれていた。
「「探そう」」
二人の判断は一瞬だった。
◇ ◇ ◇
ーーその頃
「思ったより引っかかったわね」
回廊を歩くシャルロットが楽しそうに呟くと、イザベラもどこか満足そうに口元を緩めた。
日頃から振り回されっぱなしのため、ささやかな仕返しである。途中で気付いても意地になって最後まで行く二人の性格を、完璧に計算し尽くした罠だった。
「これで少しは――」
言いかけたシャルロットが止まる。
回廊の向こうに、手に紙を握りしめ、青筋を立てたエレナとリリアナが立っていた。
四人の視線が交差する。
「ベラ」
「うん」
次の瞬間、二人は同時に踵を返して駆け出した。
「やっぱり二人じゃん!」「待ちなさいー!」
絶叫する二人に追いかけられ、シャルロットとイザベラは必死に走る。普段なら「廊下は走らない!」と注意する側の二人が、全力で逃走していた。
「待ちなさい! 待てって言われて待つ人いないでしょ!」
「正論っぽく言わないで!」
角を曲がった先――そこにいたのは、何やら打ち合わせをしながら歩いていたアレクシス、ルシアン、カイ、セドリックの四人だった。
怒相で迫る二人に、淑女らしさを捨てて逃げる二人。
四人は足をとめ、嵐のように走り去っていく彼女たちを見送っていた。
◇ ◇ ◇
体力の差は明白だった。中庭の手前で息を切らしたシャルロットとイザベラは、あえなく捕獲された。
「説明! なんでアカデミー中歩かされたの!?」
「だいたい、講義中の私達にどうやって手紙を渡したのよ! 手際が良すぎるでしょ!」
荒い息を整え、シャルロットはすまし顔で微笑んだ。
「日頃の行いが良いから、快く手伝ってくれる方がすぐに見つかったのよ」
「う……! 日頃の行いとか言わないで……!」
「それを言われると、ぐうの音も出ない……!」
自覚があるだけに、二人は顔を歪めて心底悔しそうに歯噛みした。
「それに、いつも私たちがどれだけ振り回されているか、少しは分かった?」
イザベラと二人がかりで「急な予定変更」「近道での迷子」「巻き込み後始末」の被害録を淡々と並べ立てると、エレナとリリアナはますます反論できなくなり、気まずそうに視線を泳がせた。
「……ちょっとだけ、反省したけど……でもやりすぎ!」
「途中でやめてもよかったのよ? そこまで計算通りだったけれど」
「私達の性格を悪用しないで!」
「大成功ね」「ええ、とっても楽しかったわ」
追及をのらりりとかわしながら、シャルロットとイザベラは顔を見合わせ、声を合わせて楽しそうに笑い合った。
そこへ追いついてきたアレクシスたちの足がぴたりと止まる。
イザベラの弾けたような普段見た事ないような満面の笑顔に、四人は一瞬呼吸を忘れたように驚き、その場で呆然と立ち尽くした。
その中でも特に、セドリックだけは完全に言葉を失い、吸い寄せられるようにその笑顔に見惚れて佇んでいた。
だが、彼らはハッと気を取り直すと、一体何があったのかと事情を尋ねる。
事情を聞いたカイとルシアンは「普段のお前たちを見ていれば気持ちは分かる」「裏切り者!?」と即座にシャルロット側に付き、セドリックは「完璧な計画ですね」と楽しそうに感心している。
そんなやり取りを横目に、シャルロットはすまし顔のままアレクシスに向き直った。
「淑女らしくない走り方でしたわね」
「……ああ」
「たまには、です。……捕まりたくありませんでしたので」
「そうか」
抗議する側と笑う側が完全に入れ替わった賑やかな放課後は続いていく。
イザベラとシャルロットは、もう一度視線を交わし、大満足の笑みを深めるのだった。




