2.女子会にて
*重複箇所を修正しました
*エレナ視点です
その日の授業が終わると、私はシャルロットと一緒に校舎裏の庭へ向かった。
大きな木と古びたベンチが一つあるだけで特に目を引くような場所ではないが校舎から少し離れていることもあり、人通りが少なく静かな場所だ。
私たち四人は、毎日というわけではないがたまに裏庭に集まり話しをする。
本来、話をするだけなら私――エレナと、シャルロット、リリアナ、イザベラは、現在同じタウンハウスで暮らしているのだから家でもできる。
私たち四人は、幼い頃からの幼なじみだ。
シャルロットは穏やかでしっかり者。
外では完璧な淑女そのものだが、私たちの前では遠慮なく注意を飛ばしてくる。主に私の暴走を止める係である。
リリアナは明るくてノリがよく、面白そうなことを見つけるとすぐに首を突っ込む。
大人しそうな見た目とは裏腹に、私と一緒になって騒ぎを起こすことも多い。
イザベラは四人の中で一番落ち着いていて、何かと私たちをまとめてくれる
人見知りでたまに妙なところで天然だったりする所が面白い。
そして私は――まあ、自分のことはいいだろう。
それぞれの家が治める領地が比較的近いうえ、親同士も昔から親しいため幼い頃から互いの領地を行き来する機会が多く、物心ついた頃にはすでに四人で一緒に遊んでいた。
そんな私たちが一つ屋根の下で生活するようになったのは、王立アカデミーへ通うことになったからだ。
私たちの領地はいずれも王都から遠い。
毎日のように領地と王都を往復することなど、当然できるはずもない。
そのため入学が決まった当初は、それぞれの家が王都に所有するタウンハウスで暮らすか、アカデミーの寮へ入る予定だった。
けれど、その話を聞いた親たちが考えたらしい。
"どうせ四人とも同じアカデミーへ通うのなら、王都で別々に暮らす必要はないのではないか"と。
それぞれが別の屋敷や寮で生活するよりも、幼い頃から一緒に育った私たちが同じ場所で暮らしているほうが、親としても安心できる。
そうして、私たちはシャルロットの生家である公爵家が王都に所有するタウンハウスで、一緒に暮らすことになった。
もちろん、貴族の屋敷なので本当に私たちだけで暮らしているわけではない。
屋敷の管理を任されている使用人たちもいるし、食事や身の回りのことをしてくれる者たちもいる。
そのため王都にいる間、私たちは同じ屋敷からアカデミーへ通い、同じ屋敷へ帰る生活を送っていた。
朝になれば顔を合わせる。
アカデミーでも顔を合わせる。
帰ればまた顔を合わせる。
考えてみれば、一日の大半を一緒に過ごしている。
だから、わざわざ放課後に裏庭へ集まる必要などない。
ないのだけれど、なぜかたまに集まってしまうのだ。
誰かが「ちょっと裏庭に行かない?」と言い出したり、帰るには少し早かったり、その日の出来事を今すぐ話したくなったり。理由など、その程度のものである。
そうして四人でベンチに座り、どうでもいい話をしてから帰ることが、いつの間にかそれも私たちの小さな習慣になっていた。
性格がまるで違うからこそ、幼い頃から一緒にいても、今こうして同じタウンハウスで暮らしていても、飽きないのかもしれない。
庭へ着くと、ベンチにはすでにリリアナとイザベラがいた。
どうやら二人は、私たちより先に授業が終わっていたらしい。
私たちが遅いと言われたので、こちらは向こうが早かっただけだと言い返す。
結局、イザベラに軽く叱られながら、私とシャルロットもベンチへ腰を下ろした。
授業が疲れただの、午後の講義が長すぎただの、先生の声が途中から子守歌にしか聞こえなかっただの。
内容のない話を延々と続ける。
私とリリアナが騒ぎ、イザベラが呆れ、シャルロットがそれをツッコミを入れる。
どうせこのあと同じタウンハウスへ帰るのだから、続きは家で話せばいい。
それでも、こうして裏庭でくだらない話をする時間が、私たちは結構好きだった。
しばらくして、私はふと今朝の出来事を思い出した。
廊下にできていた、あの大きな人だかりのことだ。
話を振ってみると、どうやらリリアナとイザベラも遠くから見ていたらしい。
やはり相当目立っていたようだ。
私とシャルロットが人だかりのせいで遠回りする羽目になったことを話すと、イザベラも呆れたような顔をした。
人が多い時間帯なのだから、せめて廊下の端へ寄ればいいのに男たちも令嬢たちも、周囲が見えていなかったのだろう。
そんな話をしているうちに、ふと疑問が浮かんだ。
"あの四人はいったい誰だったのか"
四人揃って、名前を聞く事も無かったので誰も答えられなかった。
だが、名前を聞いていなくてもそこまで興味も無いのだから何も困らないと全員、その結論で一致した。
あれだけ令嬢が集まっていたのだから、おそらく有名な人たちなのだろう。
けれど、どれほど身分が高かろうと、有名だろうと、廊下を塞いでいい理由にはならない。
私は今朝の光景を思い出した。
大勢の令嬢に囲まれ、その中心に四人並んで立っていた男たち。
ーーやっぱり、どう見ても壁だった
「四人なら、城壁じゃない?」
何気なく呟いたらその言葉を払ったリリアナが少し考え言った事に思わず納得した。
確かに、壁というより城壁だ。
無駄に背も高かったし、四人も並べば圧迫感も相当なものだった。
シャルロットは笑い、イザベラは本人たちに聞かれたら嫌がるだろうと呆れていた。
けれど、別に本人たちへ直接言うわけではないし、そもそもこの裏庭は校舎から少し離れていて、人通りも少ない。
ましてや、名前も顔も知らない男たちがここへ来る理由も無いだろう。
この時の私は本気でそう思っていた。
――まさか、私たちが『城壁』と呼んでいたあの四人と、これから何度も顔を合わせることになるなんて知る由もなかった




