19.壁は意外と頼りにならない
*前回の続きですが今回はリリアナ視点です
「リリー!」
「うん!」
「あっち!」
「賛成!」
私とエレナは廊下の先にいる二人―ーアレクシス殿下とセドリック様に向かって走り出した。
こちらに気づいた殿下が眉を上げ、セドリック様はこちらの勢いから何かを察したように息をつく。
二人の前に到着するなり、私たちは迷わずそれぞれの背後へ駆け込んで隠れた。
数秒の静寂の後、ゆっくり振り返ったセドリック様の顔には「やっぱり」と言わんばかりの苦笑が浮かんでいる。
「リリアナ嬢。……説明を聞くまでもなさそうですね」
「何も聞かずに匿ってください」
「追われるような顔をしている人に、それは難しい提案です」
「顔だけで決めつけないでください」
「十分、分かりやすいですよ」
隣では、エレナが殿下に「後で説明するから匿って」と交渉しているが、「理由次第だ」「じゃあ言わない」と完全に難航している。
人を隠れ蓑にする作戦は、早くも暗雲が立ち込めていた。
そのとき、廊下の向こうから聞き覚えのある声が聞こえた。
「……エレナ? リリもいるわね……」
声の主はシャルロットだった。
こちらへ歩み寄ってきた彼女は「あなたたち、何してるの?」と不思議そうに眉をひそめる。「イザベラから避難中」と答えると、その足をピタリと止めた。
絶対に見方をしてくれないシャルロットを前に、私たちはセドリック様たちの背後へさらに身を潜める。
「リリアナ嬢、もう諦めた方がいいのでは?」
「まだです。運命と戦っています」
「大げさですね」
セドリック様はあきれ顔で苦笑するばかりで、完全に助ける気はないらしい。
さらに嫌な予感がして廊下の向こうを見ると、イザベラ、ルシアン様、カイ様の三人が歩いてきた。
逃げ道はなく、状況は完全に詰んでいる。けれど、私とエレナは諦めるつもりなんて微塵もなかった。
必死で背中にしがみつき、最後の抵抗を試みる。
しかし――
「いい加減にしろ」
「往復生は悪いですよ。潔く諦めてください」
アレクシス殿下とセドリック様によって、私たちは背中をつままれるようにしてあっけなく前に押し出されてしまった。
丸腰でイザベラの前に差し出された私たちを余所に、イザベラが事の顛末を説明し始める。備品庫にあったおもちゃで驚かされたことや、固まった姿を見て私たちが笑ったことを。
シャルロットに「何してるの?」と呆れられ、エレナが「だって本当に驚いてたんだよ」と余計な一言を口にする。「今それ言う!?」と焦る私だったが、思わず「でも面白かったよ」と同意してしまい、二人揃って「黙りなさい」と叱られた。
後ろを見ると、男性陣もそれぞれの反応を見せている。呆れ顔のルシアン様とカイ様。苦笑するセドリック様。そして、わずかに口元を緩めているアレクシス殿下。
「殿下、笑っていませんか?」とシャルロットに追及され、「気のせいだ」とすまし顔で返す殿下を見て、エレナが「殿下も怒られてる、仲間だね」と小声で囁く。もちろん「そこ、喋らない!」と一蹴された。
結局、素直に謝ったことでイザベラも「もういい」と許してくれた。
「廊下を走るのも、人を勝手に盾にするのもやめなさい」と言うシャルロットに、エレナが「いざという時便利だから……」と口を滑らせて再び怒られる横で、男性陣が「昨日の予想が一日で当たったな」「言うな」と何やら話している。
とりあえず、今日分かったことは一つ。
人を壁にして隠れる作戦は、思っていたほど頼りにならない。
特に、当の人たちに匿う気がないときは。




