13.よりによって二人に見られていました
夕暮れが近づく放課後、王立アカデミーの廊下
昨日の光景が頭から離れないルシアンとアレクシスは、静かに歩みを進めていた。
一般闘技場で見かけたあの姿――意地を張り合って泥臭く打ち合い、最後は素手で組み合っていた二人の姿は、強烈な残像として脳裏に焼き付いていた。
そもそもあの二人とは、最近まで互いを認識すらしていなかったはずなのだ。
隠していたわけではないだろうが、まさか社交場で見せる顔の裏にあれほど鋭い剣技と武術を秘めていたとは……
「あ、ルシアン様、アレクシス様。ごきげんよう」
向かいから歩いてきたエレナとシャルロットが、完璧な公爵令嬢として優雅にお辞儀をする。
その立ち振る舞いからは、昨日「次は武術よ!」と叫んで足を払っていた人物と同一とは思いきやれない。
「……ごきげんよう、シャルロット嬢」
アレクシスが応じるものの、その言葉の端々には、どこか落ち着かない揺らぎがあった。
隣に立つルシアンは、相変わらず無口なまま、ただじっとエレナを見つめている。
「……ルシアン様? わたし顔に何か付いてる?」
首をかしげるエレナに、ルシアンは淡々と呟いた。
「いや……今日も『運動』の予定でもあるのかと思ってな」
「「えっ!?」」
エレナとシャルロットの肩が同時に跳ねる。
「……な、何のことかしら? 私はこれから図書室で予習を……」
「そうそう! わたしもシャルのお手伝いで……!」
露骨に動揺し、目を配せ合う二人。
アレクシスはそっと言葉を添えた。
「昨日、一般闘技場を通りかかってね。……見事な剣筋だった」
「「ーーッ!?」」
一瞬で雰囲気を乱す令嬢二人。
人に見られること自体を隠していたわけではない。ただ、完璧な令嬢として振る舞ってきた手前、自分たちがムキになって組み合っていた泥臭い姿を、よりによってこの二人にバッチリ見られていたという事実が、たまらなく恥ずかしかったのだ。
「見、見られて……っ!?」
「ちょっとアレクシス様! どこから見てたの!?」
普段の取り繕った面はあっさり剥がれ落ち、昨日と同じように声に感情を乗せるシャルロットと、慌てふためくエレナ。そんな二人のあまりに人間らしい反応に、ルシアンとアレクシスは胸を突かれていた。
「あまりに隙のない立ち回りだったからな。……つい見惚れてしまっていた」
ルシアンの口から出た率直な言葉に、エレナは言葉を失って完全に固まる。
「今度は騎士科の闘技場にも来るといい。手合わせ願えるなら、光栄だ」
アレクシスもまた、どこか楽しげに告げた。
「い、いやいやいや!」
「昨日のはただの運動だから! 本当に!」
「そうです! 別に人様にお見せするようなものでは……!」
真っ先に我に返ったエレナが両手を振る。
シャルロットも必死に取り繕おうとするが、説得力はほとんどない。
それを見たアレクシスの口元が、わずかに緩んだ。
ルシアンも何も言わなかったものの、その目には明らかに先ほどまでとは違う色が浮かんでいた。
昨日までは、エレナとシャルロットは、少し変わった令嬢たちだった。
だが今は、それだけではない。
少なくともルシアンとアレクシスにとって、二人を見る目がほんの少しだけ変わってしまったことだけは確かだった。




