12.ダイエットのはずが、模擬戦になりました
夕暮れが近づき静まり返る王立アカデミーの奥。生徒に広く開放された一般闘技場から、乾いた音が響いていた。
カンッ!
夕日を弾き、鋭く交差する二本の模擬剣。制服の上着を脱ぎ捨てたシャルロット・ヴェイロンとエレナ・ノワールが、理由あって剣を交えていた。
「昨日のケーキ、絶対食べすぎた……! シャルだって二個食べたじゃん!」
「私は二個よ、あなたの三個と一緒にしないで! その一個が大きいの!」
「一個しか違わないってば!」
踏み込み、受け、切り返す。かつてエレナに引っ張られる形で剣術や武術を始めたシャルロットだったが、今では迷いのない洗練された動きを見せていた。貴族令嬢の嗜みや社交に追われる日々の中、二人にとってこれは運動不足解消と気分転換、そして何より――ダイエットを兼ねた昔馴染みの時間だった。
だからこそ、二人は気づいていない。
騎士科専用の闘技場へ向かう途中で足を止めた、ルシアンとアレクシスの視線に。
騎士科に用があって通りかかった二人は、あまりに鮮やかな二人の打ち合いから目を離せずにいた。
いつもは落ち着きのないエレナが見せる隙のない鋭さ。
乱れる髪も気にせず本気で挑むシャルロットの凛とした表情。
いつしか二人は呼吸を忘れ、無意識にその姿へ見惚れていた。
カァンッ!
勝負が動き、シャルロットの模擬剣が地面を転がる。
「よし、一本!」
「剣術はあなたの勝ちね。……次は武術よ!」
「えっ、ちょっ――!?」
ムキになったシャルロットが踏み込み、そのまま素手の組み手へと突入する。手首を外し、足を払い、腕を掴み返す。
「ちょっと! なんで武術に移行してんの! これダイエットでしょ!?」
「運動になっていれば同じよ!」
揉み合いながらも楽しそうに笑い合う二人は、最後まで男たちの存在に気づくことはなかった。
その日の夜。
自室で過ごすルシアンとアレクシスの脳裏には、昼間の光景が焼き付いていた。
鮮やかな剣筋と感情豊かな表情。いつもとは違う一面に魅せられた胸のうずきを、二人はただ静かに反芻していた。




