103.夜市へ行こう!②
食事を終えて片付けを済ませると、一行は再び夜市へと繰り出した。
飲食の屋台ばかりを巡った先ほどとは違い、装飾品や工芸品が並ぶ通りには、射的や輪になった紐を投げて遊ぶ露店が数多く並んでいる。あちこちから楽しげな音楽が聴こえ、そのリズムに合わせて踊る人々の姿も見られた。
「王都でも夜市が開かれているのは知っていたが、また違った雰囲気だな」
「ここの夜市は、奥に進めば進むほど娯楽のお店が増えるんだよ。大抵の夜市は色んな屋台が入り混じっているけど、ここは手前で飲食を済ませて、奥で遊べるような作りになってるの。あんまり奥に行きすぎると治安が悪くなるけど、この辺りなら大丈夫だし、十分楽しめると思う!」
「なるほど」
エレナの説明を聞いて納得したアレクシスは、改めて周囲を見渡した。
自身の知る夜市は飲食店や露店が混在しているものが多かったが、ここは目的ごとに区画が分かれている。そのため治安維持の兵士も効率よく配置できるようになっており、非常に理にかなっている。
「この奥に広場があるから、そっちに行ってみよう!」
エレナの提案にうなずき、一行はさらに足を進めた。
◇ ◇ ◇
広場に着くと、男たちの歓声があがっている人だかりが目に入った。
「何してんのかな?」
足を止めてその方向を見つめていたエレナの目が、一気に輝いた。
「ちょっと見てくる! みんなは適当に回ってて!」
「あ! ちょっと、エレナ!!」
制止する声も聞かずに走り出したエレナを追いかけようと、足を踏み出したシャルロットに声がかかる。
「俺が行く」
ルシアンはアレクシスへ一度視線を送り、頷いたのを確認すると、すぐさまエレナの後を追って走り去っていった。
「もう!本当に自由なんだから!」
呆れたように息をつくシャルロットだったが、エレナの気持ちを知っているだけに、ルシアンの素早い行動を見て内心楽しくてたまらない。
「ルシアンが行ったので大丈夫でしょう。我々も近くを見て回りますか?」
「そうだな。そのうち戻ってくるだろう」
セドリックの提案にアレクシスが同意すると、シャルロットも頷き、近くの露店から順に見て回ることにした。
◇ ◇ ◇
「遅いわね」
露店を巡り、各自が思い思いに買い物を済ませても一向に戻ってくる気配がないふたりに、シャルロットが心配そうに呟く。
「確かに。何かあったのでしょうか? 少し様子を見に行ってみますか?」
「そうだな」
他の三人も気になっていたのか、エレナたちが向かった方向へと足を向けた。
人だかりに近づくにつれ、先ほどよりも大きな歓声が響いてくる。その中に聞き慣れた声が混じっていることに気づいた四人は顔を見合わせると、声のする方へと足を進めた。
「ルー!!そこ!!いーー」
「エレナ?何をやってるの?」
後ろから聞こえたシャルロットの声に勢いよく振り返ったエレナは、すっかり興奮した様子で話し始めた。
「今、力比べ大会しててさ!優勝賞品がすごく綺麗な石で、飛び入り参加もできるって聞いて私も出ようと思ったんだけど、男性限定だったからルーにお願いして出てもらったの!」
そう言って指差した先には、袖を捲り、木箱の上で男と腕を組んで向かい合っているルシアンの姿があった。
ルシアンが着ていた上着は、エレナがしっかりと抱えている。
「何をやっているんだ、あいつは…」
呆れるアレクシス、セドリック、シャルロットとは対照的に、カイは話を聞いた途端に興味津々な様子で見入っていた。
「飛び入りでも参加できると言ったな?」
「うん! カイカイも参加してきなよ!」
エレナの言葉に目を輝かせたカイは、アレクシスに許可を取ると、自身の上着をセドリックに預けて颯爽と中央へ向かって行った。
カイの生き生きとした様子に呆気に取られていたシャルロットも、盛り上がり出したアレクシスたちの声に我にかえり、諦めたように観戦へ加わった。
◇ ◇ ◇
その後、大会はさらなる熱気に包まれ、決勝戦ではルシアンとカイの勝負に観客が大いに沸いた。
どちらが勝ってもおかしくない接戦で、連戦のルシアンに比べ、体力を温存しているカイに軍配が上がるかと思われたが、最後の最後で底力を発揮したルシアンの勝利となった。
悔しそうな顔をするカイをよそに、涼しい顔で賞品を受け取ったルシアンは、歓声を背に浴びながらエレナたちの元へと戻ってきた。
「ほら」
そう言ってエレナに差し出した石は、男性の拳よりも大きく幻想的な光を放っている。
「え?本当に貰っていいの?」
「お前が欲しいって言ったんだろ」
「ルー!!ありがとう!!」
そんなふたりの後から、カイが何やら抱えて戻ってきたのが視界に入り、全員の視線が集中する。
「カイ…それは?」
「盛り上げたお礼にと貰った」
セドリックが引きつった顔で尋ねると、カイは何でもない様子で答えた。
カイが抱えているのは、大きなウサギのぬいぐるみだ。真っ白なウサギにピンクのドレスが着せられた、何とも可愛らしい装いになっている。
大柄で無骨な印象のカイと、愛らしいぬいぐるみの組み合わせがあまりにも不釣り合いで、エレナとシャルロットの口元が緩んでいくのがわかった。
「カ……カイカイ!! ぬいぐるみが全く似合ってない!!」
エレナが爆笑し始めると、シャルロットも耐えきれないとばかりに肩を揺らす。その楽しげな様子に引きずられるように、セドリックとアレクシスも笑いを堪えている。
「いるか?」
笑いすぎて目元に浮かんだ涙を拭うシャルロットの前に、ぬいぐるみが差し出されたが、大きく目を見開いた後、首を横に振る。
「ありがとうございます。こういったものはリリが好きなので、気持ちだけ受け取っておきますね」
そう言って微笑むシャルロットだったが、大きなぬいぐるみを持ったままでは護衛もままならないということで、宿まで運んでもらうことになった。
その後、再び露店や屋台を巡った一行は、大いに楽しんだ。射的では的に矢を当てて賞品を狙い落とす店で、エレナやシャルロットの想像以上にセドリックが腕前を発揮し、大絶賛を浴びていた。輪投げでも、器用に次々と投げ入れてみせ、その度にエレナとシャルロットから歓声が上がる。
夜市を大いに満喫した一行は宿に戻ると、楽しかった余韻に浸りながら、心地よい眠りにつくのであった。




