90.ヴェイロン領
夕暮れを迎える頃、一行はヴェイロン公爵領へと到着した。
ノワール領とはまた違った賑わいを見せる街並みを抜け、馬車がヴェイロン公爵邸の門をくぐると、窓の外を眺めていたエレナは向かいに座るシャルロットに向き直る。
「エレナが来るのも久しぶりね」
「女学院を卒業してからは来てなかったからね。おじ様たちに会うのも久しぶりだから楽しみ!」
会話を交わしているうちに馬車は玄関前へと滑り込み、そこには一行の到着を待つヴェイロン公爵夫妻の姿があった。
「殿下!ようこそヴェイロン領へお越しくださいました!」
ヴェイロン公爵が一礼すると、アレクシスも挨拶を返す。
「突然の訪問にもかかわらず、快く迎えていただき感謝する。数日間、世話になる」
「とんでもございません。殿下をお迎えできるとは光栄です。どうぞごゆっくりお過ごしください」
挨拶が一段落したところで、公爵夫妻はシャルロットとエレナに声をかける。
「お帰り、シャルロット」
「ただいま戻りました、お父様、お母様」
「おじ様、おば様!お久しぶりです!」
「エレナ!久しぶりだな!」
「しばらく見ない間に綺麗になって!元気にしていた?」
久しぶりの再会に話が弾みかけたところで、ひとまず落ち着こうと屋敷の中に案内されることとなった。
その夜の晩餐で、アレクシスたちはシャルロットの妹であるエミリアの紹介を受けた。
晩餐を共にしたエレナが話すノワール領での出来事は公爵夫妻にとっても興味深かったようで、グレンやロイドたちの話が出るたびに笑いが起こる。アレクシスたちの話にもヴェイロン夫妻は興味津々で、訓練の話では本気で同情されていた。
久しぶりに会うシャルロットの家族との会話はエレナにとっても実に楽しいもので、食卓は終始賑やかなひとときとなった。
◇ ◇ ◇
翌日、朝食を終えたアレクシスたちは、早速シャルロットの案内でヴェイロン領の視察へと向かうことになった。
「本日は街の中心部をご案内しようと思っています。領内は広いので、本日だけで全て回ることができませんが……」
「構わない。まずは主要な場所を見せてもらえれば十分だ」
「承知いたしました」
アレクシスの返事にシャルロットが頷くと、二人の会話を聞いていたセドリックが尋ねる。
「そういえば、皆さんが通われていた女学院はこちらでしたね」
「はい。私たち四人とも、こちらの女学院を卒業しております。私以外の三人は寮生活でしたので、ほとんど毎日一緒に過ごしていました」
「それなら、その女学院も一度見てみたいですね」
「もちろんです。では、そちらにもご案内いたしますね」
セドリックの言葉に一同が頷き、ヴェイロン領の中心都市へと向かった。
始めに訪れたのは女学院で、重厚な鉄門の奥に美しい校舎が佇んでいた。
さすがに女子生徒たちが学ぶ場とあって校舎内までの見学は叶わなかったものの、一行を出迎えた学院の職員から、女学院の辿ってきた歴史や教育内容について丁寧な説明を受けることとなった。
「噂には聞いていましたが、王立学園とは違い、淑女教育以外にも専門的な学問に力を入れているのですね。非常に興味深いです」
セドリックの言葉にアレクシスも同意する。
「専門課程によっては、アカデミーにも匹敵する内容もあるな」
二人の感心したような言葉に、案内していたシャルロットは胸を張る。
伝統を守りつつも、さまざまな知識を授けるこの女学院は、彼女にとっても大切な母校であり、ヴェイロン領の誇りでもある。
校舎を遠目に見つめるシャルロットの瞳には、かつてここで過ごした大切な思い出が映っていた
「皆様にそう言っていただけて光栄ですわ。では、次は街の方へご案内いたしますね」
一行は再び馬車へ乗り込むと、ヴェイロン領の中心である商業区へと向かった。
馬車が目的地へ近づくにつれて外の喧騒が大きくなり、窓の外には賑やかな街並みが広がり始める。ノワール領とはまた異なる活気に、アレクシスたちも興味深そうに視線を向けていた。
やがて馬車が停車し、通りへと足を踏み入れると、色とりどりの店舗と所狭しと並ぶ特産品が目に映る。
「非常に活気があるな」
行き交う人々の表情を見渡しながらアレクシスが口にすると、シャルロットは嬉しそうに頷く。
「公爵領の経済の要でもありますので、様々な国や領地からの品が集まってまいります」
領地の豊かな発展ぶりを頼もしく見つめるアレクシスに、シャルロットは誇らしそうに微笑みながら、さらに通りの奥へと一行を導いていった。




