第五話
「ここじゃ」
食事タイムにこっそりと四層と三層に存在する廊下に忍び込み、ユーフリアとシュタルクは自らの手にランプを持ちかける。
場所は薄暗く、閑静のあまり一滴の水が落ちるのを耳に入れる。
事前に話し合った結果、二人はある『特殊罪人』に打ち合う予定である。本来は立入禁止の場所の一つ。
二人が足を歩ませ、気づいたら扉の前に到着した。シュタルクは声を上げ「おい、ユカリ、いるか?」と呼ぶ。
だが、扉の向こうには返答はおろか、反応すらなかった。留守していると思えるかもしれないが、現事態ではユーフリア達に残される時間は僅かである。
故にシュタルクは荒く扉を開いて、そこで立ちながら出迎えた女がいる。
「相変わらずうるさいジジイだね、シュタルク。僕に何の用?」
「そっちこそ相変わらず辛辣な口じゃのお」
出迎えたのが故障した魔道具の山や一人の細長い女、白肌に茶色の髪。女ユカリは腕を組み、自分の瞳を尖らせる。明らかに歓迎されていないっぽい。
「隣にいるのは例の?」
「あぁ、そうじゃ」
「初めまして、ユーフリアです」ユーフリアは頭をゆっくりと下げて、挨拶する。だが、彼女が一番目を奪われたのが、地面に散り張っている故障した魔道具。それを一つずつ触りたいところだが、
「さて、玄関で突っ立ってないで、早く座りたまえ。水を用意してやる」ユカリはすぐに指摘した場所に座るようと話す。
シュタルクとユーフリアは指摘された場所に座って、ユーフリアは心中に小さいがっかり感が宿る。
ユカリは水を持ちかけ、二人の前に座る。だが、二人とは違う態度で、ユカリはどんと机の上に足をのせている。次第に凶悪な笑みを浮かぶ。
「で、情報が欲しいだったね、何が欲しい?ちゃんとした報酬も用意したよね?」
その凶悪な笑みの前でユーフリアは唾を飲む。緊張のあまり、しばらく静かになった。
だけど、その静寂はすぐに終わり、ユーフリアは口を歪める。
「はい、報酬は用意してあります」
ユーフリアは自分のポケットから布に包まれるものを出し、布の網を解く。そこからキラキラとした虹色の小石が数十個並んでいる。
「これは魔鉱石です。幾つか情報を知りたいのですが……」
見つめるユカリはしばらく目を魔鉱石に移す。
じっくりと堪能次第に、ユカリは再びユーフリアの方へ戻す。
「魔鉱石、いったいどんな情報が知りたい?」
「三層に警備担当の兵士の数、位置情報、監獄のシステムや監獄の秘密経路などです」
「などって言われても、具体的には?」
ユカリは眉を上げて、苛立つように見えた。
ユーフリアは自分が口に出した要求がまだはっきりしていないと気づき、改めて要求を明白にする。
「そうですね……、後一つ知りたい情報があります。シュタルクおじさんや他の囚人の皆さんから貴女が情報屋だと聞いて、後一つだけお聞きしたいのです…それは、最近の出来事に関する情報です」
ユーフリアは己の目的を相手に打ち明けし、確固たるものを要求する。
とはいえども、ユカリは欠伸をし、退屈そうな顔をしている。「どう…でしょうか?」
「あ、すまない。でも、実を言うと、そんな大量の情報を要求されれば、僕は嫌がるね」
「どうしてですか?」と頭を傾げるユーフリア。
そんな彼女の態度にユカリは吐息を漏らす。
「はぁー、普通に足りないよ。魔鉱石数十個だけでは物足りない」
「なっ!」
「これがレアアイテム一位の魔鉱石である事は知っている。実に良い宝物だ。でもねぇ」
ユカリは一瞬で自分の雰囲気を変える。
より鋭く、より圧さをます。その言葉一つ一つがだんだんと尖れる。
「僕は金……あるいはそれ以上の相対するものが欲しいんだよ。それが何か、当てられる?」
「ゴクリ…それは?」
「楽園さ。ユーフリア、君だって耳にしただろう」
楽園―――その一言すら人に希望を与えてしまう。ユカリは特殊罪人で、その目には強欲に溢れる。
同時に凶悪な笑みには気持ち悪さを覆わせる。
この者が『特殊罪人』と呼ばれる理由がわかった。多分と、ユーフリアは思う。
「楽園ですか?」
「ああ、そうだ。僕はその楽園のためなら、何でもするさ。体を売っても良い、設計図を何度作ってもいい。ユーフリア、君が提供したのはそのほんの一部に過ぎないのだ」
ユカリは唐突に興奮になり、全身を伸ばす。
その生き様にユーフリアは驚愕し、どう答えるか分からなくなってしまった。
この特殊罪人はイカレルと独自の防御が発動するユーフリア。
ユーフリアは傍に座るシュタルクに密かに対話する。
「おじさん、この人って、どうかしてる」
「知っとる」
「どうかね?」
密かに話している途中で、ユカリは己の笑みを止められなかった。
ユーフリアその笑みで固まった。
「えっと……私はその楽園を持っていないです」
「ああ、知っているとも」
「だから、魔鉱石しか持っていない私は楽園を与えません。ですが、一つだけ言わせて貰います」
ユーフリアは視線を尖らせ、目の前の相手に成立できる話を作らなければならない。周囲を見渡し、状況を整理してみる。
「その瞳で、楽園が本当に存在していると思うのですか?」
「―――!」
ユーフリアが堂々と指摘する。そして、ユーフリアが一番指摘したいところを自分の目で襲っている。
そうだ。それは瞳だ。
「シュタルク。あんた、バラしたのか?」
一切水を取らないシュタルクは話にひきづられる。
シュタルクはただへらへらと笑みを浮かべ、
「ふん、ワシはお前の『魔眼』のことを一生隠す気はおらん。責めたければ、当時のお前に責めてこい」
シュタルクの一言でユカリは一瞬自分の怒りを爆散させたくなる。だけど、単なる挑発にすぎないと即我に返ったユカリは改めて椅子に戻り、最初の姿勢に戻った。
「じゃあ、情報は話してあげる。代わりに僕の『魔眼』は一生隠しておけ」
「私ならその瞳の秘密を守れますよ」
「ワシは約束しないんじゃぞ」
「ちっ、ジジイめ」
ユカリはできるだけ、短時間で話を続けた。時間が有限であるゆえ、シュタルクとユーフリアは約三日間を経て、完全な情報を入手した。




