第四話
リフトの滑車がゆっくりと作動し、約三人分が入れるリフトとなっていた。
その中ではユーフリアやシュタルク、そして偶然にも出会したバービである。
リフトの中は沈黙し、空気が重たく感じる。
重たい空気を読み取ったユーフリアはどうにも話題を入れづらい。
適当に何かを話す前に
「くっそどもが」
シュタルクは突然リフトの壁を蹴っていた。
「おじさん、落ち着いて」
「落ち着けられるか!」
ユーフリアは慌ててシュタルクを引っ張って、宥めようとしている。
幸い、シュタルクが蹴っていたリフトはあまりぐらついていない。
ただ、ほんの少しだけの揺らぎがあった。
「うっさいよ、シュタルク」
二人の会話に割って入ったのはバービーである。彼女は腕を組み、毒舌でシュタルクに言った。
多分、今朝の事件で頭が来ているらしい。
「あのお、バービー…お姉さん?」
「何?」
「眉間、凄く怖いので、一旦落ち着きましょう、ね?」
「……はあ、わかった…そうしようかな」
シュタルクやバービーを宥めるのに成功したユーフリアは内心で勝負を優勝したように喜ぶ。
こうして二人の喧嘩は抑えられ、何とか無事に終えた。
「おじさん、バービーお姉さん。ちょっと聞いていい?」
暫く静寂に戻ったが、ユーフリアは空気が再び重たくならないよう、話題を入れた。
硬くなった彼女は頬を掻いて、話を続く。
「今朝の事、どう思いますか?」
「どうって?」
「私は実はちょっぴり気になったんですけど」
ここ数日において、色々な事や情報が耳にしていた。そして最後に前回起きたことにユーフリアの好奇心はそそられる。
龍の噂話、いかにそれが御伽話であろうが、ユーフリアはそれを実在したものだと信じたい。
「実は私は新人が入る度にこっそり話していたんですよ。面白い外の世界の話があるんじゃないかなって」
純粋に話しているユーフリアは子供っぽく話している。
赤らめな顔を表に出しながら
「だから…えっと、ちょっと今の新人さんに話してみたいです」
「はぁ!?」
突然シュタルクは声を大きくした。シュタルクは溜息を吐いて、頭がきているようだ。
「ダメ?」
「ダメに決まってるんじゃろ!危険じゃ、ユーフちゃんはあの馬鹿共の様子を見たじゃろ!一人死んで、異常事態に決まってるのじゃ!」
シュタルクの言葉にユーフリアは内心で驚愕する。
普段、彼はここまで怒鳴りつける事などなかった。
うぶなユーフリアが反論する前にシュタルクはまた言葉を続く。
「だいたい、ユーフちゃんは何であの新人と話したいんじゃ?」
「それは…単なる好奇心で」
「好奇心だけか、ならば必要ないのじゃな」
強く否定されることにユーフリアは胸中で泣きそうになった。
確かに、改めて考えれば当時の様子は異常性があった。
睨みつける警備兵。戻った兵が少ないことも。
ユーフリアがどう頭を回転させても、不思議に思う。だが、彼女自身の好奇心は強く、現実感がない。
ユーフリアはそれに対し、重々理解しているが、どうにもならない。
「別にいいんじゃない?」
仲裁するかのように、先から沈黙するバービーは割って入る。
腕を組みながら、バービーは話、顔を上げる。
「シュタルク、あんたはガキの保護者みたいだから、心配しているのは分かってるけど、過保護は良くないと思うね」
「バービーお姉さん……」
同じく責められるかと思いきや、バービーはユーフリアの味方をしている。
決して軽々と扱っていない。一方、話の途中で挟んでいるシュタルクは眉をあげ、苛立つ。
「お前、ユーフちゃんの事、どれくらい知っとる?」
「全部さ。記憶喪失で、暇があったら、あちこち話かけるガキね。それと飯が好き」
最後に要らない物を言われて、ユーフリアは「あはは」と苦笑する。
「ふん、それ程度じゃな」
「逆に聞くけどさ、シュタルク。あんたはあたしの事、どれくらい知ってる?」
「知らんじゃな。お前の事なんざ、どうでもいいわい!」
二人は口論し始めた。ユーフリアはパニックしていたけれども、どうにも二人の口論に入れない。
「そうかい、だったら多分だけど、あんたは可愛い可愛いユーフリアの事、あんまり詳しくないと思うね」
「んじゃと?てかお前、いったい何を言おうとするんじゃ?」
「知ってるかい?あたしが犯した罪?」
「ふん、それはどうでもいいじゃの」
「銀行強盗だ」
二人が話を進み過ぎて、ユーフリアは結局黙って聞く事にした。
(強盗、まさかバービーお姉さんがそれをやるなんて)
すごいか否かはさておき、ユーフリアは黙って、続きを聞く。
「ん?」
「知らないでしょう。あんた、周りがどうとか、どうだっていい顔をしてる。そして、あんたはガキの面倒を見ている。あたしの観点すると、それはダメな保護者ね」
確かに、ユーフリアが自らの記憶を掘り出せば、ある程度のこの四年間は過保護みたいな物だった。
シュタルクは自身の気分を障ったものがあるように、目を細くして尖らせる
「結局何が言いたいのじゃ?」
「そう焦るなって、あたしはあんたにいっぱい迷惑されている。朝っぱらからでかい音を立てて起こすのはさておき、あんたが周囲の人間に優しいとユーフリアに思わせる。でも実際、監獄はそんなもんじゃないよ」
そして、最後にバービは一言を追加する。
「ユーフリアは外の世界の話を知って、いいんじゃない?特に今は新人が入った。だから、話してやっても、決して悪くないと思う。話だけならね」
その最後の一言二言にシュタルクは暫く黙っている。改めて自分のやってしまった事に、ユーフリアが大事な姪だ―――否、大事な孫と言えよう。
歳の差が離れすぎる。
黙って思考や気持ちの整理をしているその内、リフトが止まり、四層に到着した。
ユーフリアとバービーは先に行ってしまい、シュタルクを後に残す。
シュタルクはユーフリアとの記憶を脳で再現し、今までの二人の記憶を。
シュタルクは一旦冷静になり、リフトから降りて、考え始める。
結果、確かに悪くはないはずだ。異常性をよそに、ユーフリアは記憶喪失で、自分以外の人物と関わりを気づく必要がある。
だが、一方的に己の感情はユーフリアを縛りついている。だったら――
「ユーフちゃん、お前はあの新人と話していいんじゃが、一つ条件がある」
話を続いているシュタルクは微笑んで、ある提案をあげる。
「何、条件って?」
「この後、食事のあとにワシは友人を紹介してやる。名は『ユカリ』じゃ」
名前を口に出しているシュタルクにユーフリアは思わず足を止め、息をのむ。
「ユカリって誰なの?」
「ユカリはワシの友人じゃ、色々と警備兵と監獄に詳しい。条件はそいつと会議してから新人と話せ」
シュタルクは真剣に話を進める。一方、そんな急変に態度を変えるシュタルクにバービーは突っ込みたいところだ。
「意外とあっさり変えられるね」
「もうこれ以上冗談はない。本気で話したいんじゃったら、力を尽くして話せるようにしておけ」
シュタルクにももう迷いはない。これからもユーフリアの事を応援して、きちんと育む。
背中を支えられたユーフリア嬉しくなり、「うん」と頷く




