第三話「新たに入獄した大罪人」
翌朝、ユーフリアは配給されるスープのどんぶりを手に取り、食堂の出入り口から物騒ぎの喧嘩が聞こえた。
そこから現れたのは警備兵四人と一人お面を被る男がいた。
「こら、入れ!」
「監禁室に入れろ!」
男は大柄で、全身が血まみれだった。男からは悪臭が漂い、それは腐った肉のようだった。
それゆえ、まずい飯と悪臭によって不味い飯がパーフェクト状態に陥った。
一方、(殺人事件で入れられた大罪人かな?)とユーフリアはおおよそ予想がつくけれど、内心では好奇心で騒めく。
時間あったら尋ねてみようと、事前に事を決めていた。
「気になるのかい?」
「はい――…え?」突然背後から肩が触れて、ユーフリアはびっくりした。
慌てて姿を見ると、シュタルクではない。普段、自分を驚かせる趣味を持つのはシュタルクだけだというのに。
今回、驚かせた姿は違った。女だった。
細い身体、高い身長。そして、女も褐色肌で、メガネをかけている。
「あ、この前のお姉さん」
「いやだなあ、お姉さん呼びなんて。ま、それでいいか。懸命な判断だよ」
「いつもシュタルクおじさんに教わったので、礼儀は正しくあれと」
「へえ、ちゃんと教育してるんじゃない。あの人、他の奴らと絡んだら、結構野蛮でさ。毎朝よく騒がしくするんだよな。だから良くムカついている」
「分かります、あはは……」
ユーフリアは頬を掻いて、苦笑する。
褐色肌の女は軽く「相席いい?」と言って、「はい」の許可を得てから即座にユーフリアの傍に座る。
褐色肌のお姉さんはスープを飲みながら話題を入れる。
「新人か。珍しいね」
「そうですね」緊張しているユーフリアは軽く頷く。
「あんた、確かユーフリアだっけ?」
「え……はい、それがどうかしましたか?」
「いや、別に堅く必要はないよ。あたしの子分じゃないから。あたしの事はバービと呼んでちょうだい」
バービはそうやって、簡単な自己紹介をした。
一方ユーフリアはますます緊張になって、上手く返せなかった。何故か喉から言葉を出すのが辛い。
「ユーフリアは自己紹介しなくていい、あたしら全員良く知ってるから。記憶喪失ちゃん」
「記憶喪失って……バービーさん、私の事、どこまで知ってるんですか?」
記憶喪失という話題を入れて、ユーフリアは我に戻った。
「全部だよ。特にあの野蛮と仲がいいこともね」
野蛮って、先からシュタルクのことを指すのだろうか?嫌、指しているに違いない。
「記憶喪失ちゃん、あの新人、何を犯してここに入ったと思う?」
「ええっと、殺人?」
「いい考えだね。でもあたしだったらそれ以上だと思うな」
「何故そう思います?」
「さあ、分かんない」
「適当ですか?それなら先に早く言って下さいよ!」
そう告げるユーフリアにバービは大笑いする。さすがに反省はなさそうだ。
実際何を犯したのか誰も知らないゆえ、予想しかできない。
イメージしかできない。他人の罪に至っては、尚更のことである。
「そういえば……」
こうして雑談は終わり、ユーフリアは龍の事を思い出す。
先連行される男、腐敗した肉のような悪臭が漂う。そして、彼から鮮血の匂いも。
新人が入れるほど、決して軽い罪ではないはずだ。
「ん?何?」
「ちょっと思い出してしまうんだけど、前に警備兵から龍の話を聞いてしまったんだけど、一体捉えたって」
「え、龍?ああ、もしかして、それを気にしてるの?」
「はい」
そう頷くユーフリアにバービは大笑いする。どこかユーフリアが可笑しな子とでも今改めて認識して、馬鹿にするような言動であった。
「あははは!」
「な、なんですか、何いきなり笑ってるんですか?そんなに変ですか!?」
ユーフリアもまたついつい不満げな表情を浮かぶ。
「いやあ、ごめんごめん、ただ龍の話って御伽話に過ぎないから、それを信じる奴がいるなんて、つい。ぷふっ」
御伽話かあ。人見知りのユーフリアは幾つか御伽話を聞いた覚えがあるけれど、まさか龍が御伽話だとは思わなかった。
じゃ、あの夜、盗み聞きした龍が一体捕まえられた話はどうなんだ。
と、ユーフリアは危うく身をお危機に落とすのを覚えて、心底から残念に思う。
「じゃ、あれは御伽話なのかな?でも、確かに、御伽話だったら、雑談をやってる彼らには彼ららしいけど」と
ユーフリアは思わず独り言を初めていた。
当時はユーフリアには好奇心で満ちているゆえ、とんでもない話を求める。噂やら御伽話やら。
世間や知識のあるものとすれば、それはなんなりと聞くし。己の常識に身に付けたかった。
「全員集合だ!」
それはかなり唐突だった。特別監禁室から持ち場に戻った兵士達は杖…いや、今回はつ槍を持って姿を現した。
つい先まで血で汚れていない服装が、今は血まみれになって、食堂の隅々まで鮮血の悪臭を漂わせる。それも新鮮なものだ。
雑談している囚人達は唐突の命令で沈黙して、空気が一気に重たくなる。
そんな空気の真最中にユーフリア、バービー、そして他の囚人も列を作った。
(なに?何が起こっている?)
落ち着けない。胸がキュッとして、全員頬を強張っている。
一人の兵士が話を続く前に、彼の背後から戻った残りの警備兵がいる。
だけど、なんだか様子が可笑しい。
遅れて出ていた警備兵は血まみれになった。否、それ以上である。戻った警備兵は二人。
ついさっきまで四人であるものの、なぜか二人だけ戻った。
しかも、腕を無くしている。
息がへとへとで、意識が僅か残っている。
「何が起きたんだ?」
「おい、あいつらどうしちまったんだ?」
囚人の中ではこそこそ話をする連中がいる。
「貴様ら、静粛に!!」
唯一無事に立っている兵士が一言で全員を黙らせる。
「これより、特別監禁室は立入禁止とす。さもなくば、貴様らの命は無いと思え!尚、これまでみたいに雑談できる時間はない!食堂は四層に移動とする!」
「はああっっっ!!!」
「何だよそれ!おかしいぞ!」
そう宣言されている全員は声を上げている。
ユーフリアも一年間の努力が突然のことで水の泡にされて、不満も抱えている。
「貴様らが文句するのであれば、勝手にするが良い。ただ、我同僚は一名死亡し、一人が腕を無くしてしまった。食事のことだけ頭にない貴様らは何を言おうが、どうでもいい!」
「ふざけんな!ワシらは四層から登ってきたんじゃぞ、今更四層に戻るなど、御免じゃ!」
シュタルクは列から前へ向かって、警備兵に怒鳴りつける。
老いぼれたジジイであろうが、四層における屈辱を味わいたくないだろう。
「貴様は…シュタルクか」
「ちょ、おじさん!」
警備兵の男は憎しみに満ちた目でシュタルクを睨みつける。
その無防備な行動にユーフリアは慌ててシュタルクの怒りを宥めようとしている。
しかし、シュタルクはユーフリアを一切目を向かず、話を続ける。
「ワシら、三層から無理やり四層に戻れとでも!?」
「私はそうは言っていない。勘違いだ。貴様ら全員には四層にある食堂に行ってもらうが、部屋や貴様らの階級は三級のままだ。安心するといい!」
兵士は横柄な態度を取り、シュタルク――――食堂にいる全員に広く宣言する。
無論、その保証があると聞いた囚人は一息できる一方、四層に嫌な思いがある人は落ち着く様子もなかった。
ユーフリアはその内の一人であるゆえ、この不穏には到底落ち着けない。
どうも警戒心が強い。ユーフリアが後方にいる警備兵の状態を見て、先ほど連行された新人と何かが関わってるに違いない。
「何が起きてるんですか?」と思わず尋ねるユーフリア。
「貴様には関係あるまい」
「関係大有りですよ!皆さん、怪我してるんじゃないですか!?何かあったか、話して貰います!」
「二度言わせるな!貴様は虐待されるのが嫌いだろ、だったら黙って指示に従え。記憶喪失か何だろうか、私には関係ない!」
尋問が一方的に拒否された。
その兵士は横暴な態度でおっかない人間であると知られた。ユーフリアもまたこれ以上問い詰める勇ましき心持ちもないし、暫くシュタルクと共に列に戻った。
改めて囚人全員を見渡し、横暴な兵士は最後の命令を下す。
「食事タイムは終了だ。鉱脈地帯に仕事しろ。沢山魔晶石を持ち帰るんだ!さもなくば、死刑が待ちうる」と、声高で脅し、囚人全員に労働しろという命令を下したのであった。




