第二話
労働時間が終えたその頃、鉱業員――囚人が鉱脈地帯から舞い戻っていた。
鉱脈地帯は三層と四層の間に存在して、大きな段差の階段を下りて上る必要がある。
八時間も労働し続ける囚人は疲弊し、食堂の雰囲気は今朝よりも暗く感じる。
ユーフリアにもその疲弊感覚が残る。肩を揉んでも、大した癒しにはならなかった。
「疲れた」とユーフリアは息を漏らし、このまま不味い飯を口にする気分はない。
「D細胞が毎日注射できたらな」と突然頭に過ったのがそれである。
D細胞、この監獄世界において謎の細胞ではあるが、囚人全員にとってかなり利益が出せる物となっていた。
なぜならD細胞を注射する事で少なからず美味な飯を食える。鉱脈地帯で労働し続けるよりはマシの方である。
「そういえば、おじさんは今朝上層には楽園があるって言ってたよね。そして皆はそれを知ってる。どうして私だけ知らなかったんだろう?」と頭を傾げ、不穏な噂話が漂っている事を気づく。
ユーフリアは歩いて、気づいたら食堂に入っていた。食堂では腕相撲している連中がいる。食事タイムであるものの、皆監獄に住むような感情は一切なかろう。
「皆のんびりねぇ。多分、可笑しいなのは私だけかも」
「ユーフちゃん、何をブツブツ言っているのじゃ?」
突然背後から声をかけた囚人シュタルクにユーフリアは一驚する。
今先まで呟いた言葉は聞こえたのだろうか?と少し赤らめな頬を逸らしている。
心臓も飛び跳ねそうだった。
(この人、何で毎度毎度!……はぁ)
驚くユーフリアをよそに、シュタルクは服を着ないでままムキムキとした体を見せる。
「ユーフちゃん、彼らがどうして腕相撲何かしてると思う?」
「わかんない。え、ちょっと待って、聞こえたの、さっき?」
「うむ、聞こえたのじゃ」
(うわー、最悪)
内心まで恥じらっているユーフリア。どうして自分の独り言は聞こえてしまったんだろう?とユーフリアは自分が馬鹿で、愚かな少女とまた胸中に思う。
だが、シュタルクの視線は腕相撲をしている囚人達に集中させ、どこか遠い目になる。
「ユーフちゃん、彼らはこの地獄に慣れきっているんじゃよ」
「ん?」
「外の世界では大罪を犯し、もう二度と外の世界に出られる事もできない。永久にこの地獄の有様じゃ。ならば、彼らは自分なりに残った時間を費やして、世界を楽しもうとする。なんと嘆かわしいことじゃ」
シュタルクの言葉にユーフリアは我に返って、改まって考える。
監獄とはいえども、監獄らしくない檻部屋。
皆、毎日疲弊しないよう、心がけている。
唯一無二の救済は飯あるのみ。
美味い飯を食いたければ、D細胞に注射せざるを得ない。
「おじさん、どうして毎日注射できないの?」
「まあ、研究員の奴らも、色々と考えるのじゃろう」
そう、軽く流しているシュタルクに些かイラッときたが、まあここまでにしようとユーフリアは突っ込まないでいる。
◇◇◇
相変わらず食事タイムに入った。食事中ではまた奇妙な紫色味の不味いスープを飲んで、ある程度の物を腹に入れた。
この時では私は何も考えないようにしている。そして
静寂な廊下の中で、何室かあり、私は独自の檻に入った。廊下のど真ん中では物騒ぎをする警備兵が居て、見張り役をやっている。
私は警備兵の騒めきで眠れない。
うるさい
と、心中で愚痴を叩く。
(これじゃ、眠れないじゃん)
警備兵は何やらと雑談し、睡眠を取らせない。文句を言う前に、一つの話題だけ耳に入る。
「なぁ、聞いたか?龍は新しく出現したらしいぞ」
「うわ、今回では何回目だよ?政府は一体何をやってるんだろうな?」
「どうだろうな?俺ら兵達には何もできっこないじゃないか」
その者たちの言葉を聞いて、文句しそうなこの口を閉ざし、沈黙して盗み聞きする。
龍が出現する。
あれはいったいなんだろうかと、こっそりで内心に呟く。
獣の一種かな?或いは盗賊団みたいなものかな?
分からない。初めて耳にした名前だ。
と、少しだけ混ざりたくなる気持ちが胸を躍らせる。
話したい。
もっと詳しく知りたい。
だけど、私がまだ寝ていないとしたら、虐待を受けかねないので、一旦ここで寝るふりとしよう。
「それと、龍が一体捉えたって聞いたんだけど、知ってるか?」
「知らないな。どうした?」
「いや、すげぇなと思う」
「まぁ、凄いんだよなぁ」
警備兵は二人だけいる。だが、情報が漏れている。もしかして、そこではワイワイ酒でも飲んで、情報を漏れ出したのかな?
「待て、そこでこそこそ話を聞くのは誰だ!?」
やばっ
と、これ以上話は聞けない。私はすぐに毛布で身を包んで、寝る事にする。




