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第一話

「いいかい、ユーフリア。私達の今住んでいる世界は地下に過ぎません」

寒い気温で覆われる最果ての監獄世界。カンテラの灯りで浅い光を照らす廊下の中―――より正確的に言うには一つの檻部屋で小声で物語の話を語る女性がいる。

女性は赤髪で石造りの固い寝台で居座り、膝に黄金の髪の娘を横にする。

今は休み時間であるゆえ、別室で休む囚人に聞かれないよう、小さく、同時に甘い声で、赤髪の女性アリフィアは娘のユーフリアに絵本を音読し、簡単な教育を始めた。

「ち……か?」

首を傾げる娘は母に疑問を抱く。

「えぇ、その通りですよ。遥か昔、私達人類は外の世界に住んでるんですよ。壮大で無辺な青空の下に自由がままに生活しました。しかし、空を飛ぶ龍族は私達を襲って、私達人類を地下まで追い払ったのです。龍は口から炎を放ち、地上の人々や周りを滅ぼしました」

教育は絵本を元で、それを手に持ったアリフィアはページを捲ると同時に話を続けた。

第二ページから第三ページに描かれたのが、蜥蜴のような黒い猛獣。口から炎を放ち、ますますユーフリアを困惑させる。現実感がないからだろう。

「口から火を出すなんて、おとぎ話みたい」

「えぇ、確かにそうです。しかし、この歴史は誰もが知ってる、誰もが知らなければならない。どうして私たちがこの地下の世界にいてしまったのかを」

「うぅっ…」

ユーフリアが眉間を寄せても、アリフィアはそれをあまり気に留めなかった。むしろ当たり前のことのように思う。我が子を愛する他に、きちんと教育せざるを得ない。

アリフィアはユーフリアのおでこに愛を籠って接吻をする。

マザーコンの娘は頬を赤らめになって再び口を閉ざし、母の話を聞き続ける。

「龍の皮は非常に固く、刃でさえ容易に弾けられます。一匹を倒すのに、どれだけの被害や惨害があったか、数え切れませんでした」

絵本を半ばまで進んだアリフィアは他の龍よりも暗く、中心に浮いてる漆黒の龍の絵をユーフリアに見せる。

しかし、娘の意識を誘導したい部分はそこではない。

「龍の後ろにあるのって…太陽なの?」

「おぉ、いいですね。ユーフリアに満点です!」

「えへへ…」

ユーフリアは幼子らしい笑みを浮かんだ。

「でも、この暗すぎる竜って、何なの、ママ?」

「そうね…」

黙り込んで、アリフィアはふうんと指を顎に添えながら、適切な説明をうう考える。

漆黒の龍。他の龍の類よりも大型な龍、と説明したいところだったが。

娘には歴史の大事さを身につけたいゆえ、言葉で躓いている。

「ママ?」

「ふうん…そうですね……じゃあ、このように説明しましょうか。この中心に飛ぶ、そして陽光まで妨げたこの龍は龍のリーダーだと思って良いですよ」

「リーダー?つまり、おじさんたちの敵みたい?」

「その考えは似たようなもので結構です。でも、龍のリーダーとなれば、他の龍よりも賢くでなければなりません」

「何で?」

娘がそう尋ねることも想定済みのかのように、アリフィアは軽く回答する。

「龍のリーダー。つまり、賢い龍、偉い立場にいる龍。群れの脳みたいに考えても良いです。

龍はむやみに行動するではなく、作戦で動いてます。まして、人類より遥かに圧倒的な力を持つ龍は容易に人類を滅ぼしたのです。だから、人類もまたそれに抵抗できず、地下へ移住しました」

教育から少しずれがあると思い気もするが、アリフィアはできるかぎり娘を納得させる。

アリフィアの経験上、膨大な力や権力があっても、まともな作戦や行動順位がなければ、行動範囲が狭くなり、奪ったものを保持するにも困難だ。

「でも、人類は何でそんな簡単に負けたの?魔晶石で戦えれば良いのに」

「当時はなかったんですよ。魔晶石の発見はママがユーフリアを妊娠してる時なんですよ。だから、今はどうなってるか分かりません。しかも、魔晶石はおじさんたちの活躍によって発掘できたのです。おじさん達はユーフリアのために、力を尽力しました」

そんな母の言葉にユーフリアは言葉を無くす。

下からの目線で母を仰臥しても、幼子が理解できるものではない。

龍の存在。人類の敗北。おじさん達との関係。それ以上にも遠い目で没頭する母の気持ちは分からない。

「ママ?」

「おい、教育時間は終わったぞ。ユーフリアは自分の部屋に戻れ!」

気づけば、牢屋の鉄格子の外側で見張りの担当をする警備兵が棒で現れた。

「そうね。確かに時間がずれてしまったわね」

アリフィアは絵本を閉じて、ユーフリアも体を起こす。おっかないシワを寄せる警備兵はユーフリアとアリフィアとの接触時間を制限している。

ユーフリアは母の牢屋から出て、警備兵の元に戻った。

鉄の扉が鍵を付けられて、今回のユーフリアちとの時間はこれでお終い。

ユーフリアはマザーコンで、母nとの抱く時間が足りなかった。

だが、自分の生まれた場所は監獄であり、生まれた時から規則に従事しなければならない。

実際罰を与えられたこともある。だから、ここはし警備兵の命令に従うのみ。

背中を見せて、警備兵と一緒に自分の部屋に足を動かすその瞬間、「ユーフリア、また会いましょうね」と、優しい声色で別れを告ぐ母がいる。

それが心に触れたか、ユーフリアは笑みたっぷり表情を傾けて

「バイバイ、ママ!また今度で会おう!」

「おい、黙ってろ!」

軽く頭を殴られて、教育がまともにできなかったとはいえ、マザーコンの娘ユーフリアは歓喜で胸中がいっぱいになった。

そして、母のいる場を去っていく。

娘が去っていくところを見届けたアリフィアは膝を抱きしめながら、何かが枯れるように感じる。

「ユーフリア…あなたには幸せを。私みたいにならないようにね」


「変な夢……」

瞼を開く女は天井を仰ぎ見る。物語でも聞かされるような夢幻。

今では女性の特徴を鮮明に思い浮かべて、次第に胸中に些かきゅっとした心残りがあった。

あれはいったい何かはわからないが、今の思いを「ただの夢ね」と水に流すことにした。

上体を起こし、周辺を見渡す。

相変わらず風向きがない。

周囲にあるのは鉄の檻で、岩造の固い寝台。

数年経ても肌に触る不愉快な気温や湿った空気は変わりえまい。

ところが、完全にないとは言い切れないのだ。

ここ数日警備兵はある魔道具を天井に貼り付けるという指示があった。

あれは光る魔晶石で、おかげで薄暗いカンテラを使わずに済んだ。

「て言うか、寒いな。今何時?」

瞼を擦るるユーフリアは再び薄い毛布で身を包み、二度寝をする。

時間がわからない今なら、二度寝できるのである。

「おやすみ〜」と呟き、頭ん中の片隅からあらゆる思考を停止する。

おかで意識もぼんやりして、

キンキンキンと!

突然廊下やユーフリアの檻部屋まで割って響く鉄の音が聞こえた。

同時に耳障りな老人の叫びが響いて「起きろ、野郎ども!!」ユーフリアの意識を一気に引きずられた。


「シュタルク様がわざわざお出ましで起こしてやったぞ、てめえら!感謝するのじゃぞ!」

静寂を破ったのは白い髭のジジイだった。

シュタルクは鍋を力強く叩き、キンキンとした声を鳴り響かせる。

目上気取りで大笑いしつつ、あちこちの檻部屋に回って、鍵を開ける。

「だはははは!」

「うっせええよ、ジジイ!」

「朝っぱらうるさいなああ」

「くっそジジイめ」と苦情が次から次へと浴びている。

だが、傷つくはおろか、逆に調子に乗る。

「どうじゃ、ワシの命令に従う気になったか、だははは!!」

ジジイシュタルク。この監獄で一番歳を取った囚人でもある。

今年で七十歳を超える。だが、残念ながら、その態度、ましてムキムキとした体格は誰がどう思っても老けたジジイとは考えにくい。

「だははははっ!」

ますます調子に乗って、前より図々しくなる。

「うっさい!」

「ぐは!」

ぐはっと突然シュタルクの背後から腰を蹴られた。

シュタルクは跳ねられて、どん固い地面に倒れる。

「ユーフちゃん、なんだよその態度!それが老人に対する態度か!もっと老人を敬え!」

「あら、別にいいじゃない。みんなはもう行っちゃったし。少なからず、この廊下にいる全員ね!」

ユーフリアは黄金の髪をポニーテールに結びながら、シュタルクに怒鳴った。

表情を顰めるユーフリア。朝っぱらからそのような起こし方で頭がきている。

ユーフリアは鼻を鳴らし、顎の姿勢でシュタルクに周囲を見渡すように指摘する。

「あっ、そうじゃったか」

「騒ぎすぎたら、警備兵に怒られるよ」

「ふん、あの無礼な警備兵が、年寄りを舐めてんのか!」

「舐めてない……いや、舐めているかも。シュタルクおじさんが既に歳を取って、弱い体になっているから、ここ数年で鉱脈地に立ち入らないようにされている。飯作りの命令があったんじゃないの?」

「いや、その件じゃと、ワシは断ったのじゃ。別に老いぼれたからと言って、肉体労働ができないわけじゃない」全身を起こし、シュタルクはムキムキとした腕をユーフリアに見せる。

鉱脈地帯で豊富な経験を有する人だけあって、シュタルクの体は筋肉に満ちている。

一体何年この牢獄にいるのだろうとユーフリアは思う。

「それよりも、早く食堂に行こうよ」

「あ、そうじゃの。早く行こうぜ」

二人は廊下を抜け出し、下の階にある食堂室に向かう。




魔晶石の下に、食卓テーブルが並列し、それぞれ金属でできている。

「おい、そのスープは俺のだ。返せ!」

時に対立し喧嘩の声が室内の隅々まで響くが、それをよそにユーフリアは配給されるスープをしれっと呑んで、堪能する。

「……まずい」

汁は浅いと内心で呟く。だけど、一年前のスープや警備員の態度を比較してみたら、大きな差があり、心がゆったりできる。

「まあ、四層にいる時よりはマシの方だけどね」

「そうじゃの、四層にいるよりはマシじゃのお」

周囲の喧騒がなかったかのように、二人はゆったりとした生活を感じる。

(まあ、この後はまだ採掘場で働かないといけないんだけどね)

仕事は仕事だ。四層にいた頃は二人はまず朝起きて採掘場に仕事をしなければならないが、三層の上の階層にいくことで、多少は生活の違いがある。

正しく人生のアップグレードという。

「そういえば、ここの監獄って、何層あるの?」

「ん?」

「いや、昔からずっと思うんだけど、おじさんってずっと四層からこの監獄にいたでしょう?私よりも経験豊富の証ってこと。多分、ここの監獄が何層あるのか知ってるかもなって」

ユーフリアはどんぶりのスープをテーブルに置いて、顎に手を添える。

双方には数十歳の違いがある。無論、互いには大きな思考や経験の差があるはずだ。

それは今まで仕事で追い払ったものだ。

しかし、今となっては好奇心が放たれる。

好奇心が強く、昔からた堪えた幼子のような笑みを浮かぶ。

ワクワクする。期待する。

そんな瞳をキラキラとするユーフリアの前に、汁を飲み干したシュタルクにはあまり無下にできないであろう。

体が細く、小柄な少女の前にしてシュタルは目を細める。

確かに二人は長い付き合いだ。シュタルクもユーフリアのことを姪か本当の孫に思うだろう。

「今食事中じゃぞ」と瞳を輝かせるユーフリアに返す。

堪えていた質問がまともに返されず、ユーフリアは「チェッ」と舌打ちする。

「じゃが、一つだけ言えるのがこの監獄では五つの階層が存在する」

「え?」

「ワシも確信はないじゃが、少なからずここでは五層まで存在する。ワシらが四層から三層に移動するようにな」

湿った空気が寒気を招き、スープの汁を一段と冷める。

囚人たちが喧嘩に注意を引かれていた事を周囲を確認した。

見ているユーフリアにますますワクワクさせる。心臓がパクパクと。

「四層と三層。ワシらにいい伝えられたのがこの二つで、何層あるのか教えていなかった」

指を合わせながらシュタルクは自分の話を続ける。

「一番上に楽園があるとか、噂されている」

「え、なんて?」

小さい声で話し過ぎたせいか、ユーフリアにはブツブツとしか聞こえなかった。

二人は顔を合わせながら話したものの、なぜかユーフリアの耳には聞き取れない。

「ユーフちゃん、ちゃんと話聞くのじゃぞ」

「いやいや、声小さくて聞こえないよ!こんだけ近かったのに」

「ワシはただ上層に楽園があったって言いたいだけじゃぞ」

「え…うん…」

突然声を上げるシュタルクにユーフリアは驚く。

ガキ面倒で疲弊が回ってくるらしく、眉間には

「はあ……チっ、これだから若者は…」老人は溜め息を吐く。

「良いか、ユーフちゃん。これは機密で貴重な情報なんだから、周り言わないじゃぞ。一層は外の世界にいるよりこの楽園を得られる、二層は監獄の中での楽園。このトップツーは楽園だと思え。」

視線を咎めるシュタルクの前に、ユーフリアはごくりと唾を飲む。

実際、誰にでも知られない機密情報だ。先回りできそうとユーフリアは頷ける。

「方法は何、D細胞の注射でかな?」

「さあ、ワシも知らない。多分、そう単純なものではないはずじゃ」

「ふむふむ…なるほど」

絶妙に説得力のあるものだ。通りで機密なわけだ、とユーフリアは何度も頷く。

「何が機密情報だよ、ジジイ!」

にわかに割って入っていたのが、シュタルクの隣に座る褐色肌の女性だ。

彼女はメガネをかけて、眉間に物凄いシワを寄せている。

びっくりするユーフリアは目を丸めた。

「あのさあ、ジジイ。妙にカッコつけていいのだけど、デマを披露させるのは良くないぞ。実際それはみんなが知ってる」

「え?」

連続でぶち投げれられた言葉にユーフリアは固まった。

「おじさん……本当なの?」

「……」シュタルクが問い詰められても、黙りだった。

好奇心や先回りできる期待がどん底に崩れていくのを感じたユーフリアは苛立ってしまう。

「くっそジジイい!」


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