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プロローグ

「どうだ、シュタルク。俺の方が優位に立っただろう!」

バカで愚かな男を相手にワシは溜息を吐く。男は中年半ばで、髭も剃らない。

彼はワシの傍で魔鉱石を採掘し、光る魔鉱石を入手できた事に胸を張った。

この後に及んで、牢獄世界に入った事で張り合って勝誇るなど、到底時間の無駄に過ぎないとは思う。

「はあ、あのさあ、ワシらは仕事中じゃぞ。勝敗等どうでもいい。そもそもワシは元から勝負に――」

「―――――!!」

言葉が途切れ、突然天井の方から獣のような咆哮が聞こえた。

「なんだ!?」と一瞬パニックしたワシら二人が状況を察知できまい。

唐突の事で、地面も揺らいている。この地下の世界に地震が起こっているのか?

いや、天井から砂や岩石が崩れている。天井の方から崩落しそうかもしれない。

少なからず、危機が迫ってくるのを察知でき、ワシは隣の男に

「おい、早く逃げるぞ!」

「あ、あああ」

ワシらは発掘用の道具をそのまま地面に捨てる。地獄の規則だの、懲罰だの、どうでもいい。

とりあえず、今は自分の命を最優先とする。

門番で見張っている警備兵も動揺しそうに見える。

「――――!!!!!!」

獣の咆哮はますます大きくなっていた。

「おい、仕事中だぞ!」

「ふざけんな!今はどういう状況か知っているか!」

ワシらが労働時間外、危険に応じて身の安全の確保のために避難しようとしても門番警備兵が通してくれない。

「働く時間だと言っている!」

地面が揺らいでも、警備兵は耳を傾けない。

彼ら、警備兵は手に持つ杖をワシの顔を強く叩いて、ワシは地面に跳ね飛ばされている。

「シュタルク!」

「いかにどんな状況であろうが、ここを通さない!持ち場に戻れ!」

警備兵がそう怒鳴ったうちに、咆哮がますます大きくなり、地面もますます揺らいでくる。この状況は異常の証であるものの、彼らはばかである。

「!!!」そう胸中に愚痴を吐いているうちに、突然天井が崩落した。

崩落した天井は逃げる余裕がなかった鉱業員全員を落命させ、場所は鉱脈地帯の中心部。

「なんだあれ!?」

天井から獣の姿は表された。

しかし、カンテラの薄暗い照明だけではまともにその姿が見えっこない。

ただそれは漆黒で、巨大な獣としか見えていない。

巨大獣はあちこち暴れて、暴力極まりない。

暴力を振った獣は鉱脈地帯から離脱しようとする鉱業員――大罪人を一掃し、地面に血まみれになった。

獣は自分の四肢の爪を使って、大罪人の体を貫いて、口に入れ、咀嚼して、一気に呑み込む。

「お、おい。逃げようぜ」

「あ、あああ」

「あれはどうみてもデカすぎるぞ!」

この光景を見ている警備兵は怯えて杖を捨てる。

そうやって身勝手な判断で門番から離れている。

「ワシらも逃げるぞ」

「ああ!」

ワシは隣の監獄友人に声をかけ、警備兵の後を追うようにと指示を出す。

しかし、ワシらが逃走すると気づいた獣はジャンプし、わしらの前に立ちはだかる。

正確は警備兵を踏んで、その死体が転がっているのを弄んでいる。

その上、彼らの死体を食って、他の奴らと同じように飲み込んでいる。

彼らが死ぬ有様を見届けるワシは拡散する血で濡れている。

鼻口には濃くて、鮮血の悪臭が漂っている。

これが彼ら死の有様か。

「なんだ、何が起きている!?」

一緒に逃走する友人も戸惑っている。一番の問題はその巨大な獣は尋常じゃ無い。

圧倒的な力に人間が片手で勝てる術もないのだ。

そう思っただけで、ワシは漆黒の獣を前にして、蹲って、全身が震えている。

動けない。動けない。動けない。

怖い、怖い、怖い。

死ぬのが怖い。

漆黒の獣が警備兵――死体を弄び、心が癒しになったかのうように、見ているワシらに目を向く。

今回ははっきりと目に焼き付けた。

これは巨大な獣の一種、皮膚が固そうに見える。

「シュタルク、立て、立つんだ!」

ワシと同僚の肩書きを持つ男が先ほど捨てられた杖を抱えて、獣の前に立ちはだかる。

「無理じゃ!お前も見たじゃろ!」

「ああ、見たさ。だからここから逃げよう!」

蹲るワシに手を差し伸べた。

ああ、こいつは毎度毎度甘い考えになってくる。現実感がない。

いかにこの場から逃れようがいまいが、どうせ上階の連中に捕らえられるかもしれない。

「何をやっている、さあ、早く!」

杖を抱えたまま男は言った。

手を差し伸べた。

うずくまったワシは恐怖に包んで、全身が動けない。

「!!」

突然、獣は再び咆哮を出した。鼓膜が爆発しそうだ。

獣は尻尾を持っている。皮膚も固そうに見える。

「もういいや、お前だけで行け!」

「大丈夫、この契機にこの地獄から脱走できるかもしれないし」

監獄を脱走…か…確かに、改めて考えてみればこの状況の隙間から脱走できるかもしれない。

ワシは息を詰まりながら、差し伸ばした彼の手を掴んで

「!!」


彼は死んだ。

獣は彼の頭全体を口にして、骨が噛み砕かれ咀嚼している。彼の鮮血はワシの顔に当て、ワシの顔は彼の血で完全に濡れている。

近くから友人が食ってられた。胸が痛い。

頭ん中が真っ白になってゆく。

何も考えられない。骨が噛み砕く音しか、耳に入ってこない。

臭い。ワシは死体となった友人の手を離して、思いっきり絶叫する。

「くっそがああああああああああああああああ!!!!!!!」

そうすると、彼の落命を見届けた。

獣は骨ごと丸呑んだあと、獣は大きな瞳をワシに傾ける。

殺気溢れているものである。

この時、「あ、ワシも死ぬのか」と声や下の方を漏らしてしまった。

獣から吐く息は臭い。

ワシは目を瞑る。

どうせ死ぬのだと。思いっきり死ねば良い。

「――!!」

獣は大きく口を開き、



「あ?噛まれない?」

目を開けた瞬間に獣は燃やされている。

漆黒の獣の胴体は炎に焼かれて、喚く。絶叫する。

前にあまり目に焼き付けなかったものが、今回ははっきりと刻み込んでいた。

獣は翼を持っている。多分、先はジャンプではなく、飛翔するかもしれない。

いや、それどころではない。何故獣が突然燃えている?

何が起こったかわからない。

ワシは立ち上がって、炎で暴れている獣から少しずつ身を引く。

「これはすまない。我が愛しい娘はこんな事してしまった」

「なんだ!?」

何処からともかく、誰かが声をした。

左?右?下?上?

周囲を見当たっても、誰もいない。

「お詫びとして、貴方を救出しよう。だが、決してこの事を口外しないでおくれ。我が愛しい娘は悲しむ」

「お前は誰じゃ!?」

由来もわからない声に応答しようとも、発声場所がわからない。

獣から炎が消え、熱風も下がってゆく。

完全に明かりが無くした今、何も見えない。

「……いったい、何が起こってるのじゃ?」

と全身から力が抜けるのを感じた。

奇妙に聞こえた声も無くなった。

「周りには誰もいない」

できる限り慎重に歩いていた。鮮血の悪臭もまだ残っている。だが、気迫を失った今では意識をぼんやりさせる。

やばい。これはやばい。この辺りにまだ獣が――――――

――――

――――


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