第76話 コンテストまでの自由時間
8月1日。
午前9時。
月潟リゾート木崎湖キャンプ場。
朝食を終えた部員たちは、テーブルを片付けながら今日の予定を確認していた。
「フィールドデーコンテストは21時開始」
真宵が腕時計を見る。
「だから、あと十二時間あるね」
「設営は昨日終わってますし」
桜がアンテナを見上げる。
「無線機の動作確認とお夕飯とお夜食の準備くらいですね」
「それも午後で十分ですわ」
澄香が紅茶を口に運ぶ。
「昼間は自由時間にいたしましょう」
「やったー!」
華が立ち上がる。
「湖水浴!」
みなみも笑顔になる。
「私も行く!」
数分後。
二人は水着に着替え、木崎湖へ。
「冷たーい!」
華が湖へ飛び込む。
「待ってー!」
みなみも後を追う。
ばしゃっ。
水しぶきが朝日に輝く。
「華ちゃん!」
「負けません!」
二人は子どものようにはしゃぎ始めた。
一方。
彩鼓は湖畔の木陰にレジャーシートを敷いて寝転がっていた。
「平和だ……」
「昨日はいろいろありましたからね」
真宵が苦笑する。
「今日は夜通し運用だから、今のうちに休んでおくのも大事だよ」
「そうする」
彩鼓は帽子を顔に乗せた。
その時だった。
杏果がキャンプ場の管理棟を見つめる。
「あれ?」
「どうしました、お姉ちゃん?」
桜が振り向く。
「レンタサイクルがある」
管理棟の前には、クロスバイクが何台も並んでいた。
「木崎湖一周だけじゃなく、小熊山方面にも行けるみたい」
「小熊山ですか」
桜が案内板を見る。
「展望がいいことで有名ですね」
「せっかくだし、走ってみる?」
「行きます!」
二人は受付へ向かった。
「クロスバイクを二台お願いします」
受付のスタッフが笑顔で鍵を渡す。
「ヘルメットもどうぞ」
「ありがとうございます」
準備を整えた二人は、ゆっくりとキャンプ場を出発した。
湖畔を吹く風が心地よい。
「気持ちいいですね」
桜が笑顔になる。
「うん。長野に勤めていても、この辺りを自転車で走る機会はなかなかないからね」
杏果も景色を楽しみながらペダルをこぐ。
やがて、小熊山への上り坂。
「……」
「……」
二人とも無言になった。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「坂が思った以上に急です」
「観光案内には書いてなかったね」
息を切らしながら登り続ける。
そして。
展望が開けた。
「わあ……」
桜が思わず足を止める。
眼下には木崎湖。
青く輝く湖面。
その向こうには大町の街並み。
さらに北アルプスの山々が広がっていた。
「絶景だね」
杏果が微笑む。
「はい」
桜も大きく頷く。
「登ってきた甲斐がありました」
一方、キャンプ場。
「えーい!」
ばしゃっ!
華がみなみに水を掛ける。
「きゃー!」
笑い声が湖畔に響く。
その水しぶきが。
木陰でうたた寝を始めていた彩鼓の足元まで飛んできた。
「冷たっ!」
飛び起きる彩鼓。
「誰!?」
「華です!」
「みなみです!」
二人は笑いながら逃げていく。
「待ちなさーい!」
彩鼓も笑いながら湖へ向かった。
その様子を見て。
真宵は静かに笑った。
「今夜は徹夜なんだから、今のうちに思い切り夏を楽しんでおこうか」
穏やかな木崎湖の夏。
午後九時のフィールドデーコンテスト開始まで。
部員たちは、それぞれ思い思いの時間を過ごすのだった。




