第74話 木崎湖到着
道の駅中条を出発してから。
ここから先は、長野県道31号線。
通称、オリンピック道路。
長野市街地から車で約40分ほど走った場所にある道の駅中条を出て、山間部の道を進んでいく。
先ほどまでとは違い。
プリウスの車内は静かだった。
理由は。
運転席に杏果が座っているからだった。
「……」
彩鼓は助手席。
後部座席には華と桜。
「平和ですね」
華が小声で言う。
「はい」
桜も頷く。
「車が普通に走っています」
「それが普通です」
杏果が苦笑する。
「白根さん」
「はい」
「運転は技術だけじゃなくて、同乗者が安心できることも大事ですからね」
「分かりました……」
彩鼓は素直に返事をした。
木崎湖へ向かう道。
窓の外には緑豊かな山々。
遠くには北アルプスの姿も見えてくる。
「きれい……」
桜が窓の外を見る。
「来てよかったですね」
華も笑顔になる。
道の駅中条での疲れも、ようやく抜けてきた。
そして。
昼過ぎ。
木崎湖畔へ到着する。
「見えてきました」
澄香が指差す。
月潟リゾート木崎湖キャンプ場。
湖のすぐ近くにあるキャンプ場だった。
「到着!」
華が車から降りる。
今度こそ。
本当の夏合宿の始まりだった。
「湖だ!」
みなみが嬉しそうに言う。
「水がきれいですわね」
澄香も満足そうに眺める。
到着後。
まずはキャンプの準備。
テントを張り。
荷物を整理し。
無線運用の準備に取り掛かる。
「アンテナポールはこちら」
彩鼓が指示を出す。
「無線機も確認します」
桜がチェック表を見る。
今回の目的はフィールドデーコンテスト。
限られた時間で運用環境を整えなければならない。
「こういう準備も楽しいですね」
華が言う。
「去年の佐渡とはまた違った感じですね」
真宵も頷いた。
その頃。
「買い出しに行ってまいります」
澄香が言った。
「食材や飲み物を追加で購入したいと思います」
「私も行くよ」
杏果が手を挙げる。
「車は?」
彩鼓が鍵を取り出す。
「私のプリウスを使って」
一瞬。
全員が止まる。
「……」
「……」
彩鼓が首を傾げる。
「何?」
杏果が笑った。
「大丈夫」
「私が運転するから」
「ああ……」
華と桜が同時に安心した表情になる。
「それなら」
「問題ありません」
桜が即答した。
「そんなに信用ない?」
彩鼓が不満そうに言う。
「運転以外は信用しています」
華が答えた。
「そこは褒めてるの?」
彩鼓が苦笑する。
杏果と澄香はプリウスへ向かった。
「買い出し先は?」
「近くの縁川商店へ」
澄香が答える。
「木崎湖周辺で必要なものは揃いますので」
一方。
月潟財閥の運転手は。
「では、お嬢様。車両と私は月潟グループ大町支店へ移動し、待機しております」
澄香が頷く。
「よろしくお願いいたします」
大町市街地にある月潟グループ大町支店。
そこへ車を待機させ、必要に応じて利用する予定だった。
杏果と澄香を乗せたプリウスが出発する。
今度のプリウスは。
穏やかに走っていた。
キャンプ場では。
残ったメンバーがアンテナ設営を続ける。
湖畔の風。
夏の日差し。
そして、今夜からのフィールドデーコンテスト。
はむぶの夏合宿が。
いよいよ本格的に始まろうとしていた。




