第73話 救世主登場
道の駅中条。
昼食を終えた一行は、駐車場へ戻ってきた。
「おぶっこ、おいしかったですね」
桜が満足そうに言う。
「野菜もたくさん入っていましたし」
「体力も回復しました!」
華も元気を取り戻している。
しかし。
二人の視線は自然と白いプリウスへ向かった。
「……」
「……」
「どうしたの?」
みなみが聞く。
「いや」
華が答える。
「この先もあれに乗るのかなって」
桜も静かに頷いた。
「考えたくないです」
「そこまで?」
彩鼓が不満そうに言う。
「私、ちゃんと運転してたよ?」
「彩鼓先輩」
桜が真顔で返す。
「その話はもういいです」
「えー」
その時。
「お〜い!」
聞き覚えのある声がした。
全員が振り返る。
「え?」
桜が固まった。
そこにいたのは。
「桜」
「……お姉ちゃん?」
島見杏果だった。
「なんでここにいるの!?」
桜が驚く。
「それはこっちの台詞」
杏果は笑った。
「まさか道の駅中条で会うとは思わなかった」
「偶然?」
「うん」
杏果は頷く。
「休日出勤の代休を今日取っていてね」
「なるほど」
「特に予定もなかったから、家でのんびりしていたら……」
少し間を置く。
「澄香さんから連絡が来たあと、官舎に迎えが来た」
全員が澄香を見る。
「……」
澄香は微笑んだ。
「少々事情がありまして」
「事情?」
杏果は彩鼓を見る。
「白根さん」
「はい?」
「運転」
「はい」
「大丈夫?」
彩鼓は胸を張る。
「もちろん!」
その瞬間。
華と桜が同時に首を横に振った。
「……」
杏果は二人を見る。
「そんなに?」
「はい」
桜が即答した。
「お姉ちゃん」
「うん」
「彩鼓先輩の運転は……」
桜は言葉を選ぶ。
「精神修行でした」
「精神修行」
杏果は彩鼓を見る。
「白根さん」
「なに?」
「少し話しましょう」
「え?」
杏果の表情は笑顔だった。
しかし。
電波監視の仕事で鍛えられた観察眼を持つ杏果の笑顔は。
少し怖かった。
「まず」
杏果は言う。
「高速道路で車線をふらつかせない」
「はい」
「急な操作をしない」
「はい」
「同乗者が怖がっているか確認する」
「はい」
彩鼓は小さくなっていく。
「あと」
「はい」
「『事故がなかったから安全運転』は違います」
「……」
「運転は結果だけじゃなく、周囲に安心感を与えることも大事です」
彩鼓は黙った。
「ごめんなさい」
珍しく素直だった。
真宵が小声で言う。
「さすが杏果さん」
みなみも頷く。
「説得力が違う」
華と桜は安心した表情だった。
「お姉ちゃん」
「なに?」
「ありがとう」
「?」
「助かった」
杏果は苦笑する。
「そんなにだったんだ……」
「「そんなにです」」
桜と華がまた同時に答えた。
澄香が静かに説明する。
「最初は彩鼓さんが運転したいという希望を尊重しようと思いましたが」
「途中で判断を変更しました」
「それで私に?」
「はい」
杏果はため息をつく。
「休日の予定がなくてよかった」
「本当に」
真宵も頷いた。
こうして。
思わぬ形で合流した島見杏果によって。
はむぶ夏合宿の移動問題は、ひとまず落ち着きを見せた。
ただ一人。
彩鼓だけは。
「帰りは安全運転するから!」
まだ運転する気満々だった。
「……」
真宵。
華。
桜。
三人の表情が同時に曇る。
木崎湖到着前から。
すでに新たな問題が発生していた。




