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第72話 道の駅中条

 午前11時頃。

 長野県長野市。

 道の駅中条。

 二台の車が駐車場へ入った。

「ここで休憩にしましょう」

 澄香が言う。

「木崎湖まではもう少しありますし、昼食もここでいただきましょう」

「賛成です!」

 華が元気よく返事をする。

 ……ただし。

 プリウスのドアが開いた瞬間。

「……」

 華の動きが止まった。

 続いて桜も降りてくる。

 二人とも、しばらく無言だった。

「華ちゃん?」

 みなみが声を掛ける。

「大丈夫?」

 華はゆっくり頷いた。

「……大丈夫」

 一拍置く。

「たぶん」

 桜も深呼吸をしていた。

「島見さん?」

 真宵が心配そうに見る。

「桜?」

「はい」

「そんなにだった?」

 桜は少し考えた。

 そして。

「はい」

 即答した。

「かなり」

 華も頷く。

「私……」

「うん」

「彩鼓先輩の運転を甘く見ていました」

 彩鼓が振り返る。

「え?」

「ごめんなさい」

 華は真剣だった。

「でも怖かったです」

「そんなに?」

「そんなにです」

 桜も続く。

「車って、本来は一定の速度で走るものだと思っていました」

「うん」

「でも彩鼓先輩の運転は」

 桜は遠い目をする。

「加速、減速、車線変更、全部にイベントが発生するんです」

「イベント?」

 みなみが首を傾げる。

「はい」

「普通の運転では起こらないような緊張感があります」

 華も力強く頷く。

「カーブのたびに」

「次はどっちに曲がるんだろうって」

「人生で初めて思いました」

「そこまで!?」

 みなみが驚く。

 真宵はため息をついた。

「想像以上だったみたいね」

「真宵先輩」

 桜が言う。

「帰りは……」

「まだ考えないで」

 真宵は遮った。

「今は昼食」

「はい……」

 二人は素直に頷いた。

 彩鼓だけが不思議そうだった。

「でも、安全運転だったよ?」

 全員が彩鼓を見る。

 数秒の沈黙。

「……」

「……」

 そして。

 桜が静かに言った。

「彩鼓先輩」

「はい」

「その自信が一番怖いです」

「えー」

 彩鼓は納得していなかった。

 気を取り直して。

 一行は道の駅中条の食堂へ向かった。

「ここは何がおすすめなんですか?」

 華がメニューを見る。

「おぶっこですわ」

 澄香が答える。

「おぶっこ?」

「長野の郷土料理です」

 真宵が説明する。

「ほうとうに似た、幅広の麺を使った煮込み料理ですね」

「味噌煮込みほうとうみたいな感じですか?」

 桜が聞く。

「そうです」

 澄香が頷く。

「野菜がたくさん入っていて、寒い時期にも合いますが、夏の山間部でも人気があります」

「おいしそう!」

 華の表情が戻った。

「さっきまで死んだ顔してたのに」

 みなみが笑う。

「食べ物は別です!」

 華は即答した。

 桜もメニューを見る。

「せっかく長野に来たんですし、食べてみたいですね」

「私も」

 彩鼓が手を挙げる。

「おぶっこ!」

 真宵は苦笑した。

「運転の話は一旦忘れて」

「はい!」

 こうして一行は。

 道の駅中条名物のおぶっこを味わいながら。

 木崎湖までの最後の道のりに備えることになった。

 ただ。

 華と桜だけは。

 食事をしながらも。

 時々、駐車場に停まっている白いプリウスを考えていた…。

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