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第71話 いざ、木崎湖へ

 7月31日。

 午前7時。

 新潟市中央区。

 月潟財閥本社ビル前。

「おはようございます!」

 華が元気よく駆け寄る。

「おはよう」

 真宵が手を振る。

 2台の車が停まっていた。

 1台は月潟財閥の専属運転手が運転するワンボックス。

 もう1台は彩鼓の白いプリウスだった。

「これが私の車!」

 彩鼓が得意そうに言う。

「さて」

 澄香が微笑む。

「どちらに乗るか決めましょう…犠牲は少ないほうがいいでしょうし」

「じゃんけん!」

 彩鼓の一言で決まった。

 数回の勝負の末。

 彩鼓のプリウスには、

 彩鼓。

 華。

 桜。

 三人。

 月潟財閥の車には、

 真宵。

 澄香。

 みなみ。

 三人が乗ることになった。

 出発前。

 真宵は桜の肩に手を置いた。

「桜」

「はい?」

「何があってもシートベルトだけは絶対に外さないで」

「はい?」

「華も」

「もちろんです!」

「……お願いね」

 真宵は本気だった。

 午前七時三十分。

 二台は出発した。

 先頭は彩鼓のプリウス。

 北陸自動車道へ向かう。

「まずは北陸道!」

 彩鼓はご機嫌だった。

「それから上信越道に入って、長野須坂東インターで降りるよ!」

「楽しみですね」

 華が笑う。

 加速車線へ入る。

「行きまーす!」

 彩鼓がアクセルを踏み込む。

「きゃっ!」

 華の体がシートに押し付けられる。

「彩鼓先輩!」

 桜が声を上げる。

「アクセル!」

「大丈夫!」

 彩鼓は笑顔だった。

「合流できた!」

 しかし。

 ハンドル操作は落ち着かない。

 ふらっ。

 すっ。

 ふらっ。

「右です!」

 桜が叫ぶ。

「あっ!」

 今度は左へ寄る。

「左です!」

「あっ!」

 さらに。

 前方の車に気付いて。

「わっ!」

 急ブレーキ。

「きゃあああ!」

 華が前につんのめる。

「うわっ!」

 桜もシートベルトに引き戻される。

「ご、ごめん!」

 彩鼓は悪びれない。

「今のはセーフ!」

「セーフじゃありません!」

 桜は悲鳴に近かった。

 数分後。

 今度は車線変更。

「行くよー」

 ウインカー。

 そして。

 ゆっくり寄り過ぎる。

「彩鼓先輩!」

「はい?」

「後ろ!」

「あっ!」

 慌てて戻る。

「今度こそ」

 再びウインカー。

「きゃっ!」

 車がふらつく。

「華先輩、大丈夫ですか!?」

 桜が見ると。

 華は。

「…………」

 青ざめた顔で前だけを見ていた。

「華先輩!」

「う、うん……」

 返事はした。

 だが。

 笑顔が消えていた。

 十分後。

「……」

 桜は無言。

 左手はアシストグリップ。

 右手はシートを握っている。

 華も同じだった。

 二人とも。

 カーブのたびに身体を踏ん張り。

 ブレーキのたびに息を止め。

 加速のたびに悲鳴を飲み込んでいた。

「楽しいね!」

 彩鼓だけが終始ご機嫌だった。

 一方。

 後続のワンボックス。

 真宵は前を走るプリウスを見つめる。

「……」

「真宵さん?」

 みなみが聞く。

「見て」

 前方。

 プリウスは車線内ではあるものの、

 右へ。

 左へ。

 また右へ。

 時折ぎくしゃくとした加減速を繰り返していた。

 専属運転手が静かに言う。

「十分な車間距離を保ちます」

「お願いします」

 真宵は即答した。

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