第66話 いつもの部活
「それでは」
巻が言った。
「今日は皆さんの普段の部活動を見学させてください」
「普段どおりでいいんですね?」
真宵が確認する。
「はい」
豊栄が頷いた。
「演技をしていただく必要はありません」
「いつもどおりですか」
真宵は少し考えた。
「……それが一番難しい気がする」
「どうしてです?」
桜が聞く。
「彩鼓先輩が来ると、いつもどおりがいつもどおりじゃなくなるから」
「あれ?」
ちょうどその時だった。
ガラッ。
「こんにちはー」
彩鼓だった。
「噂をすれば」
真宵がため息をつく。
「今日は取材だよね?」
「そうです」
彩鼓は部室を見回した。
「初めまして」
巻たちに軽く会釈する。
「相談役の白根彩鼓です」
「本日はよろしくお願いします」
巻も頭を下げた。
「みなみちゃんからお話は伺っています」
「悪い話ですか?」
「いえ」
巻は少し笑った。
「発想が面白い方だと」
「褒められました」
「たぶん違います」
真宵が言った。
豊栄が部室を見渡す。
「皆さんは普段、まず何をされるんですか?」
「その日によります」
桜が答える。
「交信の日もありますし」
「電子工作の日もあります」
真宵が続ける。
「大会前ならARDFの練習もします」
「今日は?」
吉田が尋ねる。
華がホワイトボードを指差した。
そこには、
『今日の予定 一 交信練習 二 アンテナの点検 三 おやつ』
と書かれていた。
「三番がありますね」
栃尾が笑う。
「重要です」
澄香が真顔で答えた。
「部活動には適度な休憩が必要ですわ」
「なるほど」
巻が頷く。
「ちなみに今日のおやつは?」
「マドレーヌです」
「あとクッキーもあります」
澄香が紙袋を開ける。
「これは私が用意しました」
「毎回ですか?」
「だいたい毎回ですわ」
吉田はまたメモを取った。
「お菓子も部活の一部なんですね」
「違います」
真宵が即答した。
「でも、ないと困ります」
華が言った。
「部活ですから」
「だから違う」
真宵が訂正する。
その様子を見ていた巻が笑う。
「本当に楽しそうですね」
「え?」
華が首を傾げる。
「皆さんの会話です」
「漫才みたいです」
豊栄も苦笑する。
「そんなつもりはないんですけど」
真宵が言う。
「普段からこんな感じなんです」
「脚本を書く立場からすると」
吉田がメモ帳を閉じた。
「こういう自然な掛け合いが一番難しいんですよ」
「そうなんですか」
桜が驚く。
「作ろうと思っても作れません」
「へぇ」
彩鼓が興味深そうに聞く。
「じゃあ録音します?」
真宵が即座に振り向く。
「何を言い出すんですか」
「参考資料になるかなって」
「十分参考になってます」
吉田は笑った。
「むしろ、このまま見ているだけで勉強になります」
その言葉に、部員たちは顔を見合わせた。
どうやら。
自分たちにとっては当たり前の日常が。
ドラマを作る人たちには新鮮に映っているらしかった。
取材は、まだ始まったばかりだった。




