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第65話 「取材班がやって来た」

 木曜日。

 放課後。

 新潟中央女子学園・はむぶ部室。

「来るんですよね」

 桜が言った。

「来るね」

 真宵が答える。

「来ますわね」

 澄香が紅茶を注ぐ。

「来る!」

 華はなぜか楽しそうだった。

「何がそんなに楽しみなんですか」

「テレビの人が来るから!」

「テレビ局の人です」

 桜が訂正した。

 その時だった。

 コンコン。

 部室のドアがノックされる。

「失礼します」

 入ってきたのは四人だった。

 一人はスーツ姿の女性。

 一人は眼鏡をかけた男性。

 一人はスケッチブックを抱えた男性。

 そして。

「みなみちゃん、お疲れ」

「お疲れ様です!」

 みなみが立ち上がる。

 女性が笑顔で頭を下げた。

「越後放送です」

 全員が会釈する。

「開局七十五周年記念ドラマのプロデューサーをしております、巻真紀です」

「ディレクターの豊栄晃一です」

 眼鏡の男性が続く。

「脚本担当の吉田創です」

 若い男性が頭を下げる。

「美術担当の栃尾健です」

 スケッチブックの男性も会釈した。

「本日はよろしくお願いします」

「よろしくお願いします」

 部員たちも頭を下げた。

 豊栄ディレクターが部室を見回す。

「思ったより普通ですね」

「普通です」

 真宵が即答した。

「そうなんですか?」

 豊栄が聞く。

「普通です」

 真宵は二回言った。

 取材は穏やかに始まった。

 活動内容。

 無線資格。

 交信。

 電子工作。

 部員構成。

 吉田は熱心にメモを取り続けている。

 栃尾は部室の様子をスケッチしていた。

「女子高のアマチュア無線部って、本当に珍しいんですね」

 豊栄が言った。

「そうみたいですね」

 桜が答える。

「私も入学するまで知りませんでした」

「私も」

 みなみが笑った。

「入ったら思ってたのと全然違った」

「何を想像してたんですか?」

「もっと静かな部活」

「それは私も思ってました」

 桜は頷いた。

 今では完全に諦めている。

 その時だった。

「そういえば」

 巻が言った。

「先日、合同演習をされたとか」

「あー」

 真宵が頷く。

「江南実業高校さんとのやつですね」

「はい」

「みなみちゃんから聞きました」

 巻は笑った。

「かなり本格的だったそうで」

「本格的でした」

 桜が答える。

「思った以上に走りましたし」

「私はもう二度と走りたくありません」

 真宵が言った。

「まだですか?」

 桜が聞く。

「階段がつらい」

「まだなんですね」

 部室の反対側では。

 澄香が紅茶を飲んでいた。

「澄香先輩は?」

「問題ありませんわ」

 そう言った直後。

 立ち上がる時に少しだけ動きが止まった。

「……」

「……」

「問題ありませんわ」

 もう一度言った。

 桜は何も言わなかった。

 その方が優しさだと思った。

 一方。

 華は元気だった。

「華先輩は治ったんですね」

「うん!」

 華は元気よく立ち上がる。

 普通に立てた。

「やっと!」

「よかったですね」

「昨日までちょっと残ってたけど!」

「残ってたんだ」

 真宵が呆れた。

 巻は笑いながら言った。

「皆さん仲が良いですね」

「腐れ縁です」

 真宵が答える。

「幼なじみもいますし」

 みなみが言う。

 すると吉田が顔を上げた。

「幼なじみ?」

「彩鼓先輩と真宵先輩です」

 桜が説明する。

「へぇ」

 吉田はまたメモを取る。

 さらさらさら。

「何を書いてるんですか」

「参考資料です」

「本当に参考資料なんでしょうか」

 桜は疑っていた。

 そして。

 吉田は次の質問をする。

「皆さんが入部したきっかけを教えてもらえますか?」

 桜は嫌な予感がした。

 華が勢いよく手を挙げる。

「はい!」

「どうぞ」

「ハムを食べる部活だと思いました!」

 沈黙。

 巻が俯く。

 豊栄が眼鏡を外す。

 栃尾が肩を震わせる。

 吉田だけが猛烈な勢いでメモを書いていた。

「書くな!」

 真宵が叫んだ。

「でも実話ですよね?」

「実話ですけど!」

「実話なんだ……」

 豊栄が呟く。

「残念ながら」

 桜も頷いた。

 華は胸を張った。

「でも資格取れました!」

「結果オーライなんだよね」

 みなみが笑う。

 巻も笑顔で言った。

「ドラマを作るために来たんですけど」

「はい」

「皆さんを見ていると、脚本より先に取材記録の方が面白くなりそうです」

「やめてください」

 真宵が即答した。

 だが。

 吉田はメモ帳を閉じながら言った。

「いや、本当に参考になります」

「そうですか?」

「はい」

 そして部室を見回した。

「アマチュア無線の話だけじゃなくて、こういう何気ないやり取りが見たかったんです」

 その言葉に。

 部員たちは少しだけ顔を見合わせた。

 どうやら取材班は。

 はむぶの活動だけでなく。

 はむぶそのものを見に来ているらしかった。

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