第64話 「大きな相談」
火曜日。
放課後。
新潟中央女子学園・はむぶ部室。
昨日よりはましだった。
とはいえ。
「いたっ」
真宵が椅子に座る。
「まだ痛いんですか」
桜が聞く。
「階段が敵」
「重症ですね」
部室の反対側では。
「ふぅ……」
澄香が優雅に紅茶を注いでいた。
ただし。
立ち上がる時だけ少し時間がかかる。
「澄香先輩もまだですよね」
「いいえ」
「ですよね」
認めなかった。
華はというと。
「いたたたたた」
昨日とあまり変わっていなかった。
「悪化してません?」
桜が聞く。
「たぶん」
「たぶんじゃない」
真宵が言った。
そのとき。
ガラッ。
「おはよー」
「放課後ですよ」
みなみだった。
昨日に続いて部室へ現れたアイドル部員。
桜はまだ少し慣れていない。
テレビで見る人が普通に部室へ入ってくる状況が不思議だった。
「そういえば」
彩鼓が言う。
「昨日の相談って何?」
「あー、それ」
みなみは椅子に座った。
少しだけ表情が真面目になる。
「実はね」
部員たちがみなみを見る。
「越後放送の開局七十五周年記念ドラマに出ることになったの」
「へえ」
真宵が頷く。
「すごいじゃん」
「高校生メンバー三人だけなんだけどね」
「みなみちゃん出るんですか?」
華が聞く。
「出るよ」
「主役?」
「まだ分かんない」
みなみは笑った。
そして。
「問題はそのドラマの内容なんだよね」
「内容?」
桜が首を傾げる。
「女子高のアマチュア無線クラブの話なんだって」
沈黙。
数秒。
「は?」
真宵が言った。
「え?」
華が言った。
「ほう」
彩鼓が身を乗り出した。
「アマチュア無線クラブ?」
桜が確認する。
「うん」
みなみは頷いた。
「最初に聞いた時、私もびっくりした」
「私もびっくりしてます」
桜が言う。
そんな題材のドラマが存在するとは思わなかった。
「それでね」
みなみは続ける。
「制作スタッフさんが」
少し間を置く。
「本物のアマチュア無線部を見たいって」
全員が静かになった。
嫌な予感がする。
非常にする。
「待って」
真宵が言った。
「まさか」
「そのまさか」
みなみは笑顔だった。
「みんなに取材協力をお願いしたいんだって」
「嫌な予感しかしない」
桜が思わず言った。
「なんで?」
みなみが聞く。
「うちを見たら普通のアマチュア無線部だと思われません」
「確かに」
真宵が即答した。
「そこは否定しないんですね」
「できない」
真宵は断言した。
彩鼓は既に乗り気だった。
「面白い」
「彩鼓先輩は黙っててください」
「まだ何も言ってない」
「言わなくても分かります」
桜は学習していた。
すると澄香が紅茶を置く。
「取材はいつですの?」
「来週くらいらしいよ」
みなみが答える。
「まず見学して、それから脚本作るんだって」
「脚本」
華が反応した。
「ということは」
全員が嫌な予感を覚えた。
「私が主人公ですか?」
「違うと思う」
真宵が即答した。
「部長ですよ?」
「違うと思う」
「部長なのに」
「違うと思う」
二回言った。
華は少し落ち込んだ。
「主人公じゃないかもしれない……」
「そこ気にするんだ」
桜が言う。
みなみは笑いながら続けた。
「でもスタッフさん、本当に楽しみにしてるみたい」
「楽しみにされてもなあ」
真宵が呟く。
「女子高のアマチュア無線部なんて珍しいし」
「それはそうですわね」
澄香も頷いた。
そして。
彩鼓がゆっくり立ち上がる。
嫌な予感しかしなかった。
「これは」
「何ですか」
「はむぶの名を全国へ轟かせる時が来た」
「ローカルドラマです」
真宵が言った。
「新潟県内です」
桜も言った。
「細かいことは気にしない」
「気にしてください」
全員が思った。
こうして。
越後放送開局七十五周年記念ドラマと、はむぶ。
思いもよらない接点が生まれた。
そして部員たちはまだ知らない。
取材に来たスタッフたちが、予想以上に濃い面々だったことを――。




