第59話 「西海岸公園フォックスハント大騒動」
日曜日。
朝9時新潟市中央区西海岸公園には、朝の潮風が吹いていた。
村上市から新潟市西蒲区にまたがる新潟砂丘。
そのうちの新潟島と言われる中に広がる黒松林。
長い散策路。
日本海を挟み遠くにかすかに見える佐渡島。
新潟砂丘でも新潟島の中の一部を公園化しているとは言え、東西に5kmに広がっている。
「広っ……」
寺尾華が、ぽかんと呟いた。
「だからARDF向きなのよ!」
亀田紗友里が地図を広げる。
「松林!散策路!起伏!完璧!」
「なんでそんな嬉しそうなんですか」
西蒲真宵が呆れる。
月潟澄香は、静かに海風を受けていた。
「気持ちのいい場所ですね」
「ピクニックみたい!」
華が言う。
「今から走るんだけど」
白根彩鼓は、車のボンネットに機材を並べていた。
受信機。
小型アンテナ。
地図。
「じゃ、ルール確認――」
そのときだった。
遠くから。
「紗友里先輩ー!!」
声。
振り向くと。
ジャージ姿の集団が、松林の向こうから走ってきた。
「えっ」
真宵が嫌な予感を察知する。
「連れてきたわ!」
紗友里が満面の笑みで言った。
「江南実業高校無線部ARDF班精鋭部隊!!」
沈黙。
「なんで」
彩鼓が真顔で聞く。
「対抗戦のほうが燃えるでしょ!」
「聞いてない」
五人の部員が、一斉に頭を下げた。
「よろしくお願いします!」
全員、妙にガチ装備だった。
ランニングシューズ。
軽量バッグ。
アンテナホルダー。
「怖っ」
華が一歩下がる。
「江南実業高校ARDF班です!」
一年らしき女子が元気よく言う。
「県大会団体二連覇中です!」
「帰りたい」
真宵が呟く。
紗友里が、びしっと桜を指差した。
「そしてこちら!!」
「島見杏果の妹!!」
桜がまた固まる。
「だからその紹介やめてください……」
「総合通信局勤務の妹よ!?」
「姉です」
「絶対強い!!」
「理論がずっと雑なんだよなぁ」
彩鼓が呆れる。
江南実業高校の部員たちがざわつく。
「えっ、あの島見杏果さんの?」
「長野総合通信局の?」
「マジで?」
桜がどんどん縮こまる。
「プレッシャーで潰すのやめなよ」
真宵が止める。
しかし紗友里は止まらない。
「というわけで!!」
地図を掲げる。
「本日は!!」
一呼吸。
「新潟中央女子学園はむぶ VS 江南実業高校ARDF班!!」
「なんで!?」
華が叫ぶ。
「対抗戦形式で行います!!」
「聞いてない!」
真宵が即座にツッコむ。
「楽しそうですね」
澄香だけが穏やかだった。
彩鼓が深いため息をつく。
「亀田さぁ……」
「なによ」
「なんで毎回、話を大きくするの」
「青春だからよ!」
「勢いだけで生きてる……」
そんな騒ぎの中。
桜は、小さく周囲を見回していた。
江南実業高校の部員たち。
手慣れた装備。
無駄のない動き。
(本当に精鋭なんだ……)
すると。
「でも」
彩鼓が、ふと桜を見る。
「ちょうどいいかもね」
「え?」
「“島見杏果の妹”じゃなくて」
にやっと笑う。
「島見桜として、どこまでやれるか」
一瞬。
空気が静かになる。
桜は、小さくアンテナを握った。
緊張。
でも、それ以上に――
(……やってみたい)
そんな感情が、少しだけ勝っていた。
「送信開始五分前!!」
紗友里が叫ぶ。
「各チーム準備!!」
海風が、黒松を揺らす。
遠くで波の音。
その中で。
『――ピー……』
最初のFOXが、鳴いた。
「行くわよォ!!」
紗友里が爆走した。
「速っ!?」
華が叫ぶ。
「だから走る競技だって言ったでしょ!」
真宵が追いかける。
澄香は静かに歩き出す。
彩鼓は、桜の横に並ぶ。
「さて」
少しだけ笑う。
「島見桜の実力、見せてもらおうか」
その言葉に。
桜は、静かに頷いた。
そして。
初めてのARDF対抗戦が、始まった。




