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第58話 「えーあーるでぃえふってなーに?」

 新潟中央女子学園・はむぶ部室。

 放課後。

 部室には、いつもの空気が流れていた。

 月潟澄香の紅茶。

 机の上のお菓子。

 無線機の微かなノイズ。

「じゃあ、ここをこう設定して……」

 西蒲真宵が、パソコン画面を見ながら説明する。

「なるほど……」

 島見桜が頷く。

「つまり押したらなんか動く!」

 寺尾華が元気よく言った。

「理解が雑だな…」

 そのとき。

 ガラッ!!

 勢いよく、部室の扉が開いた。

「見つけたわよォ!!」

 一瞬で。

 部室の空気が凍る。

「……うわ」

 白根彩鼓が露骨に嫌そうな顔をした。

「げっ……」

 真宵が本音を漏らす。

 月潟澄香ですら、静かに視線を逸らす。

「え?」

 桜だけが状況を理解できていない。

 ジャージ姿の女子が、堂々と部室へ入ってくる。

 首にはタオル。

 手には地図ケース。

 そして、妙にテンションが高い。

「久しぶりね、彩鼓!」

「帰って」

 彩鼓が即答した。

「冷たっ!?」

「なんでいるの」

 真宵が呆れた声を出す。

「アンタとアンタの後輩の様子を見に来たのよ!」

「江南実業高校だろ!お前の母校は!」

「細かいことはいいの!」

 桜が小さく聞く。

「あの……このテンションが異常に高い人は誰ですか?」

 一瞬、沈黙。

 彩鼓が嫌そうに答える。

「江南実業高校OG」

「亀田紗友里」

 紗友里がびしっとポーズを決める。

「元ARDF県大会優勝者よ!今は越後国際技術大学通信工学部1年よ!」

「うわ出た」

 真宵が頭を抱える。

「ARDF……?」

 桜が反応する。

「えーあーるでぃえふってなーに?」

 華が聞いた。

「そこから!?」

 紗友里が叫ぶ。

「華は黙ってお菓子食べてて」

 真宵が押し戻す。

「聞きなさい!」

 紗友里が勢いよく言う。

「ARDFとは!!」

 無駄に溜める。

「“Amateur Radio Direction Finding”!!」

 沈黙。

「……あるでふ」

 華が呟く。

「略すと分からない」

 桜が、小さく手を挙げた。

「あの、説明してもいいですか?」

「あっお願い」

 真宵が即答する。

 桜は少し考えてから、ゆっくり言った。

「簡単に言うと……」

「姉の勤めてる総合通信局が、不法無線局を探す訓練みたいなものです」

 一瞬。

 部室が静かになる。

「おおー……」

 華が素直に感心した。

「つまり、電波の出てる方向を探して」

 桜は続ける。

「どこから送信してるかを見つける競技です」

「そう!」

 紗友里が食い気味に入る。

「山とか広い場所に送信機を置いて!」

「受信機とアンテナで方向を探す」

 桜は机の上のペンをアンテナ代わりにしながら説明する。

「送信機は複数あって、順番に電波を出します」

「順番?」

 澄香が静かに聞く。

「はい。例えば1番が送信してる間に方向を探して、止まったら次を探す感じです」

「で、走る!!」

 紗友里が勢いよく言った。

「走るの!?」

 華が驚く。

「走るわよ!」

「不法無線局探す人って走るの!?」

「実際はそんなに走らないと思う。実際ほとんど車らしいし」

 真宵が冷静に言う。

「でも雰囲気は近いです」

 桜がフォローする。

「方向を読む感覚とか」

 彩鼓が、そこで小さく頷いた。

「なるほどね」

(だから受信感覚がいいのか)

 紗友里が、突然びしっと桜を指差す。

「だから!!」

「島見杏果の妹なら強いはず!!」

 桜が固まる。

「なんでそうなるんですか……」

「総合通信局よ!?」

 紗友里は力説する。

「不法局を探してる人の妹よ!?」

「いや、姉が仕事にしてるだけで……」

「絶対強い!!」

「理論が雑」

 真宵が即答した。

 彩鼓も呆れたように言う。

「紗友里、“島見杏果の妹”ってだけで期待値上げすぎ」

「当然でしょ!」

 地図ケースを掲げる。

「今度の日曜!」

「練習ARDF開催!!」

 華が勢いよく立ち上がった。

「不法無線局探し!!」

「そこだけ覚えたな?」

 そんな騒がしい空気の中。

 桜は少し困ったように笑っていた。

 でも。

(ちょっと面白そうかも)

 そう思ってしまったのも、事実だった。

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