王の御前
僕は、目を覚ましてから、30分で、見知らぬメイドに連れられて、王宮のような建物を歩いている。
なんとかこの状況を打破したいところだけれども、現状がわからなければ、安易に行動して、危険な状況に陥るのは危ない。
ならば、とりあえず、流れに身を任せよう。
僕は、脱走する機会を伺いながらも、まず従順にメイドについて行くことにする。
何度も曲がり角を曲がった後、メイドは、大きな扉の前で立ち止まる。
「では、こちらからお入りください」
そう言うと、メイドは、開き扉の片方を開ける。
僕は、周りを見渡しながら恐る恐る中に入る。
部屋の中は、大広間になっており、大理石の石柱が’奥まで続き、赤い絨毯がその真ん中を埋め尽くしている。
——奥に誰かいる。
僕は、部屋の奥に、ローブを着た魔導士と、椅子に座る1人の男を視認する。
進むな、と僕の直感が囁く。
しかし、後ろの扉はすでに閉められ、前に進むしかない。
僕が、立ち止まって警戒していると、ローブを着た人物が歩み寄ってきた。
「どうぞ、もっと王にお近づきください」
王だって? あの椅子に座っている男が王なのか。
なぜ俺は王に呼ばれたのか、待てよ、そもそもどこの国の王なのか。まさか‥‥‥
僕は、少しばかり恐れていることをバレないように、堂々と振る舞えながら、天界大統領と呼ばれる人物に近づく。
「よくきたな、お前がアスカか」
王と呼ばれた男が、僕が近づくとおもむろに話し出した。
なぜこの男は、僕の名前を知っているのか、警戒心をむき出しにしながら、僕は男を注視する。
「おうおう、さすがの警戒心だな、まあそれでよろしい。お前は今、私が誰なのか考えているのだろう」
「‥‥‥」
僕は、無言を貫く。
「教えてやろう、私が一体誰なのか。私こそが、天界王だ。下界どもは天界大統領とも呼んでおるが。さあ、いいのか、アスカよ、お前が殺したくて殺したくて仕方がなかった奴が目の前にいるぞ。復讐しなくていいのか?」
目の前の王は、自らを天界大統領だと名乗った。
この世界を弱肉強食にした元凶、先日の戦争を引き起こすきっかけになった人物で、僕がこれから探し出し、倒そうと思っていた人物。
その人物が、今目の前にいる。
僕は、考えるよりも先に体が動き、即座に詠唱する。
「我が、願いは新羅を超えて、神に届かん、「照見五蘊」
火球、水球、雷球、風球、土球を現界させ、今出せる最大魔導を天界大統領にぶつける。
が、魔導が僕の手を離れた瞬間、天界大統領は、手を振りかざし、短く詠唱する。
「カラドボルグ」
その瞬間、直径1mほどの円柱が上方に現界し、僕の魔導を上から叩き潰した。
僕は目と耳を疑う。
僕の魔導を一瞬で消しとばす魔導を現界させる時、天界大統領は確かに言った。
——カラドボルグと‥‥‥
その技は、初代魔導具士だけが使うことができた秘技であるはず。
そして、現在は、初代魔導具士の生まれ変わりである僕だけが使用できる秘技であるはずが‥‥‥天界大統領は確かにその技を使ったのだ。
しかも、しっかりと力をコントロールした状態で。
「アスカ、顔が物語っておるぞ、なぜ私が、カラドボルグを使えるのかと」
「お前は一体‥‥‥」
「まあ、そう慌てるな。アスカ、お前は俺に勝てないし、ここで暴れるとお前は確実に死ぬぞ。もう二度と、あの下界の姫とは会えなくなるぞ、いいのか? 合理的に考えろ」
悔しいが、現状、明らかに僕より天界大統領の方が力が強い、直感もそう囁くし、先ほどのカラドボルグを見せられては納得せざるおえない。
僕は、ゆっくりと挙げた手を下げる。
「良い判断だ、まあまず、なぜ私が『カラドボルグ』を使えるか教えてやろう。この技はな、特定の人物にしか扱えないのだ」
「それは知っている、その魔導は魔導具士にしか扱えないはず」
「お前は勘違いしておる。この秘技はな、魔導具士にしか使えないのではない。の血を引く者にしか使えないのだ」
「王家の‥‥‥血を引く者‥‥‥?」
「そうだ、つまりだ、お前がその技を使えるということは、お前は王家の血を引く者だということだ」
「僕が、天界大統領の親戚だって? そんなはずはない!」
「何だ、アスカは何も知らないのか。親戚もなにも、お前は、私の孫ではないか」
「孫!?」
天界大統領が何を言っているのか全く理解できない。
いや、言葉は理解できるのだが、内容の辻褄が全く合わない。
「孫なんて、そんなはずはない。なんせ、僕は、日本王国で生まれたんだ」
「アスカ、お前は親のことをどれくらい知っているのか」
「母親は、僕が幼い頃に亡くなった」
「父親は?」
「父親は‥‥‥知らない」
「まあ、それもそうだろう、お前にというよりは世間に隠さないといけないことだったっみたいだからな。単刀直入に言おう、アスカ、お前の母親は、ユキナ・ニベリウムは、私の娘だ。本来ならば、この私の後継者であるはずだったのだが、あの分からず屋は下界に降りて行ってしまった。まあ、結果としてアスカのような強い力を持った子どもを授かったわけだから、王家の役目は果たしたわけだ。実に喜ばしいことだ‥‥‥と、喜びたいところだが、お前は私に反逆した」
「そんなこと、あるはずないだろ、母上が、天界王の娘だなんて」
僕は、衝撃の事実を突きつけられ、半歩後ずさりする。天界大統領が言うことを全く信用できないし、信じられない。さらに警戒心をむき出しにする。
そんな僕の警戒を簡単に瓦解させるような気迫で、天界王は僕を睨み返しそして、低く威圧感のある声で荒く叫ぶ。
「いいか、真実を告げたのには意味がある。アスカ、お前はこのままここで死んでくれ。天界王の孫が天界への反逆者であることなど許されるはずがないのだからな。それに、わしはもう飽きた。元々地球は、ただ魂の生産プラントとして作っただけなのに、余計な知恵をつけて天界にまで刃向かってきた。もはや、愚か者で物言う家畜である地球人などいらん。そして、天界人と地球人のハーフであるアスカ、お前もいらんここで死ね」
視界の上方が黒くなり、微かに光が反射する。——刃物か!
咄嗟にアスカは、素早い身のこなしで横に倒れて刀を避ける。
「ククク、この転生者もとい神と土民のハーフの子。ついに大統領から殺しの許可が下りた。やっと心置きなく殺せるな」
アスナに刃物を向けたのは因縁の相手、ニールだった。




