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姫の戦い

「千葉県館山より観測情報! 東京湾に米帝強襲揚陸艇が入湾」

「お台場に魔導士部隊出現との一報あり! 魔導士の派遣を求めています!」


王宮内に設置されている司令所には約50人程が詰めており、ひっきりなしに上空を情報が飛び交う。



そんな中、時より一際大きく端正な声色が司令室に響き渡り、各員に指令を伝えていた。


「ただちに百里基地からF-2を上げて、対艦戦闘を開始してください、お台場には、対地ミサイルを発射。魔導士が到着するまで、それで凌ぎます。早く護衛艦隊が到着すれば状況はかわるのですが、呉港からでは、すぐには無理ですね」



その的確に指令を飛ばしているのは、そう、姫様だった。

次から次へと、情報を捌く姫様に、話しかける隙はなく、僕らは警護エリアに移り、静かに姫様の警護を開始する。


かれこれ30分程度経っただろうか。

相変わらず姫様はひっきりなしに情報を捌いている。

すると、突然、司令室に眉間にシワを寄せたユーリ・シルベニスタが入ってくる。

そして、姫様に詰め寄る。


「姫様! 少しは休息してください。かれこれ6時間は飲まず食わずですよ」

「ユーリ。私のことは大丈夫です。食事を取れば、生理現象が起こります。その時間が勿体なさすぎます」

「食べることも司令官の仕事です」

「ならば、栄養ドリンクを持ってきてください」

「ここは、このユーリが一旦引き継ぎますから、姫様お願いします」

「……わかりました。あなたがそこまで言うならば、五分だけ席を外します」


ユーリの必死の説得にやっと応じる姫様。

姫様は司令官席から扉の方に降りてくる。

警護班は扉の横に待機していたため、みんなで立ち上がり、姫様がお通りになるところを見守る。

姫様はまだこちらに気づいていない。

そして、扉の近くまで来た時……。


「ア、アスカ? どうしてあなたがここに?」


姫様と僕の目が合い、姫様は歩みを止める。

そして、突然僕が現れたせいで、僕と姫様の関係性を隠すといった、周りへの体裁を考慮するのを忘れて、姫様は僕の名を呼ぶ。

だが、この非常事態下では、周りあの体裁なんてどうでもいい。

だから僕は、姫様の問いかけに答える。



「姫様の警護を担当することになりました」

「そうだったのね。大変な事態になってしまったけど、アスカが近くにいてくれるならば心強いわ。よろしくね。アスカ」


そう言ってから暇様は司令室から一時退出する。


「ちょっとアスカ、前々から思ってはいたんだけど、アスカって姫様とお知り合いなの?」



ナオミが僕の肩を小突きながら訊いてくる。

先程の会話を聞かれてしまった以上、シラを切ることは無理そう。


「じつは、昔同じ小学校に通ってたんだ」


僕は、数ある情報の中から当たり障りのないものを選んでみなに提示する。


「え!? 姫様と?」

ヒビトとマミ、ナオミは一同驚愕する。


「なんだ、そうなら言ってよ、かなり親しそうだから、ただならぬ関係なんじゃないかって疑ったじゃない」


ナオミは僕と姫様の会話を聞いただけで、親密度が高いと見抜いたらしい。

危なかった。

小学校の時の知り合いということでなんとか納得してくれたらしい。


「かなり仲が良かったの?」

ナオミが僕に訊く。


「話していただけるぐらいには」

「いいな〜私も姫様とお知り合いになりたいな〜」


そう言いながらナオミは椅子に座り直す。

すると、マミがナオミの肩をちょんちょんと叩くのが見えた。

そして、マミはナオミの耳元で僕に聞こえないくらいの小さな声でナオミに話しかける。


「……ナオミちゃん、もしかしてアスカ君の好きな人って……」


するとナオミは目をカッと開いて、笑い出す。


「いや、流石にそれはないでしょ。大丈夫よマミ。それ事実としたら、すでにバレてて王国中の騒ぎになってるわ」


なんの話だろうか。

よく分からないが女子同士の会話に入ると痛い目に合いそうだから、何を話していたか訊くのはやめておこう。



その後、姫様はすぐに休息から帰ってきて、再び陣頭指揮を取り始める。


僕ら警護班も2交代制にして、分担して姫様の警護に当たることにする。


米帝と中つ国との、戦争はなんとかこう着状態まで持ち込むことに成功し、各戦場で一進一退を繰り広げている。

急に責められたにもかかわらず、なかなかの戦況である。

しかし、この絶妙な均衡状態も長く続かなかった。



次の朝7時


——ピーーーー


司令室に緊急通信を伝えるベル鳴り響き、即座に通信員が受話器を取る。


「こちら王宮司令室。九州司令部どうしましたか?」

「こちら九州司令部。九州に米帝も侵攻開始。直ちに魔導士の追加派遣をお願いしたい!」


その通信は、九州司令部からの応援要請だった。

通信員はすぐさま姫様に駆け寄り、通信内容を伝える。


「そんな、東京もいっぱいいっぱいなのに……」


姫様は机に手をつきながら下を見る。

これ以上、九州に魔導士の援軍を送ってしまえば

今度は東京が危ないため、容易には援軍を出せない。

そして、他国への援軍要請も音沙汰ない、今の状況では、これ以上どうすればいいか分からず姫様は頭を抱える。

その姫様の姿を見て誰も声をかけることができない。


が、姫様意外にもすぐに顔をあげ僕の方を見る。

正確には僕の後ろにいる人物を見た。

その視線を察したユーリ・シルベニスタが、姫様の前にでて、進言する。


「姫様! それはなりませぬ。ユミ・クルルギを九州に向かわせては、いざという時に姫様を守ることができる者がおりませぬ」

「ユーリ、心遣いありがとう。だけれども、今はそんなことを言っている場合ではないわ。今は王国が滅亡するか否かの瀬戸際。今、九州の帝級魔導士達が敗れるようなことがあれば、この国は滅びます。

だけれども、例え私が死んだとしても、九州地方が生き残り、帝級魔導士やお父様も健在であれば、この国は、まだ生き残ることができます。ならば私は、この国が生き残る策の方に希望を託したい。ユミ・クルルギさん。絶対防壁という類い稀なる魔導を持つ魔導士。行ってくれますか?九州に……」


ユミ姉を真っ直ぐ見据える姫様。

一方ユミ姉は、一瞬何かを言いかけたが、すぐに黙ってしまう。

そして、僕の方を静かに見る。

そこには、普段、姉さんとしてのユミ姉がいた。

僕にはユミ姉が何を考えているか分かった。

ユミ姉は、姫様と一緒に僕も守る気でいたんだ。

しかし、九州に行ってしまえば、僕が危ないときに、僕を守れなくなってしまう。

それをユミ姉は危惧している。


「ユミ姉、僕は‥‥‥大丈夫だから。今、僕は1人じゃない。仲間もいるから。だから行ってきて、師匠を助けてきて」


僕は、ユミ姉の気持ちを察して、真剣な眼差しで言う。


「アスカ‥‥‥ありがとう。そうね、いつの間にかアスカに諭されるようになってしまっていたわね」


ユミ姉は少し照れ笑いしながら、僕の頭を撫で、そっと抱きしめる。


そして、僕を離すと、姫様の方を向き直し、ユミ姉は真剣な顔つきで告げる。


「姫様の仰せのままに。この身は日本王国民を守るために存在します。どんな敵の攻撃も凌いで、中つ国と米帝から日本王国を守ってみせましょう」

「ありがとう。ユミ・クルルギさん。辛い決断をさせてしまったけれども、今はあなたが頼りだわ。本当にありがとう」


姫様はそういうと深々と頭を下げる。


「そんな姫様、滅相もありません。そんなに頭を下げないでください。もっと堂々と命令していただいてかまいません」


姫様の謙虚深さに、ユミ姉はたじろいてしまう。


「それでは、ユミ・クルルギは早速、進発します。アスカ、姫様のことはお願いしますよ」


そう言い残すと、ユミ姉はすぐに出発してしまった。調布飛行場から軍用機に乗り、2時間ほどで九州に着く。

ユミ姉が行くならば、おそらく九州戦線も建て直すのではないだろうか。


姫様も、司令部の皆も、誰もがそう考え、少しばかり安堵していた。

しかし、事態は僕らが予想するより相当悪い方向に傾いていた。

そのことを僕らは、意外にもすぐに知ることになる。


午前7時に、ユミ姉が進発してから、僕とマミはヒビトと、ナオミに姫様の警護を引き継ぎ、少しばかりの仮眠に入った。

そして、12時ごろ、ヒビトやナオミと昼飯を警護班の机で食べるために起き上がる。

司令部に行くと、まだ姫様は指令を飛ばしていた。

一応、姫様も、僕らが仮眠している間に、三時間ほど仮眠をとったらしいが、たった3時間である。

そんなの寝たことには入らない。

僕はだんだんと姫様の体調が心配になってくる。


その時だった。


突然僕の999魔導具からコード999が発せらた。


「なんだ!」


僕は警報音に驚き、立ち上がる。

そして、司令室のみなも僕の方を見る。


しかし、コード999はすぐにキャンセルされ、999魔導具は沈黙する。

僕はすぐに発信元を確認する。


発信元は……


ソイニー師匠からだった。


ソイニー師匠は今九州で中つ国と戦争中のはず。

そもそも九州から東京まで衛星を経由しないで電波を届かすことなんて可能なのか?

となると、ソイニー師匠から救援要請は誤報か?

僕が頭の中で、ソイニー師匠からの救援要請の真偽を考える。


すると、今度は、突然通信員が「ガタ」っと音を立てながら立ち上がり、青ざめながら呟く


「そ、そんな」


と。


「どうしましたか?」


そして、姫様が間髪入れずに通信員に問いただすと、通信員はゆっくり姫様の方を悲痛な面持ちで見上げ、一言だけ告げた。


「九州地方が消滅しました‥‥‥」


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