第3話 動機がアレな魔王様
「いいじゃないかベリアル! 勇者は辞めたと言っているし、身元もしっかり(?)している。これ以上のガイド役がいるか!」
「どこがしっかりしているのですか! そもそも『勇者』というブランドをポイ捨てして不法侵入してくるような男ですよ! 確実に魔王様を毒すタイプです!」
魔王エレンと側近ベリアルの言い合いは、もはや夫婦漫才の域に達していた。
俺はといえば、玉座の前で中腰のまま、「あ、これ帰っていいやつかな?」と出口の方をチラチラ見ていたのだが。
「待て、フェングラン! 逃げるな!」
魔王の、鋭い指差し確認が飛んできた。
「お前、さっきギルドでイノシシをハンマー一本で消し飛ばしただろう。おまけに魔法で消し炭にしたな。……街の監視網を舐めるなよ?」
「え、バレるの早っ!」
「この街の防犯用魔法具は最新式なのだ! 貴様のその、加減を知らない圧倒的な『勇者パワー』……。今のあたしに必要なのは、それだ!」
エレンは玉座から飛び降りると、俺の手をとって目を輝かせた。
「頼む! あたしをこの退屈な城から連れ出してくれ! 世界を見たいんだ! 美味いものを食べ歩きたいんだ! 勇者一行がいつも楽しそうにBBQしてるのを、あたしは水晶越しに歯ぎしりしながら見ていたんだぞ!」
「魔王様、動機が卑しすぎます! そしてフェングラン殿、その手を離しなさい! 勇者の菌がうつる!」
ベリアルのガードは固かった。だが、魔王はさらなるカードを切ってきた。
「フェングランよ、お前、旅の資金に困っているだろう? 薬草採取で銀貨1枚をチマチマ稼ぐなんて、勇者のやることか?」
「うっ……」
「あたしを連れて行くなら、旅費は全額『ラル王国』の経費で落としてやろう。最高級の宿、最高級の飯、そしてこのあたしが直々に魔法のレクチャーもしてやる! どうだ、この破格の条件!」
「……乗った」
「即答かよ!」
ベリアルのツッコミが、虚しく響いた。
だって、背に腹は代えられない。異世界の物価は、意外と高いのだ。
「決まりだな! よしベリアル、あとの実務は任せたぞ。あたしは『ちょっと勇者の残党を単騎で殲滅してくる』と広報しておけ!」
「無茶苦茶だ! 嘘が雑すぎる! 帰ってきてください魔王様ー!」
阿鼻叫喚の玉座の間を後にして、俺たちは裏口から街へと飛び出した。
魔王エレンは、いつの間にか角を幻影で隠し、地味なローブを羽織っている。……が、隠しきれない「お嬢様感」が、全身から溢れ出ていた。
「ふふふ、ついに自由だ! まずは何をする? 伝説の聖剣を抜きに行くか? それとも古代遺産のオークションか?」
「いえ、まずは掲示板で『スライム駆除』の依頼から始めます」
「地味すぎるだろ!」
こうして、バックレ勇者と家出魔王の、予算だけは無駄にある珍道中が幕を開けた。
……あ、そういえば、一緒に召喚された残りの勇者3人のこと、完全に忘れてたわ。




