ep.48 増える勇者
* * *
【サッチービレッジ 三星】
さて、まだまだいるな。
発言できない奴らが。
全員と直接話せればいいんだがな。
時間がない。乱暴だが乗り切ろう。
「運輸はいいだろう。別にそれだけじゃなくてもいいからな? これから始まる他の活動にも参加したって構わない。他の奴らだって、皆ここがスタートだ」
「知恵はいくらあっても足りない。そして人の手はどれだけあってもいい」
「勿論、働いたら負けなのはわかってる」
「だがな、一年だけやってみてくれ。無理する必要はない。本当に一年だけでいいんだ」
「それだけで600万人の将来が決まるんだ」
「体力的にきついなら無理しなくていい。でもサボるんじゃなくて、考える方に力を使ってくれ」
「頼むよ」
「でだ、次は……そうだな勇者様たちにお願いしよう」
「俺たちの出番か!」
「ああ、スキルも魔法も、武器も防具もないがな」
「っ!」
「だがやりようはある。勇者様たちは、自衛隊の先発隊と共に、新たな生命体の捕獲を頼む」
「き、危険はないのか?」
「うーんどうだろ。今のところ、火を噴いたり、幻惑したりしてきたのはいないっぽいけど……」
「危険じゃないか!」
「え? だって危険に立ち向かい、村人を守るのが勇者だろ?」
「それはそうだが……」
「あ、ポーターはいないから自分たちで運んでね」
「ついでに言うと、最初の50ゴールドもないし、勇者式典もないからね? 自衛隊と連携して、狩りをして、持ち帰って、研究班に渡してね」
「それは勇者じゃない!」
「知らんがな。ハンターでも冒険者でもなんでもいいよ。最初からレベルマックスの勇者なんていないだろ?」
「だが……」
「まずはレベル上げから頑張れ。飯は食える。今はそれだけしか出来ないが、勇者としての役目をはたしてくれ」
「まあ、なんかあっても自衛隊の皆さんが助けてくれるさ、な?3号」
「どうだろな? 奴らだって万能じゃないし」
「あ、そうだ、勇者様たちはエアガン持ってきたのもいるでしょ? それ使ってもいいからね?」
「だけど、できるだけ弾は拾ってね。環境汚染はダメダメ」
「だけど、エアガンだけじゃなくて、武器を人に向けたり、使ったりしたら即捕縛ね」
「ネバネバ君のエサにするから、忘れるなよ?」
「さて、勇者様たちはこれでいいかな。あとはそうだな……」
「私たちは何をすれば?」
「ふじょしーずの皆さんか……」
困ったな。考えてない。
* * *
【サッチービレッジ ふじょしーず】
私たちは趣味で本を作る。
それ以外の手に職を持っている人もいるが、志は一緒だ。
だが、印刷もできない。
書いても誰かに読ませられない。
ストレスばかり溜まってしまう。
「君らはどうしたい?」
「作品を発表し、好きな人に読んでもらいたいです」
紙も印刷機もない。
また、ネタになる人もいない。
「あーそっか。なるほど。まずは紙か、それとネタね」
どういうこと?
男なのに、理解があるの?
「うんうん、俺編集屋。印刷はわかるから大丈夫よ」
何も言ってないのに。
「エスパー?」
「そうそう、エスパーなんだ」
エスパーだ。
「というわけで、君らはまず、紙を作ろう。んで、次は印刷、そしてネタだね」
「え? 全部できるんですか?」
「どうだろ? できるんじゃない? 諦めなければ」
「それは無責任というのでは?」
「いやいや、君たち本を作りたいんでしょ? 俺も本作りたいけど、PCないと仕事できないから」
「なるほど? ではヒントとかお手伝いはあてにしても?」
「うんうん、その辺はさ、研究班とさっきの自衛隊の人たちに協力を頼もう。紙の原料になるものがないか、できるだけ自然由来の製法で紙が作れないか、その知識を持っている人がいないか」
「ハードルが高いですね」
「そうだね。でも、今まで誰かがやってたんだ。今度は君らがやればいい」
「うーん。そうは言っても……」
「無理しなくていいよ、だが情報を残すのも大切な仕事だ。君らはまずは記録をどうやって残すか、紙にこだわらなくてもいい。メディアの研究から始めて実験すればいいさ」
「そうですね。絵は難しいかも知れませんが、物語なら竹簡でも残せますしね」
「そうそう。その発想だよ。あとさ、ネタなら自衛隊も割と豊富よ? あとは市役所から派遣されてきた1号とか」
「1号? 興味があります。あとで詳しく教えてください」
「ある? そう? 3号も詳しいから聞くといいよ。1号攻めの3号受けでも。ぷぷぷ」
「やります!」
* * *
【サッチービレッジ 働いたら負け】
俺は絶対に発言しない。
ここに来たくて来たわけじゃない。
高齢の親が面倒見切れないといって俺をいけにえに差し出した。
働いたら負けだ。
「さて、他にも勇者候補がたくさんいるからなあ。おじさん困っちゃうな」
勝手に困ってろ。
「さて、では次に働いたら負けという人たちにしようか」
なんだこいつ?
俺を見ながら言ってる。
「そこの君。働いたら負け軍団の首領にならないか?」
「……」
話したら負けだ。
こいつは口がうまい。
だまされる。
「そう、緊張しなさんなって。最初に言ったろ? 俺も働いたら負けの部類だって」
「……」
「だが、色々と俺には無理な仕事が多すぎて働かされている。不満ではある」
「そこで、君に働いたら負け軍団の首領をお願いしたい」
「何をさせるんだ」
「何もさせないさ。だって働いたら負けだろ?」
「そうだ」
「なら食っちゃ寝しよう。ここではそれが許される」
「だが、働かざる者食うべからずと言ったのはお前だ」
「うんうん。だが、働きたくないのに無理に働いてもらっても邪魔になるだけだよ」
「……」
「なら、働かない部門だって作ろうじゃないか」
「できるのか?」
「できるさ。俺が所属する。絶対に!」
「何をどうすればいい?」
「飯を食って寝ろ。そして体調の変化をドクターに伝える。以上」
「どういうことだ?」
「ふふふ、簡単な話だ。未知の生命体を食う。それだけだよ」
「断る」
「ふふふ、ダメだ。俺がお前を首領に任命した。だからこれは絶対だ」
「嫌だ」
「許さないよ。そして命じろ。俺に最初の一口係になれと」
「意味がわからない」
「俺が必ず最初の一口を食う。そして一日以上様子を見て、問題なければ首領とその配下がそれを食う。それだけだ」
「安全なのか?」
「知らんがな。フグを最初に食った人は多分死んだだろうな」
「なら断る」
「断るなら、帰るしかないが、どうする?」
「……」
「お前はまだ見捨てられたわけじゃない。ここに来ることができたんだ。親の色んな思いがあるはずだ。勿論面倒見切れないのが一番だろうがな」
「あ、あとは、動物のお世話係もやっていいよ? つまらんだろ? 食っちゃ寝ばかりじゃ。ふれあい係の主任にも任命する」
「動物? 何がいるんだ」
「あそこ見える? 動物園よりもたくさんいるぞ?」
「本当だ。あ、キリンもいる。触れ合っていいのか?」
「お? キリン好き? いいよね。色と模様。俺も嫌いじゃないよ」
「うん、昔すごい好きだった」
「そうか。なら良かった。ちなみに動物のふれあい係になれるのは食っちゃ寝軍団だけだからな。まあ試食すれば、皆食っちゃ寝軍団だけどな」
キリンと触れ合えるなんて、思いもしなかった。
あの頃は楽しかったな。
* * *
【サッチービレッジ 二人一組になれない男】
なんだ。
皆、結構楽しそうじゃないか。
道中はほとんど話なんかしなかったから、
僕と同じような人が大勢いるのかと思って期待してたのに。
「さて、まだいそうだな。まだやれることが見つからないやつらはいるかー。悪いが手を挙げて教えてくれ」
ほら、結構手を挙げてるのがいる。
人見知りな人ばかりじゃない。
僕はだめだ。
手も挙げられないし、話もできない。
すぐに言葉が詰まっちゃうから。
「んー、そうだなー。そこの君、立ってくれないか?」
誰かが指名されたみたいだ。
僕なら足が震えて立つことなんて絶対できない。
「どうした? 君だぞ?」
「おい、お前、ご指名だぞ」
隣の男が僕を肘でつついた。
「ぼ、僕ですか?」
「そうだ、君だ」
やだよ。
話したくない。
「君はどんな事がやりたい? 別にやりたい事じゃなくてもいい。好きな事でも、知ってることでもいい」
「……」
何もない。
何もなかったから、僕は働けなかったし、バイトの面接にも受からなかった。
「……」
「そっかあ、君はそっちか」
なんだよ、そっちって。
勝手に人をラベリングして、決めつけて、出来ない奴って思ってるんだろ?
いいさ。別に。
僕はここでも邪魔ものだよ。
「なら、君にぴったりの仕事があるんだが、やってみないか?」
「え? ぼ、僕に仕事があるんですか?」
「誰とも話さなくていい。ただ、毎日日誌だけつけてくれればいいんだ」
「に、日誌?」
「そうだ。そいつが何を食べ、どんな風になったか。それだけでいい」
「か、観察日記か何かですか?」
「まあ、観察日記といえば観察日記だな。正しくは研究班の基礎研究になるのかも知れないけど」
「へ、変な物を食べたりしないんですか?」
「食べたいなら食べてもいいよ?」
「いやです」
いくら食べるものがないからと言って、未知の生物なんて食べたくない。
でも、ここではそれが出されるって言ってたからな。
結局、食べなきゃいけなくなるんだろうけど……
「3号、ネバネバ君を渡してやってくれ」
「いいのか?」
「ああ、大丈夫だろ? お前もなんともないし」
何をさせる気だ?
「ほれ、こいつをもってみろよ」
いきなり渡された。
ネバネバ君?
スライムみたいな、生命体。
「あ、ちょっとあったかい」
「そうなんだよ。なんでその体で熱を持ってるのかわからない。別に3号の無駄なエネルギーを吸ってるわけじゃないとは思うんだけどな」
目も口もない。
でも生きてるのはわかる。
「これを食べるんですか?」
「だから食べなくていいってば。そうじゃなくて、そいつが何を食べて、何をするのか。そして体感でいい、あったかいのか冷たいのか、観察して欲しいんだ」
「この子だけ?」
「いや、違う。同じ種類のものを複数。それにこれから発見される他の種類も任せる」
うーん。
観察日記か。
それなら僕でもできるのかな。
「本当はさ、研究班の決まったフォーマットみたいのがあるらしいんだが、それとは別口でまとめて欲しい」
「ぼ、僕以外にもいるんですか?」
「うん、いるさ。だって食糧にもなるし、その他の活用方法もある程度わかってるからな」
「じゃあ、僕が観察したって意味ないんじゃ……」
「そんなことはない。研究班は頭ががちがちの奴らが多い。それは地球では役に立つかも知れないが、ここは未知の領域だ」
「……」
「その生命体がどんな風になるのかなんて誰も知らない。もしかしたら君がノーベル賞をとるかもしれないんだぞ?」
「ノーベル賞?」
「ああ、くれる人がいるならな」
「無責任なことを言うなよ、三星」
「別にいいじゃないか。ノーベルでもノーヘルでも欲しいなら進呈するさ」
ノーベル賞は別にいらない。
誰かの役に立ちたいとも思わない。
でも、やれることがあるなら、ちょっとやってみたい。
それに誰とも関わらず、この子の相手をしていられるなら面白いかも知れない。
「ぼ、ぼくやります」
「そうか。じゃあ頼むよ」
「彼だけじゃない。人と絡むのが苦手な人がいるなら、そっちを任せるからあとで教えてな」
誰が参加するかわからないけど、僕は少しだけやってみる。
進化させてみたくなってきたな。
僕だけのモンスター。
僕モンだ。
てへへ。
* * *
【サッチービレッジ はみ出した男】
「俺は何もしない!」
なんだよ、こいつら。
結局楽しそうにしやがって。
「俺が働く義務はない。元の場所へ返せ」
あの親の元に帰って、せいぜい苦しませてやる。
俺を勝手に生んだのはあいつだ。
「あらあら、ずいぶん怒ってるね。帰りたいの?」
「そうだ。俺は帰る」
「ふーん。帰ってやることあるの?」
「あるわけないだろう。ないからここに捨てられたんだ」
「ここに捨てられたの? そっかあ。ここは掃き溜めだったかあ」
「そうだろ? だって碌な奴が一緒に来なかった」
「へえ。そうなんだ」
皆、ちょっとおかしい奴ばかりだ。
今は、あいつの言葉に乗せられてやる気を出してるみたいだが、結局見捨てられるんだ。
「どうせ、お前だって使えないとわかったら見捨てるくせに」
「へえ。そうなんだ」
「なんだよ、違うって言うのかよ」
「どうだろ、合ってるかも知れないね。働かない奴はいらないし」
「やっぱりそうだ。それにお前、最初動物に食わせるって言ったじゃないか」
「ああ、言ったね」
「それが目的なんだろ? 俺たちみたいなくずは餌ぐらいにしかならないって考えてるだろ!」
「一つ、訂正させておくぞ? 俺たちじゃないな。お前だけだ。今のところな」
「なに! 俺だけ殺す気か!」
「殺す気は全くないよ。だが、お前と他の人を同列に語るなよ。お前が他の人の何を知ってるんだ?」
「お前こそ、俺の何を知ってるんだよ!」
「知らんよ。知らんが受け入れるよ。お前も親か、面倒を見てた人に追い出された口だろ?」
「う、うるさい!」
「まあ、公衆の面前で話すことでもないだろうからな。気配りが足りなかった。ごめん」
「謝ったら許されるものじゃないだろ!」
「ああ、そうだな。じゃあその代わり俺の話をしよう。俺の親の話だ」




