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ep.47 勇者


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


「だいぶ、皆落ち着いてきたみたいだな」

「そうですね。外から新たに来た人たち、外国籍の方も溶け込んでますね」

「1号から見てどう? やつらはやっていけそう?」

「どうなんでしょう。ただでさえ慣れない日本で、しかも全く経験のない未知の領域。我々だって戸惑いますからね」


 だよなー。

 まあ、仕方ない。食い物と水だけでも慣れてもらうしかないさ。

 

「まだ一週間ですからね。これからでしょうね」

「そうは言っても、ここだって余裕があるわけじゃないんだ。あと一週間で出発だからな」

「スパルタですねえ。わかりました、今日のミーティングの時に伝えておきますね」

「よろしくねー」


 さてさて、色々ご機嫌伺いもしなきゃいけないが、そろそろ来るはずだよな。

 勇者様御一行が。

 

「もう無理でござる」

 

 ほら来た。


  * * *

【サッチービレッジ 勇者たち】


「迎えもないとは。礼儀がなってない」

「剣の勇者、お前はそういうが従者も連れず、先触れもしていないんだから仕方なかろう」

「魔法の勇者。人を迎えるにはそれなりの様式美があるだろう」

「知恵の勇者よ。我々は存在が尊いのだ。許すことも必要だよ」

「愛の勇者さん、私たちの美しさに驚いているかも知れませんよ?」


「うるせえぞ、お前ら」


 なんなんだこの男は。

 我々勇者に対し無礼じゃないか。


「今すぐその口を閉じるか、ライオンと遊ぶか、選べ」

「なんだと!」


「いーち、にー、さーん……」

「GAOOOO」


「ひぃ」


 動物をけしかけられてはたまらない。

 奴はテイマーなのかも知れんからな。

 ここは引くのも勇者の知恵だ。


「はーち、きゅう。よし静かになったな」


 こいつは絶許リストに加えておかねばなるまい。

 

「お前たちが静かになるまでにー。先生は悲しい―」


 くそ、学園もので攻めてくるのか。

 つらい!つらいぞ!


「さて、お遊びはもういいか? あほども」

「あほだと?」

「ああ、勇者でもないくせに、勇者を語るアホだ。ついでに魔法使い、モンク、黒魔導士、賢者も一緒な」

「お前、死にたいのか?」

「殺せるものならやってみろ。受けてたつぞ。ライオンさんとその他大勢の動物さんたちがな!」


 テイマーめ!


「さて、とりあえずは長旅ご苦労。まずは広場にこい。歓迎する」


 なんだ?

 今度は歓待?

 よくわからん。

 

  * * *

【サッチービレッジ サッチー】


《三星、こいつらは消し炭にしてよいのか?》

「まあ、待て。まだその決断は早い」

《ふむ。だが、三星に歯向かうなら、瞬時にこの世から消すからな?》

「お前いつからそんな戦闘狂エイリアンになったんだ?」

《平安時代からだ》


 まったく。三星は人が良すぎる。

 こいつらは資源食いの無駄な存在の筈だ。

 一体、どのように活用するというのだ?

 

「さて、皆、まずは水を飲め。そして野菜とっぽいものでも味わってくれ」

「おお、久々の焼肉だ!」

「タレはないのか?」

「塩コショウだけでは物足りないぞ」


 ほら、文句しか言わない。


「まあ、食事中はだまって味わえ。そのサラダのトッピング(ネバネバ君亜種)も悪くないぞ」

「ほお。キクラゲのような、キノコのような」

「支給食では飽き飽きしていたからな」

「まあ、最低点だが、その気持ちは受け取っておいてやる」


 消し炭にしたい。


「さて、あまり量はないが、これがここでの食事だ」

「悪くなかった」

「うむ。我々を迎えたいという気持ちは素直に受け取っておこう」


「でだ、勇者以外の皆さんは無言だけどそのまま聞いていてね」

「……」


「あと、途中で一言でも発したら本当に消し炭にするか、動物たちが襲うこともあるから注意してね。脅しじゃないよ」

「俺だって脅しなんかしたくないけど、俺はテイマーでもなければ、自然現象はコントロールできない」

「だから、ルールを守れないなら、覚悟しときなよ?」


 もうすべて焼いてしまえ。

 

  * * *

【サッチービレッジ 三星】


「色々大変だったろう。俺はお前たちと同じオタクであり、ニートだ」

「まあ、結婚もしているし、仕事はしてたけどな。中卒だし、持っている資格は運転免許ぐらいだ」

「勝ち組じゃないかって? 当たり前だろ? 俺をいくつだと思ってるんだ? 55だぞ?」

「それぐらい生きてれば、チャンスの一度や二度はある。あとは相手の理解次第だがな」

「まあ、多少の違いはあるが、ほとんど同じだ」


「年齢イコール彼女いない歴? それは知らん。たまたま今までがそうだってだけで、ここから先はわからん。お前たちが活躍すれば、可能性はゼロじゃないんじゃないか?」

「だが、何もしなきゃゼロどころかマイナスだけどな」


「お? 偉いな発言せずに挙手か。良いだろう発言して」

「あんたは、俺たちを見下している。納得できない」

「え? 見下している? 当たり前でしょ?」

「なぜ人を見下すのが当たり前なんだ? それでは周りの奴らと変わらないじゃないか。お前は敵だ」

「敵で結構。働かざるもの食うべからず。ここで死ぬか、元の場所に戻って暗い部屋で閉じこもったまま死ぬか、選ばせてやるよ」


 ああ、いやだな。

 人を脅したくはない。

 だが、ここが奴らの分水嶺だ。

 

「私は帰る」

「そうか、お疲れさん。帰りも歩きだ、気を付けて帰れよ」


「おい、本当に帰るのか? お前、もう家族に面倒を見てもらえないって言ってなかったか?」

「うるさい。こいつの命令を聞くぐらいなら、野垂れ死んだ方がましだ」


「そうか、良かった。野垂れ死ぬなら、無駄な物資をお前たちが食いつぶさなくて済むからな。安心したよ」

「なに! お前は最初からそのつもりで俺たちを集めたのか!」

「そんなわけなかろう。なんでそんな無駄な事しなきゃいけない? 勝手に死ぬなら放っておく。俺が関わる必要もない。好きにしろよ」


「……」

「……」

「どうした? 帰りたい奴はとっと帰れ。俺はそんな奴に時間をさけるほど暇じゃない」


 薬がないんだ。

 いつどうなるかわからない。

 打てる手は打たなきゃならん。

 

「三星、そこまで喧嘩腰にならんでもいいだろう」

「3号のくせに」

「まあ、今はお前の顔を立ててやる。話も聞かずに帰るなら止めない。だが話を聞いてるうちは、飯も用意してやる。寝るところは自分達で整えろよ」


「わかった。話を聞く」

「そうか、では脅して済まなかった。あまり時間がないんでね。許してくれ」


「あんたらみたいな勇者シリーズだけじゃない。鉄オタも知識オタも、また腐女子も、その他一般社会に馴染めない人も集まってもらった」

「いずれも、サークルじゃない、シドニーじゃない。なんだっけ?」

「コロニーだ」


「ああ、それそれ。そこからはみ出した存在だよな。そして俺もその一人だ。コロニーにいても何の役にも立たない。だが、このクランではリーダーだ」

「お前リーダーなのか?」

「ああそうだ。見えないだろ? 人を引っ張っていく人間には?」

「……」

「いいよ、遠慮しなくても」


「もし、もしだぞ、お前たちがここに残って、俺と一緒に歩けるなら、めちゃくちゃすごい秘密を教えてやる。異世界転移なんて目じゃないぞ?」

「それって、どういう?」

「残ると決めた奴にしか教えん。帰るやつには絶対に話さん。だが、ネットもスマホもないお前たちには刺激が強すぎるかもしれんな」


「いつ教えてくれる?」

「お前たちが約束するなら、この話し合いが終わった後に話す。だが、それを聞いた以上、決して元の場所には返せない。乗るかソルジャーだ!」


「つまらない」

「くそが! お笑いレベルは幼稚園なんだよ! 大目にみやがれ!」


  * * *

【サッチービレッジ 鉄道が好き】


 少し楽しくなってきた。

 この人、最初は怖かったが、割といい人っぽい。

 無理して強がっていたみたいだ。

 なんとなくわかる。


「さて、どのジャンルから行こうかなあ」

「よし、運輸にしよう」

「運輸?」

「ああ、運輸だ。鉄道を敷くぞ」

「鉄道? どこに? どうやって?」

「それをこれから考える。最初に説明するのはさっきお前らが食ったものだ。あそこに見える植物っぽいの見えるか?」


 植物は詳しくないからよくわからないけど樹木なんだろう。

 常緑とか針葉とかまったくわからないけど。


「お前たちがくったのは、ほとんどアレだよ」

「え? だって肉って……」

「あの幹な、肉っぽいんだよ」

「それって食べても?」

「多分大丈夫だろ? ここでは普通に食べてるし、自衛隊、警察は常食にしたらしい」


 すごいんじゃないかな? それって。

 千葉では限られた食べ物を必要最低限のカロリーでしか配れていない。

 お米ができるまでの辛抱とは言っていたけど……


「それにな、キクラゲっぽいのあっただろ? 3号、皆に見せてやって」

「ほい、これだよ」


 なんだこれ?

 スライム?

 え? え?


  * * *

【サッチービレッジ 橋爪】


 そりゃ驚くわな。

 こんな生命体を食わされたとなれば、俺だって最初は躊躇した。

 だが、三星が食う以上は俺だってくわなきゃならん。

 

「これだけじゃない。未知の領域の生命体は、ほとんどが食える。うまいかどうかは別だがな」

「味付けばかりは仕方ないよな。醤油と塩、コショウでごまかした方がいいぞ。それに研究職が言うには、栄養価もある程度高いらしい」


 よくわからんが、そんな都合のいいことがあるもんかね?

 だが、研究職が嘘を言う必要もない。

 まだ、子ども達には食わせられないが、こいつらなら食わせても平気だろう。

 

「でな、とりあえずはこの植物っぽいのを千葉に送ろうと思ってるんだ」

「自衛隊に任せたら良いのではないですか?」

「ああ、俺は自衛官だが、燃料の問題もある。また、知ってるかわからんが、結構な場所で騒乱などもあってな、こっちには手を回せないんだ」


 最初の頃、三星が言っていた守る人数と守られる人数の差がここに来て顕著になったな。

 見る目はあるんだよ。こいつは。

 

「鉄道とは言っても、機関をどうするか、燃料は? またレールの敷設の問題、そして維持管理もある。いきなり既存の設備を流用できるわけもない」

「というか、それを運んでくるぐらいなら、食糧を直接運んだ方がはやいからな」


「だが、いつかは600万人を食わせる必要が出てくる。勿論ここだけじゃない。利根川方面にも展開しているから、そちらからも送れるだろう」

「でも、結局はどうやって大量に運ぶか、という問題はついてまわる」

「そこで、運輸関係を君らの中で得意な奴らに担当してもらう」


「え? それって考えたり会議するだけでいいですか?」

「そんなわけないだろ? 考える時間も会議する時間も必要だが、どんなに長くても半年以内に大量に運ぶ目途をつけなきゃならん」

「半年? そんなのって」

「無理でもやらなきゃ、600万人が死ぬんだ。死に物狂いでやるしかないんだよ」


「……」

「どうした? 怖くなったか?」


  * * *

【サッチービレッジ 乗り鉄】


「確かに我々であれば、運行とか、効率的な線路については考えられる。だが、それを実現させるのは別問題だと思うが?」

「え? 考えるしかできないの? 実験も? え? 君の知識はその程度なの?」

「馬鹿にするな。だが、我々はあくまでも既存の列車の運行やすでにある軌道の知識が豊富であって――」


「待ってください。私できます。きっと」

「君は?」

「私、架空の町を作るのが好きなんです。○列車や様々なシミュレーションゲームも大好きです」

「お、お前、俺と同じ趣味だな? 俺はトランスポートがフィーバーしてるのが大好きだ。プレイ時間は八百時間を超えている」

「おお! こんなところに同好の方がいましたか!」


 かなりレアだぞ。あのゲームは。

 もっとメジャーなゲームでMODを入れて好き勝手するのが皆好きだからな。

 運輸、とにかく物を運ぶなら、あのゲームは面白い。


「まあ、それはいつか必ず話そう」

「はいっ!」


 良かった、楽しめそうだ。

 

  * * *

【サッチービレッジ バスも好き】


「じゃあ、俺も参加したい」

「お前は?」

「バスが好きだ!」

「よし、採用。だが、好きなだけでは駄目だ。目的は大量に物を運ぶ。しかも効率よく、ここにある材料だけでだぞ」

「条件は厳しいが、出来るだろう。最悪人力車やリヤカーにすればいい。それなら少なくともゼロじゃない」

「そうだな。だからそのためには道、そして軌道をどうするか。運べるだけ運んで空荷で帰ってくるのも勿体ない。なにが持ち帰れるのか。俺は人を運べるといいと思ってる」

「面白いな。それにここだけじゃないだろ?」


「よく気づいたな。そうだ、あそこには海外の人たちがいる。今はここで体験キャンプ中だが、やがてこの水辺の周辺や、その他の水源に散ってもらう」

「そことも効率よく物資や人を運ぶなら役に立てるさ」


 ああ、やっと俺が活躍できる世界に来られた。

 感謝します!

 KSバス!




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