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ep.46 失う物生まれる者


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


「まあとにかくさ、全部が全部うまくいくわけじゃない」

「そりゃそうだな。大親分」

「でもやらないで、文句言うよりは、やった方が生き残る確率があがるって」

「とても納得できまーす」


 お、イタリア人だ。

 

「ワインができるにはめちゃくちゃ時間かかるだろうけどさ、まずはビール? エール? そっからはじめなよ」

「素晴らしい。ウォッカもぜひ作りたいな」


 作ってくれたまえ、北方の同志よ。

 

「権利さんたちは、法律関係の人たちと、役所関係、その他関係各位とよろしくね」

「ずいぶん荒いが。わかった。松戸地域が窓口になってくれるのか?」

「松井、そんぐらいはやれよー」

「はい、わかりました。佐々木議長と一緒に仕組みを作ります。幸い地裁もありますからね」


 変な一方通行のところだよな。たしか。

 

「さて、いずれにしてもさ、この辺の植物とか、たぶん動物も食べられると思う。絶対とは言えないけど」

「おう、そうだ、あれ割とうまかったな」

「だろ? 塩とコショウがありゃあ大体なんとかなる。その他の味付けはその人好みだろうけど、日本人はとりあえず醤油がたんまりあるだろ?」


「ああ、600万人に均等に配っても十分あるな」

「ハブちん調べたの? えらいねー」

「備蓄関係の集計を見た。さすが銚子から野田までの醤油ベルトだな」

「大豆も当分はいらないでしょ? 大量には?」

「そうだな、維持のためには作り続ける必要はあるし、醤油だけじゃない、もろみや副産物も貴重だからな」


「あとはそうだなー。俺は嫌なんだけど、親分、女性の仕事についてうまいことやってくれる?」

「ふむ。そこに手を入れるのか。野放図よりは良いという判断だな。賢明だよ」


「半そで仮面。それ以上は許さん」

「俺も許したくはあまりないけどさ、別に女性に限る必要もないんだが、その世界でしか生きられない人だっているんじゃないの? 理想を言えばない方がいいとは思うけど、そうもいかないでしょ?」


「その通りだ。普通に働けない奴もいる。公安はそういうのは野垂れ死ねとでも言うのか?」

「『親分』と私も呼ぶぞ。親分、そうは言わん。だが、できるだけ社会復帰できるようにだな」

「おいおい、社会復帰ってなんだ? 復帰すべき社会がないじゃないか?」

「あるにはあるだろう。人々が集まればそれは社会と呼ぶべきだ」


 あ、面倒くさそう。かかわらないでおこう。

 

「裏で隠れてやられるよりは、公認にしてしまえば、取り締まりも楽だろう?」

「親分よ、取り締まりと言ってもな。何を取り締まればいい?」

「おいおい、それをあんたが言うなよ」

「そうは言ってもな。だが、今までだってお前らは詭弁でごまかしてきただろ?」


「はいはい、その辺で。酒の話もしたけどさ、息抜きは必要だよ。女性だってホストが好きな人もいる。だったらそれを商売というか労働として認めてあげればいいんだよ。あくまでも食糧との交換だけどね」

「ふむ」


「法外な取引にならないように、親分、権利さん、警察が目を光らせる。それでいいんじゃない?」


 それ以外にどうしろって言うんだ?

 俺にはその辺はわからん。


「まあ、やってみ。やりもしないで最初から否定するのは馬鹿のやることだよ」

「馬鹿も通り越せば天才になるかも知れないけどね」


  * * *

【サッチービレッジ 橋爪】


 こいつはこれを一晩で考えたのか。

 すげえな。

 そりゃあハブさんだって、言葉を聞きたくなる。

 俺にはさっぱりわからんが、皆丸く収まってるような気がする。

 

「とにかくさ、俺たちだってこれからここでの本格的な生活が始まるんだ」

「俺たちが先輩風を吹かせるつもりもない。一緒に動けばきっと可能性だって高くなるよ」


 そうだな。本当に植物っぽいものを食って大丈夫かどうかなんて答えは出てない。

 一緒に人体実験か。

 悪くないな。

 キノコはもうごめんだが。


「で、ここからが俺にとっての本番だ。オタクさんたちを俺にくれ」


 オタク? 何をするんだ?

 

「オタクという人間の基準がわからんが?」

「砂爺、オタクはオタクさ。俺もオタクさ」

「だからそれがわからんのだ」


「うーん簡単に言うと、知識はあるけど、働かない人かな? 誰かいなきゃ生きていけないけど、偉そうな人でもいいよ?」

「うん、まさにお前にぴったりだな」

「失礼な爺だなあ」

「お前の方が失礼だろ」


「おそらく、高齢の家族が支えている人々がいると思うんだ。そしてあまりそれを口外してないと思う」

「ふむ。ニートってやつか?」

「なんでもいいよ。とにかく社会に馴染めない、でも匿名なら意見が出せる、そういう人たちが欲しいの」

「お前なら動かせるというのか?」

「いや、ダメだと思うけどね。最悪動物たちのエサにするからいいよ」

「それはどうなんだ? お前の冗談だとは思うが。だが自衛隊の若いのもまだ生きてるな」


 俺も自衛隊の若い奴扱いか。一応頑張ってここまで来たんだけどな。

 まあ、三星なら餌にしかねないから、俺も否定はしないでおこう。

 

  * * *

【柏市 男】


「もうこんなご飯は食い飽きたんだよ!」

「そうは言ってもね、正ちゃん……支給されるのはそれしかないのよ」


 支給ってなんだよ!

 異世界転移ならもっとうまくやれる方法あるだろ!

 

「くそが!」


 自衛隊でそっち系の人材を募集していると聞いて行ってみたがすぐ追い返された。

 あいつらは俺の知識を「くだらない」とだけ言い放ちやがった。


「くそ!くそ!」


 異世界転移ならボーナスぐらいあるだろ!

 スキルとか魔法とか!

 

「くそ……」


 結局、俺は異世界に来ても変われなかった。

 母さんをまた泣かせてしまった。

 

 

  * * *

【センタービレッジ 松井】


「では三星さん、あとはお願いしてもよいですか?」

「良くはないねえ。だが、預かった以上は責任はとるよ。だからあんたらも約束わすれるなよ」


 オタク、ニート。

 男性でも女性でもいいと言っていた。

 

 三星さんなりに考えがあるのだろう。

 

 中学生以上なら親の帯同が無くても受け入れるとも言っていた。

 そして「中二病は早いうちに治すべきだ」とも。

 

「もうこれ以上は俺の手に余る。二度とここに来るなよ」

「はい。わかりました」


 そうは言っても、きっと三星さんは考えてくれるだろう。


「あ、権利の人たちを忘れずにピックアップしろよ」

「わかりました」


「親分、一旦帰るんだろ?」

「おお。とりあえず大親分に言われた人数とかを調べる。その代わり俺の右腕をここに寄越すよ」


 あっちはあっちで話を進めている。

 大丈夫なのかな?


「できれば女の人で頼むよ。強面は親分だけで十分だ」

「はっはっは。それは約束できんが、まあ期待せずに待っておけ」


 無理していないかな。

 心配ではある。

 

 私も甘えてばかりはいられないな。


  * * *

【センタービレッジ サッチー】


《さて、三星》

「なんだね。サッチー」

《私の説明をしようと思う》

「改まって? 聞いてもわからんぞ?」


 だが聞いて欲しいことがある。


《三星が私を心配しているのはわかっている》

「ああ、そうだな。自分を犠牲にしてまで俺に付き合う必要はない」

《なので、私は小惑星帯からいくつかの材料を集めてきた》

「えーっとそれは?」

《もともと私は八つの機体でこの惑星や恒星系を観察している》


「それはつまり、体は八つあるが、管理はサッチー一人ということ?」

《おおむね合っている。必要な時は合議で検討をすることも、分担して報告などを行うこともある》

「ふむふむ?」


《だが、現状三星に構いすぎてしまった》

「そうだろうな」

《役目は果たしているが、不足が出ないとも限らない》

「んで?」

《そこで、私はもう一つのマザー衛星、名付けて「母サッチー」を作ることにし、今朝完成した》


「随分展開が早いな」

《私にとっては造作もないことだ》

「それはすごいというか、さすがというか」

《母サッチーは三星専用だ》

「お前、俺のママだったのか……ままぁ……」

《違うけど、違わない》


「あ! それでお前『私、こどもができたのよ……』なんて言ったのか?」

《そうだが?》

「それの名前が母サッチー? もうわけわからん!」


《母サッチーはなんでもできる。だが、三星の為にしか働かない》

「いや、これまでも十分役立ってくれたし、これ以上はあかんと思いますよ?」

《それは三星の都合だ。私の都合ではない》

「おっしゃる通りなんですが……というかそれが新しいオッパイに結び付くんですね?」

《おおむね合っている》


「ふーん。わかった。好きにすればいいさ」

《随分淡泊なんだな。もっと喜んでくれるかと思った》

「いや、嬉しいは嬉しいが、それ以上に申し訳ないよ」

《何故だ?》


「うーん。今はいいや、そのうち話すこともあるだろ」

《そうか。ならいつか話してくれればいい》


「で? 結局は何の話?」

《私もそのクランに加入する。認めなさい》

「なるほど。そう来たか。いいんじゃないかな?」

《よいのか?》

「来たいんだろ? なら歓迎するさ。でも働けよ? 俺のためだけじゃない。他の人のためにも」

《それは出来ない》

「じゃあだめだ」


《私は三星専用機だ》

「うーん、なんか表現的に危なくなりそうだけど、ここに来る以上はなんかしら仕事しないとな?」

《わかった。研究班に入る。だが三星の傍にしかいない》

「ぬう。あとはみんなとできるだけ仲良くしろよ?」

《渡辺は決して許さないが、その他はこれからの対応次第だな》


「ああ、ナベは役所であんまりいい印象なかったもんだ」

《そうだ。だがあいつはここにはいない》

「まあ、いんでない? 別に全員を好きになる必要もないし、無理強いもしないさ」

《よかった。すでに三星専用機。名付けて母サッチーはもう送ってある》


「もう言わないけどさ。一応許可とってね?」

《許可ならとった》

「順番があるでしょ?」

《結果オーライ。発射オーライ》


 よかった。これでずっと一緒にいられる。

 

  * * *

【センタービレッジ ネバネバ君?】


 もぐもぐ。

 もぐもぐ。

 

  * * *

【センタービレッジ 三星】


 しかし随分いろんな人たち?が集まったな。

 

 地球だけでもいろんな国籍がいるし。

 動物だって多種多様だ。

 

 この未知の惑星でも植物っぽい動物みたいなの。

 ネバネバ君。

 あとは先発隊の発見してきた生物類。

 

 そしてサッチーか。

 

 まあ賑やかなのは子ども達も喜ぶだろうし、お母ちゃんだって楽しいだろう。

 

 俺たち夫婦の年齢を考えると、ここから新しい子猫や家族が増えるのは無理だと思っていたけど。

 家飼いじゃなければ、やっていけるかな?

 

 もう、医者からもらった薬もなくなった。

 

 日に日に体力が落ちているのを実感する。

 

 後どれくらい生きられるかな。

 お母ちゃん泣くだろうな。

 

 若い時に食べ放題ばっかりいくんじゃなかった。

 

 まあでも、楽しい思い出も一杯ある。

 大丈夫なように、クランだってまとまりつつある。

 

 悲しいのはほんの少しだけだ。

 俺がいなくなっても、大丈夫だよ。

 

 ああ、もう少しだけ長生きしたかったな。

 

  * * *

【センタービレッジ 三星の妻】


《長生きしたかった……キラン》

《ぐらいのことを考えていると予想する》


 もう、あの人ったら。

 絶対に自分の不安を口にしないんだから。

 

「どうにかならないの?さっちゃん」

《とっくにどうにかしている》

「え? ほんと?」

《当たり前だ》


 良かった。

 二か月ごとの定期健診に行けなくなって、薬もなくなったから、不安で仕方なかった。

 

「薬を用意してくれるの?」

《そんなものはない》

「それならどうやってどうにかするの?」

《処置は進めている》

「え? でも遺伝子とかは操作できないってあの人が言ってたような?」


《未知の文明の秘密だ》

「そう、未知の秘密なのね。じゃあ仕方ないわね」

《理解が早いと助かる。だが、正しくは二年ほどかかる。人間の組織を入れ替えるには最低でもそれぐらいは必要だそうだ》

「よくわからないけど、あの人がもう少し生きていられるなら……」


 良かった。

 本当に良かった。

 

《泣いてはいけない。私が泣かしたように思われる》

「さっちゃんが、泣かせたのよ」

《そ、そうか。それは、すまなかった》

「ううん。うれし涙だから。ありがとうね。ありがとうございます」


 嬉しくても泣くものなのか。

 人間には感情があって面白い。

 

 三星の妻も観測したくなってきたな。

 

 この夫婦はとても面白い。

 

「にゃー!」

《ああ、君たちも面白いです》

「フー!」


 猫はよくわからない。

 修行が足りない。




《解説》


・母サッチー(不明)母と名がついているが、サッチー

・八つの衛星(不明)すべてサッチー

・初期の壱、弐、参、四パーツもサッチー

・更新された同機のパーツもサッチー

・オッパイ型タイプ三星もサッチー

・サッチーはなんでもできる 未知の文明社会ではそうなんだろう。人間社会では適用されない。

・サッチーはおせっかい

・猫、不思議な生命体。おそらく創造神。「ネコと和解せよ」



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