↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/49

ep.45 bitコイン


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


 あら、結局みんな残ったのね。

 ご苦労なこって。

 

「みなさん、おそようございます」

「おそいぞ、三星。何時だと思ってるんだ?」

「時間はわかりません。昼ごはんの前だと思いまーす」

「そうだ、皆を待たせすぎだ」


 砂爺め。労働させられて文句を俺にぶつける気だな?

 もう少し寝てればよかった。

 

「少しはここの苦労が分かったんじゃないか?」

「ああ、大変だなここは。皆よくやってる」


 よくやってるじゃねえよ。

 一生懸命頑張ってくれてるんだよ。

 本当にありがたいよ。


「さてさて、昨日の続きをしよう。ある程度はそれぞれで話せたんだろ?」

「我々から良いか?」


 砂漠さんだな。


「どうぞどうぞ」

「エネルギーと小麦は大変面白い。その案に乗ることに決定した」

「気が早いね。ここで半日ぐらいだけど、大変とわかってもそれを言えるの?」

「むしろ、日本の文化がない方が我々には過ごしやすいかも知れんと感じたよ」

「そっかー。まあ生活様式なんかも違うだろうからね。ここも日本と言えば日本だけど、新しい場所ならあんたらがくつろげる様式に、あんた達が好きに作ればいいさ」

「そうだな。我々からは以上だ」


 手っ取り早くていいねー。

 でも釘は刺さないとね。

 

「あ、でもね、一つだけ忘れないでね。あんたらの場所でのルールは自分たちで決めたものでよいが、全体のルールは守ってね」

「全体のルールとは?」

「弱いものをいじめない。人の物をとらない。最低限それは守ってね」


「ふむ。それを犯したらどうなる?」

「警察のご厄介になっていただくからね」

「なるほどな。ようは、日本人に対してそれをしなければ良いと言うことだな」

「うーん、砂漠の民のルールを強制はしたくないんだけどさ、できるならあんたらの中でも守って欲しいんだよね。無理にとは言わないけど」


「矛盾してるぞ」

「うん、わかってる。でもね、確かに俺たちのルーツは違うかも知れないけど、今は同じ人間じゃん?」

「そうだな」

「あんたらだって、エネルギーが売れなきゃ物資が手に入らないじゃん?」

「たしかに」


「その商売相手は日本人じゃん?」

「ふむ……」

「日本のやり方に従えってんじゃないの。国際ルールみたいなもんよ」

「ふっ。国連か?」


「あんな役立たずじゃないよ。商取引の基本でしょ?」

「なるほどな。考えておこう。だが日本人に対して最低限のルールは守ると約束しよう」

「できれば、欧米さんとも同じルールにしてあげて欲しいけど、今はいいや。そっちは好きにやって」

「わっはっは。わかった。やりたいようにやらせてもらう」


 よしよし。

 次は――


「私たちもよいだろうか?」

「権利さん。あーごめんね、まずは自律組の話をさせて」


 あんたらはちょっと別な仕組みが必要だからな。

 

「む。そうか。まあ引いておこう」

「ごめんね。ないがしろにはしないから安心して」


 あんたらが活躍できる場も考えたよ。


「欧米さんはどんな感じ?」

「我々も砂漠の民と同じ扱いでよい。またルールについても承知した。だが、当面はここでの生活を体験させて欲しい」

「そかそか、それなら助かる。体験はずっとじゃないけど、目途が立つまではいてもいいからね」

「感謝する」


 さて、親分だな。


「親分。昨日は名前も聞かずにごめんね。俺は三星一樹。しがない編集屋だ。なんの因果かここのリーダーみたいなものをやってる。嫌いなものは弱いものいじめだ」

「おう、これはご丁寧な挨拶痛み入る。俺は――ああもういいよな? 言葉遣いは」

「もちろん」


「俺は大山春雄。東京の生まれだ。今は千葉の元締めみたいなもんをやってる。配下はおよそ三千ほどだな」

「三千? すごいね」

「まあ、どこまでコントロールできるかはわからんがな」


「それでもすごいよ。いやー助かる。いきなり三千人も家族が増えちゃった」

「お前の方がすごいぞ。こんな荒くれ者を家族と言い切るんだからな」

「じゃあさ、早速だけどお願いしてもいいかな?」

「なんだ、まずは言ってみろ」


「三千人を使ってさ、岡っ引きやってくんないかな?」

「岡っ引き? 随分古いのを持ち出したな」


「おい、三星、お前何をさせる気だ」

「マーズB、おれは三星じゃないぞ」

「くそ。半そで仮面! 返答次第によってはお前を逮捕する」

「何の容疑ですか~? え~?」

「ぐっ」

「最後まで人の話は聞くもんだぞ、公安」


 ナイスフォロー。よくできた子だよ。


「荒くれ者が岡っ引きなんて犯罪者を見逃すだけだろう」

「いや、そうでもないよ? 岡っ引きだって元々立派な警官じゃなかったみたいだしね」


「それにさ、犯罪とはなんでしょうかね? マーズB」

「その言葉の通り、罪を犯すことだ」

「ではその罪は誰が決めるんですか? 日本国憲法? 刑法?」

「日本の法すべてだろう」

「へえ、日本の法が役に立ってないのに? 法治国家として存続できるか危ぶまれているのに?」


「今の警察と検察で、捜査して、検挙して、立件して、裁判まで持っていけるんですか?」

「……」

「転移以降、どれだけ検挙できて、裁判を行って、収監できましたか?」

「……」

「な? わかっただろ?」

「お前の言わんとすることはわからなくはない。だが、それを止めてしまっては無法地帯が生まれるだけだ!」


「うんうん、そうだよね。でも無法地帯は一年後確実に来るんだよ」

「なぜだ」

「逆に聞きたい。どうしてこないと言えるんだ?」

「……」

「前に話したことがあるんだが、警察も自衛隊も六百万人を守るだけの人数はいないんだよ」


「でもな。犯罪は起きる。故意か過失か、色々あるだろうけど、悲しむ人がいるのは事実だ」

「それに対して、警察はどうするんだ? 答えてみろ」


「無法地帯が確実に来るとは限らないだろうが!」

「来るんだって。だって食べ物がなくなったらどこからか奪うしかないんだから」

「!」


「一度狂った歯車を元に戻すのは大変なんだよ」

「食べ物を盗む。物資を盗む。欲望を満たすために盗む。そうなったら誰にも止められない」

「そして最初の被害者は弱い者たちだ。俺はそれが許せない。わかるだろ? あんたも人の親なら」


「だから、大山親分に頼むんだ」

「警察よりも犯罪者の事に精通している。まさにその道のプロだ」

「わっはっは。俺たちが犯罪者を取り締まるのか。面白い」


  * * *

【サッチービレッジ 大山親分】


 こいつは傑作だ。

 犯罪者の集団が、その手口を知り尽くした集団が、取り締まる。

 そりゃあ、普通の小悪党じゃ逃げ道はないわな。


「それが大親分の狙いか」


「大親分って、すごいな。『お』が多すぎる。でも面白いからいいや」

「狙いじゃない。適材適所だよ。親分」


「なるほどな。じゃあ、こちらからは何人か差し出さなきゃならんな」

「そうだね、お勤めはしてもらおう」


「お前たちは何の話をしているんだ?」

「マーズB。半そで仮面様と呼びなさい」

「くそが。半そで仮面様がたはなんの話をされておいでで?」


「転移前に罪を犯した人達は見逃すわけにはいかないだろ?」

「そっちは捜査中だったんだろ。なら、出頭させる。それが義理を果たすってもんだ」


「なぜそうなる?」

「じゃなきゃ、俺たちが岡っ引きの役目なぞできまい?」

「その通り。さすがわが子だ」


 筋は通っているな。

 そして、差し出した人間でさえ役割があるんだろう。

 別の。


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


「さて、そこまで話が進めばあとは微調整だけだ。それよりも権利の各々の件もある。ちょっと難しい話をするから、全員耳の穴をかっぽじって聞いてね」


 さて、どれだけの人間が理解できるかな?

 

「まず、収監とかお勤めの話が出たから先に犯罪者についての提案だ」

「基本的には労働がメインだな。主に食糧生産。それから手助けが必要な人たちへの協力だ」

「何度も言ってるけど、放り出すわけでも島流しでもないからな。勘違いするなよ」


「食糧は米と麦、麦といっても、小麦も大麦もやるんだ」

「それは砂漠さんも欧米さんも一緒だからね。三か所でどんな方法が良いか、試す」

「その上でだ、お勤め先では、酒も作る」


「おい、そんな余裕はないだろう?」


 砂爺はつっこみだけ早いな。

 早いのはだめだよ。笑いが逃げる。

 

「ないねー。でもさ、食べるためだけじゃ人間生きていけないだろ? あ、俺は酒は味もわからないし、飲まないからその辺は、三か所でうまく作ってね」

「酒、造れるのか? いいのか?」

「いいもなにも、親分はそっちの方が楽しいだろ?」

「ああ、もちろんだ。生きがいと言ってもいい」

「なら、いいんじゃない。でも収監先では絶対飲むなとは言わないけど、一口ぐらいだね。だってお勤め中だからね」

「そりゃそうだ。むしろ一口でも味わえるなら最高のとこじゃないか」


「あとは種次第だけどトウモロコシとか菜の花、もちろん大豆だね」

「トウモロコシも酒になるよね? 菜の花は油、大豆はいろんなものに使える。特に窒素がらみは有効だと思う。よくわからんから専門家に聞いて」

「千葉県内では、とにかく今を食べるための維持、収監先とか砂漠さん欧米さんは他の物資を手に入れるための物々交換と嗜好品ってわけようよ」


「ふむ。そいつは面白いな」

「一つに依存せず、そしてあまり分散させすぎないことが大事だと思うんだけどね」


「でだ、ここからが重要」

「物々交換は手間がかかりすぎる。一々物を運ぶ必要があるし、空荷で動くのももったいない」

「というわけで、新しい通貨制度を決める」


「それが、8分の1硬貨だ」

「8分の1? なんだそれは?」

「まあ聞きなよ。8分の1硬貨、あー面倒なので、1ビットとするよ。1ビットで大人の一食分に相当する価値がある。交換するのは役所だ」

「たとえば一日八時間働いたら、8ビットもらえる。そうすると、自分のその日の食い扶持三食を抜いて5ビット余るよね」

「家族一人以上を養えるって寸法だ」


「だが、そんなに食糧はないだろう?」

「ああ、だから先物取引みたいなもんだよ。価値は常に一定だけどね」

「ふむ。それなら投機目的にはならんか」

「わからないけどね。んで、8ビットで新一円。作るのは二種類の硬貨」

「そして硬貨を偽造したら、死刑! とまではいかないけど厳罰ぐらいにしなきゃだめだね。勿論お酒もなしだ」


「すごいなお前、いや大親分。そこまで考えて俺たちを使うのか」

「砂漠の民としても賞賛しよう。愉快だ」


「私たちの役割の説明がないのですが?」


 各々さんか。ちょっと忘れてた。


「え? これだけ材料があるのに、わからない?」

「何をさせる気だ?」


「あんたらは間違っても肉体労働には向かないだろ? いないとは言わないけどさ。俺と同じ理屈をこねているのが好きなタイプだ」

「決めつけられては困るな」


「まあ、いいじゃない。あんたらだって、散々相手をそうやって決めつけて話し合いを成立させなかったんだからさ。たまにはやられてみるのも一興だよ」

「ふん」

「まあ冗談はさておき、あんたらの主張は権利を守れだよね?」

「そうだ」


「だが権利を守るには義務が必要だし、権利を保証する法そのものが危ういね」

「……そうだな」

「なら、社会が安定するまではジャッジとして働いたらどうだ?」

「ジャッジ? 審判か?」

「そう、正しく取引されているか、役所が正しい交換を行っているか、各団体の支給が正しく行われているか」


「……そんなことをさせてもらえるのか?」

「まあ公正取引委員会ってのもあるみたいだけど、ちょーっと俺の考えているのとは違うからね。消費者センターも役に立たないだろうし」

「そうだろうな」


「なら、あんたらは自分たちが権利を主張できる社会が確立されるまでは、正しい社会、あんたらの理想郷じゃないよ? 人々があまねく食事をとれる世界のことだ。それが成り立つように、しっかり見張ればいいんじゃない? 仕事として」


「ようはさ、三権分立じゃないけど、一つのものごとに対して三つ以上の立場が互いに監視し、確認する仕組みを作ったらどうかってわけ」


「権利とか義務とかは大分先の話にしようよ。今は六百万人で生きることを大前提にしよう」

「そしてまずは最初の一年、次の一年を経て、食えるのかどうか。生きる希望が見込めるのか。日本人だけじゃない、いろんな人々が、いろんな主張を再び展開できるようになるのか」

「ゆっくり、あせらずに、でも一歩ずつ確実に進もうよ」


「じゃないと、本当に一年後に崩壊しちゃうからね」


  * * *

【サッチービレッジ ハブ】


「お前、それいつから考えていた?」

「いつって、皆が来たのは昨日。それから起きたのは朝方。んで、ここに来るまでの間だね」


 前から考えていたとしか思えん。


「お前の頭の中はどうなっている?」

「普通の人と同じじゃない? 多分脳みそ入っていると思うよ? 機械じゃないと思いたいね」


「お前はそれが成立すると思っているのか?」

「うーんどうだろ。割と綱渡りのような気がするね」


「大山がこの話に乗らなかったらどうした?」

「それなら別な道を探しただろうね。でも結局はこんな感じになったんじゃないかな?」


 これは荒くれ者の存在あってのことだ。

 大山がここに来なければ先に進められなかったし、大山を説得できなければ成立しない。


「お前は自分が天才だと思っているのか?」

「はあ? ないない。俺は編集だけはちょっと自慢できるけど、人様の役に立とうとか、知らない人のために尽くそうなんて気は毛頭ないし、ましてや自分が天才だとはちょっとしか思ったことないよ」

「ちょっとはあるのか」


「そりゃあ皆あるでしょ? 若気のイタリアだよ」


「私たちはそんなものアリマセーン」


「イタリアにはないのか……」

「というかイタリア人いたのか……」


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


 知らなかった。

 ごめんなさいゼリ屋!




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。