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ep.44 三星対団体


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


「さて、具体的に詰めていこう」

「何をどうする?」


「まずはマーズBを中心に、俺の要求を聞け」

「無茶だけは言うなよ」

「無茶しか言わないから覚悟しろ」


「農業をやる。JAの職員で若いのを集めろ。経験は少なくていい。だが、知識があるやつだ」

「期限が切れそうな種も全部くれ。それから古い玄米もな」

「忘れちゃいけないのは、小麦とかの食糧まわりの種だ」

「肥料はもらえればありがたいが絶対じゃない」


「三星よ、それはこっちで農業をやるということか?」


 佐々木の爺さん。長いな。砂爺にしよう。あ、砂かけじじいみたいでいいね。

 

「そうだ。もちろん未知の領域で使えるものの採取や分析は引き続きやるぞ」

「ふむ。人が集まるなら、手分けとはそういう意味か」

「そうだな。農業だけじゃないけどな」


「更には高専系であぶれた奴も欲しい。木工も忘れちゃダメだ」

「そっちは俺も手助けしよう」

「親分も伝手ある? それなら助かる」

「多少やんちゃではあるが、若いので手に職や知識があるやつは大勢いる。だがそれを発揮する場所がない」


「松井、お前何やってんだよ」

「そうはいってもね、三星さん」

「まあいいよ。お前たちは力の及ぶ範囲で頑張ってきたんだろう。だがな、それは全員を助けるようで、見えないところに手が届いていないんだよ」


「俺たちのほうも転移と言われたって、はいそうですか、と素直には聞けんからな」

「そうだろうな。まあ、せっかく働ける力があって、知識があるなら無駄にするのはもったいない」

「悪くないな。清濁併せ呑むやり方は」

「俺だってできりゃあ表通りを歩いていきたいさ。だがそんな事言ったって、松井たちじゃどうしようもない。自衛隊も警察も取り締まる方法は考えても、生かす方法はほとんどないだろうからな」


「やむを得んのだ。半そで仮面」

「だからお前らのやり方じゃ一年後はもたないって言ってんの」

「わかってる」

「んで、人集めの一環といってはなんだけど、既に収監済み、罪が確定している奴、それからこれから罪を重ねる悪い子ちゃんも引き取ろう」


「リーダー、それはダメです。ここには子どもたちもいます」

「あー、心配はいらないよ? ここに呼ぶわけじゃないから」

「魔人ブー。利根川の方、そうだな、元の地図で言うと取手方面から先、少しいったところの湖は見つけたか?」

「詳細はわからんが、既に発見済み、水も問題ないところまではわかっている」

「そかそか。そこでさ、植物と動物のハイブリッドの収穫、それから米と小麦を育てようぜ」

「収穫は分布次第だが、麦はともかく米は水田をおこす手間も時間もかかろう」


陸稲おかぼだよ。雑草や虫にさえ気を付ければ、むちゃくちゃ難しいもんじゃない」

「なるほど、その手があるのか。力仕事が主体で、あとは日々の見回りと水具合ということか」

「お、少しは知識ある? 俺は聞きかじりだから詳しくはないが、ハードルはそんなに高くないと思う」


「まあ、知識のあるやつがいれば、いきなり全部の種と玄米を試しはしないだろう」

「俺たち、砂漠の民、欧米さん、そして権利の各々も食わなきゃならん以上は、最低限自分たちの食い扶持はなんとかしなきゃならんからな」

「権利の各々も主張だけして物資を寄越せとは言わないよな?」

「……そうだな。義務は果たすべきだな」

「だそうだ」


「あとは、地域で見ている人たちもある程度一緒に連れていくといい」

「それは見捨てるという意味か?」

「砂爺は短絡的だなあ」

「砂爺? 手が必要な人たちを放り出すつもりか?」

「違う違う。犯罪者だからって全員が力仕事ができるわけじゃない。それに男ばかりでもなかろう?」


「そうだな。収監は交通系方面もあるからな」

「全部をそこに委ねる必要はない。手分けするんだ。あとは手が必要な人たちだって、知識はある。むしろ今では得られないものを持っている可能性だってある」


「結果として、手が必要な人たちでさえお前は使おうとしているのか」

「全員が全員それに適してるとは言わない。だが、家族がいないとか、疎遠というだけで一人でいる人だっているだろう」

「確かに」

「なら、力仕事だけじゃないってことを証明しないとな」


「だが、結局は犯罪者の中に放り込むのは変わらないのでは?」

「松井ー。犯罪者は永遠に犯罪者のままなのか?」

「そうは言いません。ですが罪を犯した事実は消せないのでは?」

「そうだなー。罪を犯すということは誰かを悲しませている可能性があるからな」

「再犯率の問題もあります」


「親分、一回くさい飯を食った奴が、また入る理由ってなんだろね?」

「その多くは社会に受け入れ先がないからだ。結局は同じ罪や別の罪を犯す。まあ本人の資質によるところが大きいがな」

「だね。俺のやり方が完璧とは言わない。ましてや強制労働になりかねない。そういうのは権利の各々が許さないだろ?」

「その通りだな」


「まず一回やってみ? いきなり全部じゃないんだよ。やらずにぼーっとしてるぐらいならやって失敗して別な方法を検討した方がいい。違うかい? 権利の各々」

「それについてはなんとも言えないな。だが、言うは易しと言いたいのだろう?」

「そうそう。大体そんな感じ。権利の各々は自分たちの食い扶持を自分達で確保しながら、今の社会でどんな主張ができるか、はみ出した人たちと一緒に考えたらいいよ」


「だけどな。これは全員に言っておく」

「自分の主張というか権利でもいい、それを声高に叫ぶのは許容するが、他人に押し付けるのだけは許さない」


「宗教だろうが、親のしつけだろうが、戒律でもそうだ。本人が納得してそれを受け入れるなら良いが、押し付けるやつは許さない」


「だが、勧誘とはそういうものではないのか?」

「おい、阿呆。それで人類はどれだけ失敗してきたかを忘れたのか?」

「失敗だと?」


「そうだ。あまるほど物資があるなら何を語ろうが構わん。また金だの宝石だのに価値があるなら、それを集めようが売り払おうが好きにすればいい」

「だが、今は生きることが大前提なんだよ」


「文明はあるが、歴史的には縄文時代とほとんど変わらない状況なんだ」

「そこから、人類の犯してきたおろかな事を繰り返すつもりなのか?」


「それが勧誘を許さないとはつながらないが?」

「自分で考えて、自分で決めるのはよい。だが、甘言や利益を提示して、人間に上下をつけ、競わせるのは考えた方がいいって言ってんの。わかる?」


「まあ、これも俺の話を聞けから始まってるから、勧誘とか過去の歴史の過ちになりそうだけどさ」

「これは俺の中の話。俺が許さないだけだ。あんたらがどうしようがあんたらの自由だが、もし俺やここにいる人たちに手を伸ばそうとするなら、俺は抵抗するからな」


「歴史が正しいとか間違ってるなんて、俺が言えるほど偉い人間じゃない。だが、アホの主張を力のない者が聞かされて、その人の人生や考えが歪まされるのは許容できない」

「親だからなんだ? 権威があるからなんなんだ? お前たちが俺に正しい道を示したのか?」


「力があるってのはな、責任を伴うんだ。決して誰かを服従させるために使うもんじゃねえ」

「おい、三星」


 3号。いたのか。

 

「お前大丈夫か? またやばそうだぞ?」

「そうだな。ちょっとやばいかも」


「あんたら、三星が疲れている。色々聞きたいことはあると思うが、今日帰らなきゃいけない人以外は数日ここで過ごせばいい」

「助かる。3号」


「お前はもうしゃべるな」

「ハブさん、そのほかの皆さんも、少し皆さんで話してみてください。そんで、ご新規さん? 接待はしない。ここにいる以上は働いてもらうが、まずはやってみてくれ。その上で三星の話が聞きたいなら、明日以降にしてくれ」


  * * *

【サッチービレッジ 橋爪三佐】


 この野郎。また無茶しやがって。

 あとは皆に任せろ。

 大丈夫だ。お前の気持ちはわかってる。


「あ、あと一つだけ」

「だから、しゃべるなって」

「いや、これだけはお願い、言わせて」

「ったくもう」


「自衛隊でも警察でも地域でもいい。オタクの皆さんをくれ。あんたらには勿体ない」

「もういいか? 横になれ。医療班を呼ぶんだ」


 なんだ、最後にオタクって。


「申し訳ないが、後は引き継ぎます。さっきも言った通り、今日帰らなきゃいけない人で三星に意見や希望があるなら、1号いや橘に伝えてください。奴が責任をもって三星に伝えます」


「んで、外国の人? 日本人? え? なんかすごい怖そうな人いるけど……、時間があるならもてなしはしないし、寝るところぐらいしか用意しないけど、自分で自分の食う分やトイレの始末とかやってくれるなら、数日滞在しても構わないと思う」


「三星が回復すれば、具体的なことは話せると思うけど、今はそれだけしか言えない。まずは見て、体験してくれ。そうすれば奴が言いたいことが少しはわかると思う」


 これでいいんだよな?

 三星。

 

  * * *

【サッチービレッジ 三星の妻】


「3号さん、すみません」

「奥さんまで、その名で……」

「あらごめんね。あの人の口癖がうつっちゃった」

「いや、いいんです。もう慣れましたから」


 また、無茶をしたのね。

 途中から気づいていたけど……

 

 だけど、止められなかった。

 すっごい焦ってたのがわかった。

 

 大事な部分だって。

 

「お客さんの方はいいんですかね?」

「あ、そっちは1号とかハブさんとか、他の人たちが対応してるんで大丈夫です」

「なら良かった」


「いつものやつですかね? まだコーヒーとか砂糖あります?」

「うん、大事に残してあるからね。最近はほとんど飲んでなかったから。ちょっとだけ贅沢させてあげちゃう」


 夜も寝られるようになって、少しは安心したけど。

 やっぱり、ずっと考えていたのね。


「でも、今回サッチーが止めなかったんですよ」

「あら、真っ先に止めそうなのに」

「何か考えがあるんですかね? 三星はなんて言ってました?」


「さっちゃんは利用しない。家族なんだから一緒に頑張るんだとは常に言ってますけどね」

「はは、旦那さんらしいですね」


 さっちゃんはお父さんが一番だから。

 きっと助けてくれると思う。

 私だって負けないんだから。

 

  * * *

【サッチービレッジ 親分】


「公安の方。あんたはどう思った?」

「どれについてだ?」


「全部だ。だが、それじゃあ曖昧すぎるな。ならあの男だ。差し詰め危険思想の持ち主とかありもしない理屈で見張ってたんだろ?」

「そうだな。勿論、そちらにいる権利を主張される皆さんも同様だがな」


 権利主張組が公安をにらんでるな。


「まあまあ、喧嘩は平和になったらやってくれ。今はそこじゃない。あの男のことだ」

「ひと月あまり一緒に居る。確かに肉体労働には向かんし、団体行動も得意ではないな」

「そうか。ならなぜ見切りをつけてよそへいかんのだ?」

「別にあの男を見張るためだけにここにいるわけじゃない。ここもコロニーの一つであることには違いないからな。ましてやよそと違い、様々な人間が来る。結びつきも薄い。トラブルも起きやすいだろうと考えていた」

「で? 考えていた結果どうなった?」

「トラブルはほとんどないな。今のところ。むしろ全く関係のない人間が集まっているにもかかわらず、ここまでまとまっているのは珍しいと思う」


「俺はな、こんな世の中になっちまって、どれだけの利益を得られるか考えてた」

「貴様」

「だがな、金は使えない。物も限られる。皆生きることに精一杯になった時、俺たちの食い扶持はほとんどなくなった。つまらないと思ったよ」


「そんな奴らばかりだから、お前たちはクズと言われるんだ」

「何とでも言え。だがな、これでも俺たちは需要に応えていたんだぞ?」

「ふん」


「まあ実際どうでも良くなったってのが本音だ」

「だからなんだって言うんだ」

「あの男面白いよな」

「否定はせん」


「俺のことを子にすると言った。そして、俺にかかわる人間もタダで使える兵隊だとさ」

「あり得んな。やつはやっぱり危険思想の持ち主だ」


「そうかも知れんな。だが、俺たちだけじゃない。砂漠の奴らも、欧米も、ましてやそこの小うるさい連中もあいつはどうすべきか道を示したぞ?」

「……」


「これまでお前たちが出来なかったことを俺たちに示したんだぞ?」

「実現できるかはわからんだろう」

「ああ、そうだな。だが夢は見られる。いいじゃねえか。あいつに乗るのも悪くない」


「おそらく、あんな奴だから、あんたも、自衛隊も、地域長もあいつの言葉が聞きたいんだろ?」

「あいつの言葉はわくわくするだろ? 俺の親なんだぜ」

「明日、あいつと話すのが楽しみだ」






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