ep.43 新天地の真理
* * *
【サッチービレッジ 三星】
「あー少し話しすぎたな。ちょっとトイレ行かせてくれ」
「サッチー、怖かったよー」
めちゃくちゃ怖かった。
なんだよ砂漠とか権利とか、あとは親分?
俺が知ってるのは森の石松ぐらいだぞ?
ちきしょう。
松井も佐々木の爺さんも、B氏も全員苦しませてやる。
絶対にな!
《三星、よく頑張った。あと私の外国語も褒めてくれ、ついでに消し炭も》
「外国語は良かった。とても助かった。だが消し炭はやりすぎだ。俺が驚いたし、あれじゃあ恫喝だぞ」
《ぐ、すまなかった》
「まあ、やっちまったことは仕方ない。結果オーライにしておくが、以後気を付けてくれ。俺は脅すのも脅されるのも好きじゃない」
《わかった》
《この後はどうするんだ?》
「あーそうだな。コーヒー飲みたい。甘いやつ。贅沢だよなあ」
《甘味になりそうなものは発見してある。試してみるか?》
「え? 俺まだ食べてないやつだろ。それ」
《ふふふ》
「今昏睡するわけにはいかないから、やめておく。今度詳しく話は聞くがな」
《ふふふ》
「どれ戻るか」
* * *
【サッチービレッジ 欧米代表】
「三星さん、よいだろうか」
「ん? なに? 英語じゃなくてもいいよ? どこ出身? ドイツ? ロシア?」
「東欧だが、日本語で構わない」
「そか、周りの皆もわかるから、助かるわ。んで?」
この人と対面しろと言われた理由が少しだけわかった。
公的機関では杓子定規の回答しか得られず、一向に先に進めない。
だが、この人はものの数十分で様々な集団の話を聞き、これから道筋を示そうとしている。
日本人らしくない。
そこがとても気になる。
「我々もあなたの家族にしてもらえないだろうか?」
「え? うそ。まじで?」
「私たちもその案にのってみたい」
「いや、ちょっと待って、そんなには……ん? 待てよ」
もうアイデアが閃いたようだ。
持ち帰って検討します、という役所仕事とはまるで違う。
即断即決だ。
これは我々のアイデンティティに通じるものがある。
そして、砂漠の方々も同じものを感じたとみた。
「権利の人たちはどうする?」
「我々は主張を変えない。だが正面ではなく裏道という方の話を聞きたい」
「うんうん。それなら大丈夫。君らは君らの主張をすればいい。邪魔はしないさ」
良いと思う。
相手の主張はそれとして認め、自分の主張も明確にする。
ディベートのようなものだ。
「一つだけ確認しておくよ。俺の家族ということは、皆が皆、俺の子となる。即ち俺の示す道をできれば歩いて欲しい」
「ああ、それは理解する」
「別に他の生き方をするなら、それでもかまわない。子は巣立っていくもんだ。それを助けるのが親の勤めだ。だからずっとは面倒はみないぞ」
「そちらも十分受け入れられる」
「砂漠の民としても受け入れやすい。ずっと違う主張の中で生きるのは難しい。我々には我々の信念があるからな」
「まあ、面倒なことは言わないよ。ただ一生懸命生きる。そのためのほんのちょっと努力と相手を理解する。それだけでいい。主張を受け入れる必要はない」
「あんたらは、ずっとあんたらのままでいていいんだ」
大統領のようだな。
この人物は。
それも割といい加減で髪型が特徴的な方の。
だが、好きだ。
憎めないところがね。
* * *
【サッチービレッジ 松井地域長】
驚嘆から駒とか、三星さんなら言いそうだ。
実際、驚きしかない。
本当に解決策を求めたわけじゃない。
できればガス抜き程度で十分だった。
それをこの短時間でまとめ上げるとは。
そして、本人はきっとやりたくないと思っているのもわかる。
これは後々、絶対わたし達に無理難題を吹っ掛けるつもりだ。
覚悟しなければ。
「具体的にはどうされるんですか?」
「あー、ここのクランで正式な話し合いをしてからじゃないとGOサインは出せないが、それでもいいか?」
「ええ。この方々も手ぶらで帰れはしないでしょうから」
私が連れてきて言うのもなんなんだが。
「松井。よいかこれは盛大な貸しだからな? 覚悟しろよ」
やっぱり……
「1号、また使い走りにして悪いが、ハブちんとか、責任者を集めてくれる?」
「そんで、皆さんも申し訳ないが、ここだと全員入らないから、広場へいこう。実際に色々見ながら話をした方が早い」
「あと、佐々木の爺さん、あんたもだからな?」
「うへ」
* * *
【サッチービレッジ 三星】
「さてさて、皆揃ったね。こちらは砂漠の関係の人と、権利を主張される方々と、欧米の皆さん、そしてやんちゃな集団の代表者だ」
「詳細はあらかじめ、1号から聞いていると思うけど、ざっくり説明する」
「まず、やんちゃな集団の代表者は俺の子になる。そしたら、おまけに集団もついてくる。それもタダでね」
「怖いならかかわらなくていい。だがこれで自衛隊や警察がいなくなっても、自分達で防衛できるぞ。やったね」
「そして砂漠の民、欧米の皆さんも大体同じ感じだ。ずっとではないが、ある程度は協力してやっていきたいと思ってる。反対はいつでもいってくれ。不安だっていい。愚痴は1号が聞く」
「権利を主張したい各々はあくまでも権利を主張されるそうなので、別扱いとする。これは俺の管轄じゃないので、大丈夫」
「良いだろうか?」
「なんだね? 権利の方」
「我々は裏道を望んだ。だが、それはあくまでもあなたという軸があるという前提だ」
「うんうん。でもさ、権利を主張するんでしょ? 権利に伴うものは?」
「義務だな」
「ここでの義務を果たせるの?」
「具体的な説明がないから回答はできないが、これまでと同じ扱いなら義務は果たせないだろうな」
「あー、これまで程厳密じゃないかな? いや、もっと厳しいと思うな」
「説明を求める」
「ここでは、六百万人を食わせるための働きをしているんだ。得意分野だけでなく、すべての面において人々が力を発揮している。義務じゃない。自分たちの考えで行動している」
「……」
「制約は少ない。権利も認めるが、それは六百万人の可能性に、自分の力を賭けられる奴にだけ与えられたものだ。それがここだ。そしてそれが俺だ」
「……」
「どうだ? 俺のところに来れるか?」
「無理だと思う」
「だろ、だからきちんとあんたらがあんたらでいられて、かつ生活ができる場所を考えるよ。俺のいないところだけどね」
「俺の庇護だけ受けて、権利を主張しようなんて考えない方がいい。俺はそういう奴らが大嫌いでね。ここには、ほれ」
「パオーン」
「グルルルル」
「にゃー」
「フーっ!」
「ばっさばっさ」
「俺は許しちゃうかも知れないけど、あいつらが許さないよ。骨にならないといいね」
「わかった。だが、具体的な話は聞きたい。忘れずにいてくれると助かる」
「もちろんだ。その辺は抜かりないよ」
「感謝する」
ふう。緊張した。
動物達、いや、お母ちゃんか。
あそこにいるな。
ごめんな心配かけて。
もうちょっとだけ無理する。
文句は松井と佐々木の爺さんに言ってね。
「さて、親分は後でじっくりお話しよう。差しのがいいだろ?」
「そうだな。ここはうるさい目と耳が多いからな」
「んじゃ、その辺の動物たちと遊んでて、あ、いたずらでもちょっかいだすなよ。マジで食われるぞ」
「お、おう」
あとは砂漠と欧米か。
欧米か。(ぷぷ)
「砂漠からでいい? 欧米さんたち」
「構わない。その方が我々も考える時間ができる」
「砂漠さんもいい?」
「砂漠さんではないな。せめて砂漠の民と呼んで欲しい」
「えー面倒だなあ。でもまあいっか。じゃあ砂漠の民ね」
「欧米さんもそうだけど、しばらくはこの地で暮らすノウハウをここで学んで」
「食えるもの、食えないもの。手を出してよいもの、まずいもの」
「まあ、俺たちだってすべてがわかっているわけじゃない。どちらかと言うとわからないことだらけだ」
「だから手分けしよう」
「砂漠の民はやっぱり石油が欲しい?」
「いや、別にこだわっているわけではないが、わかりやすくはあるな」
「んじゃさ、そっち関係で特化してよ。エネルギー関係担当ね」
「あるのか? 石油が?」
「ないよ? ただ面白いものはある。詳しくは後で個別に説明する」
「わかった。食糧はどうなる?」
「小麦が良いかな?」
「ふむ、米も悪くはないが、その方が扱いやすい」
「んじゃ、小麦は欧米さんたちと手分けしてね。欧米さんたちもいい?」
「ああ、我々も小麦の方が助かる」
「よしよし。あと欧米さんたちの食料以外については、個別に話を聞くから後で相談しよう」
「わかった」
「んで、方向性としては、今ある水辺でしばらくは同居というか、エリアは分けるが、一緒に学び、働いてくれ」
「ふむ、わかった」
「我々も了解する」
「んで、それぞれの場所については、見当はつけてあるから、一度自衛隊に案内してもらってくれ」
「私たちがくることを予想していたのか?」
「しないしない。場所はある。だが人手がない。偶然あんたらが来てくれた。なら任せる。それだけだよ」
「そうか、よい偶然に巡り合えたようだな」
「そうだね。偶然も十回あれば当然だからね」
「意味がわからないが?」
「いいのいいの。気にしないで」
「でだ、クランの皆はどう考える?」
* * *
【サッチービレッジ ハブ】
「ウサギは連れて行かせないぞ」
「はいはい。わかってるよ。大丈夫」
「本当だな? 約束しろ」
「いや約束はできない。ただ、増えたら分けてあげてもいいだろ? 彼らだって安らぎは欲しいかも知れないだろ?」
「ああ、そうだな。やすらぎは大事だな」
「それに、ウサギだけじゃない。ここでこれから生まれてくる新しい世代を彼らに任せたっていいんだ」
「それは寂しいじゃないか」
「いや、ここだけでは狭すぎる。そして動物たちをここに押しとどめる権利は俺たちにはない」
「それは……いやそうだな。お前の言うことに一理ある」
「だろ? 動物たちだって、新天地が必要なんだ。それが真理だ。それが『新あまちま……』」
「それ以上は言うな!」
「どうして?」
「わからん。だが権利関係でもめるのはいやだ」
「不思議なことを言う。セーラーブーの主張も認めておいてやろう」
なんだかわからんが、安心した。
* * *
【サッチービレッジ 三星】
「さて、ふざけてばかりもいられないぞ」
「お前が言うなとしか言えんな」
セーラーブーのくせに。
「佐々木の爺さん。あとは魔人ブーじゃなくてセーラーブー。それから松井、そしてマーズB」
「なんですか?」
「お前らの貸しはでかいからな。マーズBはちょっとだけ回収したが、また追加した。これから複利で苦しませてやる」
「おい、やめろ、無茶はできん。県民を守るのが我々の務めだ」
「語るに落ちたね。俺たちだって県民だし、砂漠の民も、欧米さんも、権利の各々も、そしてやんちゃな集団も県民だよ。今ではな」
「だが、お前らのやり方では一年後にどれだけの数が残っているかわからん。本当の意味で地獄絵図になりかねん」
「だから、俺が教えてやろう。名付けて『みんな仲良く頑張ろう作戦』だ」
「無理だな」
くそが!
魔人ブーめ! お前は動物たちの餌にする。絶対!
「うるさい。無理なのは俺が一番よく知っている。でも、もがくのをやめちゃだめだろ」
「もう一度だけ言っておくからな。俺はお母ちゃんと猫たちを守るためだけにこの動きを始めた」
「だが、今じゃこんなにたくさんの人や動物がここにいる。もがいてもがいて、皆が一生懸命にもがいて生きてるんだ」
「それを無理と決めつけるんじゃない」
「いや、お前が一番よく知っていると言ったではないか?」
「ああ、言ったさ。でも無理で終わらせてない。まだあきらめてない」
「だから、お前たちは俺の言葉を聞け。そして自分達で判断して、動くんだ」
「そうでないなら、もう二度とお前たちは助けない」
「仏の顔もサンドウィッチマンだ!」
* * *
【サッチービレッジ サッチー】
三星よ。また滑ってるぞ。
オッパイ揉むか?
いや、今はお腹?の中の子のことが……
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【サッチービレッジ にさにさ】
集団お見合いはどうなりましたか?
待ってます。
かしこ
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【サッチービレッジ 3号】
出番なしは寂しいじゃないか。
俺だってお前の家族だろ?
呼べよ。
突っ込みぐらいはするぞ?
な?
《登場人物紹介》
三星(男) 55歳ぐらい
三星妻(女) 三星よりは若い
猫ちゃんず 3匹いる
サッチー(不詳) 観測衛星・未知の文明から来ました
橘・1号(男) 市役所勤務からクランへ派遣
2号・欠番
橋爪・3号(男) 自衛隊所属・独身
松井(男) 現松戸地域・地域長
佐々木(男) 松戸地域・議長
羽生(男) セーラーブー・自称民間人・うさぎ好き
本田(女) 自衛隊所属・結婚願望あり
渡部(男) マーズB・公安所属
親分(男) 千葉を見てる。なんだよそれ
砂漠の民(男) オイルマネー
権利関係(女) 自己主張が激しい
欧米の皆さん(男女) 様々な国からようこそ
秋田犬 雑食性だがまずいものは食わない
動物達(雄雌) たくさんいる。そして鳥が多い
ネバネバ君(不明) 不明




