ep.42 団体交渉
* * *
【サッチービレッジ 三星】
「どうでしょうか、三星さん」
「松井ー、お前こんなところに来てる暇ないんじゃないの?」
松戸地域長の松井と議長の佐々木。
こいつらが直接乗り込むってことは絶対に表敬訪問じゃねえ。
「まあそう言うな。どうしてもお前さんの力が、というか意見を聞きたいんだ」
佐々木の爺さんには人の手配で骨を折ってもらったからな。
借りは返さなきゃならんが……
「あんたらが何を言うか大体想像つく。そして俺はそれに答える義務はない」
「聞くだけ聞いてもらえないですかね? 三星さん」
聞いたら最後だ。
後戻りできない。
そして、こっちがケツを拭かなきゃいけなくなる。
「わかった。当ててやろうか。宗教関係と外国人、そして力の集団の件だろ」
「話が早くて助かります」
うっさいわ。
「佐々木の爺さん。あんたならそっちにも顔効くんだろ?」
「まあないとは言わんがな……道理というか仁義が通じない者も多くなった」
まったくもう。
絶対嫌だ。
でも、こいつらはもう既に……
「そこでだな、当事者を連れてきている。出来たら話を聞いてやって欲しい」
「ふざけんな! それはあんたらと自衛隊、警察の仕事だろ? 俺は一般市民だ!」
「落ち着け。何もお前に答えを出せと言ってるんじゃない。話を聞いてやってくれればいい」
聞くだけじゃ済まないだろ?
そしてもう俺にはどうすべきかわかってる。
俺に損な役割を押し付けやがって。
この貸しはでかくつくぞ。
「くそが。お前ら覚えておけよ。必ず後悔させてやるからな」
「怖いですね。ですが、三星さんの希望ならできるだけ叶えたいと思います」
「安請け合いするつもりはないが、お前には返さなきゃならんことが多いからな。任せておけ」
よーし。絶対泣かしてやる!
* * *
【サッチービレッジ サッチー】
《三星、子どもの件だけど……》
「すまんサッチー。それは後で必ず聞く。その前にこいつらを何とかしたい。頼む手伝ってくれ」
《初めてじゃないか? 三星が私に頼むのは? 違ったか?》
「いつもお前に頼ってばかりですまん。だが今回は俺一人では絶対無理だ。そしてあいつらの誰も役に立たない。お前だけなんだ……」
《よし、任せろ。三星は私が守る》
「守らなくてもいいが、途中でヒントをくれたらそれでいいんだ……」
《遠慮するな。全員消し炭にしてやる。安心しろ》
「それはそれで困るんだが、まあ最悪はよろしくお願いします」
三星らしくない。
かなり弱気だ。
私の三星を苦しめるやつらは私が許さない。
覚悟せよ。
第二形態を見せてくれよう。
* * *
【サッチービレッジ 三星】
「で、こちらの面々は? あー名前とかは結構、所属みたいなのがわかればそれでいい」
「私は砂漠から来た。不満がある」
「なるほど。で、その横の方々は?」
「国民の権利について現状を話したいが、誰もまともに取り合わない」
「そうねえ。皆それどころじゃないからねえ」
「それどころじゃなくても権利は常に――」
「まあ、落ち着いて、話し合いに来たんだろ? 意見表明だけならお帰りください」
「む。わかった」
「そちらの集団は?」
「俺たちははぐれもんだ。わかるだろ?」
「あーおっけー。あんたらの方が話しやすくていいよ。最後でもいい?」
「もちろんだ」
「他には?」
「欧米の代表です。現状を認めたくありません」
「そうだね。俺も認めたくはないな。まあ、わかった」
くそが。
本当に面倒な連中ばかり寄越しやがって。
「じゃあ、まずは砂漠の皆さんから。日本語じゃ言いたい事が伝えられないでしょ?」
「そうだな。できれば母国語の方が伝えやすい」
「なら、ここからは母国語で話していいよ。俺が皆に訳すし、あんたらとも俺が話す」
「できるのか?」
「やってみな」
『お前は何の神を信じる?』
「あーこちらの方は、俺に対して『何の神を信じるか?』って聞いてる。面倒だから訳すのは後にするわ」
『俺の神はネコだ』
『ネコ? ふむ。日本にはそういうのがあるのか』
『知らん。だが俺は信じてる。誰にもそれを止める権利はない。あんたらと同じことだよ』
『なるほど、それなら話は早い』
『で、どうしたい?』
『千葉の中で我々の場所を求める』
『無理だな』
『何故だ』
『ここは日本人の集団だ。あんたらは異邦人だ。あんたらの信条では異邦人はどうするんだっけ?』
『歓待はしよう。だが受け入れるかどうかは我々の信じるものと一つにするかどうかだ』
『だろ? それはあんたらの国でできる主張だ。ここは日本だ。(たぶんな)』
『別世界だと聞いた』
『別世界だろうと、日本の土地があり、施設があり、財産がある。あんたらは他人の財産を奪うのは当然の権利か?』
『その必要があれば奪うのも仕方ないだろう』
『日本人は奪うことはしない。分けるんだ。な? この時点で俺とあんたは相容れない』
『日本人も奪う奴はいる』
『その通りだ。だが奴らは裁かれる。人の手でな』
『ふむ』
『あんたもわかってるんだろ? 日本人の中では生きづらい。だが物資は欲しい。方法がないってとこだな』
『その通りだ』
『なら、場所があれば良いか?』
『そこは豊かな土地か』
『少なくとも砂漠よりかは実りはあるだろうな』
『少しだけ考えさせてくれ』
* * *
【サッチービレッジ 橘】
流暢に話す。すごい……
何を話しているかさっぱりわからない。
だけど、外国の方を相手に引いているようには見えない。
「三星よ、なんて言ってるんだ?」
「あーざっくりと話すと――」
この短い間でそこまで。
「一旦時間をあげよう。では、次の方々にしようか」
「権利主張の皆さん。お話を伺いましょうか」
「随分と語学が堪能なのだな」
「まあ、ちょっとね。で、あんたらはどうしたいの?」
「権利を主張する。そして今後その権利に基づいた補償を求める」
「なるほどねー、三分頂戴」
三分で答えが出るのか?
「あんたらが言う権利について、正面から話し合う方法と裏道があるけど、どっちがいい?」
「正面に決まっているだろう」
「うん、じゃあ正面から話すね」
「何を甘えてるんだ? お前らは?」
「な!」
「ふざけんな。小さい子どもも年寄りも、みんな毎日生きるのに必死になっているぞ?」
「それは!」
「で、お前らは何してんだ? 野菜でも作ったか? 道具でも作ったか? 誰かの役に立ったのか?」
「誰かの役に立つためにこうして権利を主張――」
「おい、それ以上言ってみろ、俺は地域長とか自衛隊、警察とは違うからな?」
「俺は手がでるぞ?」
三星さん、それはダメだ!
「デコピーン」
「いて」
「な? 痛いだろ? 痛いで済んでよかったな」
「ふざけるな!」
「ふざけてないぞ。俺は我慢したんだ。ちょっとあそこにある椅子を見てな」
じゅっ!
あ、椅子が一瞬で消し炭に……
「あんた、ああはならなくて良かったな?」
サッチーさんの仕業か?
「なあ、ここでは権利とか主張しても、死んだら終わりだ。それぐらいはわかるよな?」
「……」
「俺は暴力を持っている。なんなら二千余りの兵隊(ほとんど動物)がいる」
「……」
「それをあんたらの集団にぶつけようか?」
「な? 正面から話をすると、最終的には話し合いじゃなくなっちゃうのよ。平和な日本ならずーっと話し合いできるんだけどね。ここじゃ一日が貴重なんだ」
「わかるだろ?」
「俺も知ってる。あんたらが過去、暴力を基本としていた時代があったことを。だが、それは過去の話だ。実際のあんたらは『まだ』それをしていない」
「なら、裏道の方の話をしようよ。その方がよかろう?」
「というわけで、権利の皆さんも、一旦後回しね」
そんなウルトラCでいいのか?
三星さん、乱暴すぎじゃないですか?
* * *
【サッチービレッジ 佐々木議長】
随分とハッタリをかましたなあ。
守るものが増えて強くなったか?
それとも我々への当てつけか?
いずれにせよ何らかの答えは出そうだ。
代償が大きくなりそうだが……
「さて、欧米の皆さんだが、英語にする? 日本語でいい?」
「いや、我々はもういいです。私たちも裏道を選びます」
「あれ? いいの? 話し合いに来たんでしょ?」
「もう、大丈夫です……」
結果的には良かったのかも知れないが、日本人のイメージは最悪だな。
「さて、最後はあんたらだ」
「手際いいな。俺のところに来ないか?」
「勘弁してくれ。もう心臓バクバクよ」
「わっはっは。そうは見えんがな。自己紹介はやめておこう。千葉を見ている」
「へー大きく出たね。千葉を見てるんだ。じゃあ話は早いね」
「ああ、要求は二つだ」
「いいよ、一つは賭博だろ? もう一つは住む場所だな」
「おい、すごいなお前。本気で欲しくなった」
「1号、B氏じゃない、マーズBを呼んできて」
「マーズB??? 渡部さんですね。わかりました」
「公安もいるのか」
「有名人なの? B氏って」
「ああ、それなりにな」
「へえ。まあいいや」
「でさ、俺からも親分さんに質問いいかな?」
「わっはっは! 自己紹介はしてないが? なんだ?」
「賭博はいいけどさ、何を賭けるの? どんな利益があるの?」
「あーお前なら話すとするか。金の代わりにコインが流通している」
「へーそうなんだ。食料とかと交換?」
「まあ、それだけじゃないがな」
「ふーん。俺さ、薬とか女の人関係はダメなんだよ。あんたらの商売のタネってのは理解するが、それを受け入れられない人間もいるってのは覚えておいてね?」
「ほう。酒もやらんのか?」
「飲めないわけじゃないんだけどね。まあもうちょっとだけ長生きしないといけないからね」
「そうか。俺は長生きよりも酒の方が良いがな」
「しゃあないよ。色んな人がいるからね」
「そうだな。しかし本当にお前使えるな」
「いや、親分さ、俺の家族になる? それならある程度面倒みてやるよ?」
「なに? 家族に? 盃を交わすのか? 俺と?」
「あんたが俺の子だ。そこは間違えるなよ?」
「おい、まさか本気なのか?」
こいつ……
こんな大物を相手に、子にしてやるだと?
正気か?
「ふざけて言うか。家族は俺の守る対象だ。それを冗談で言うわけないだろうが」
「……おい、少しだけ考えさせてくれ」
どうなってるんだ?
こいつは何者なんだ?
わけがわからん……
* * *
【サッチービレッジ マーズB】
「呼ばれたから来た。半そで仮面」
任務中だからな。仕方ない。
仕返しに半そで呼びしてやる。
「おう、ごくろうマーズB。この人知ってる?」
「どの? あ!」
「よお」
「なぜこんなところにいる?」
「後にしよう。ちょっと考え事をしなきゃならん」
なんで、こんな大物がここにいるんだ?
三星はやっぱりそっち系のつながりがあったのか!
「マーズBは見当違いなことを考えている。こいつとは初見だ」
「おい、こいつ呼ばわりってすごいな」
さっぱり状況がつかめん。
「コインが流通してるって?」
「なぜお前、いや半そで仮面がそれを?」
「親分が教えてくれたよ」
嘘だろ?
嘘といってくれ。
めちゃくちゃ極秘だぞ、それ。
「なあ、あんた」
「うるさい、考え中だ」
何を考えてる?
何が起きてる?
「マーズB、賭博はどういう扱いになった?」
「暫定の法律では取り締まれない。というかそこまで手が回らない」
「ふーん。じゃあこれまで通り、『金銭の授受』がなければ問題ないって感じでいいのかな?」
「いや、そういう、うーん」
「息抜きは必要だろう。男ばかりはちょっと不公平だけどな」
「わからんでもないが」
「俺に考えがある。あんたの貸しを一つ使うぞ」
絶対に聞くわけにはいかない!
「親分を俺の家族にする。いいな?」
「はああああ?」
「というわけで、今日から千葉の裏社会は俺のもんだ。いいよな親分」
「おい、まだ決めてないだろ? だが面白いな。三星といったか、いや大親分と呼ぼう」
「わっはっは! よきに計らえ」
「よきに計らえじゃないぞ! 三星」
「三星ではない。半そで仮面だぞ。マーズB」
* * *
【サッチービレッジ 親分】
こいつは面白い。
なぜ、自衛隊も警察も役所もこいつを囲まないんだ?
「具体的な話は後にしよう」
「そうだな。じゃあ、とりあえず親分は俺の子で話をすすめるぞ」
「ああ、いいだろう」
俺を手玉にとるとはな。
愉快だ。
「まずは親分の配下を明らかにしろ」
「というと? 人数とかか?」
「人数だけじゃない、どこに誰がいて、何をしているか教えろ」
「ふむ、手間だな。だが出来なくはない」
「まずは、舟ヶ崎を封じ込めろ。だが、殺しはダメだ。多少の暴力には目をつぶる」
「相手だって丸腰じゃないぞ?」
「だろうな。だが、それぐらいやってもらわなきゃ困る。俺の子ならな」
「こいつは手厳しいな。まあ何とかしてみよう」
「そんなわけで、マーズB、キノコ作戦は一旦保留にしよう」
「お、おう」
「何かしようとしてたのか?」
「ああ、ちょっとな。キノコ使ってだけどな」
「なるほど、キノコなら人を操りやすいからな」
「親分が考えているキノコじゃねえよ」
「そうなのか? しかし他に策があるとはな。あそこはもう崩壊するだけだと踏んでたが」
「親分なら治められるだろ?」
「うーん、出来ないとは言わんが……」
「まあ、やるだけやってくれ。無理しろとは言わない」
「ああ、何か他に縛りはあるのか?」
「舟ヶ崎は、一般市民、女性、特に子どもに被害が行かないようにしてくれ」
「おいおい、それはかなり無茶だぞ?」
「大丈夫、マーズBも自衛隊も手伝ってくれる。あとは親分が主体となって進めるんだ」
「ほう。公権がバックアップか。面白いな」
本当に面白い男と出会えたもんだ。
転移も悪くないな。




