ep.41 罠
* * *
【サッチービレッジ 羽生】
「聞かせてみろ。お前の答えを」
「俺を便利な猫型ロボットと勘違いしてない?」
軽口が叩けるということは、こいつの頭の中では固まっているな。
「一つだけ断っておくね。B氏も聞いてね」
「人道にもとる!とか、市民の安全を最優先に!とか言うなら、俺の答えは聞くだけ無駄だからね」
「非人道的なことは会社としても容認できないぞ?」
「自衛隊も同様だ。あくまでも可能な限り平和的解決を望む」
こいつは何をさせる気だ?
人道にもとるというのは穏やかな表現じゃない。
「それにさ、俺に何のメリットもないと答えようがないなあ(チラチラ)」
「何をすればよい?」
「会社からはあまり出せるものはないのだが……」
「そんなに難しいことじゃないよ。ちょっと実験につきあって欲しいだけ」
「実験?」
「それが非人道的ということなのか?」
まずい。ちょっと間違えたかも知れないぞ。
「できなきゃそれでもいいよ? 貸し一つということでも。あーでも後になればなるほど要求は難しくなるかもなー(チラチラ)」
「要求を言え、まずはそれからだ」
「私もそれを会社に確認してからでないと約束はできないな」
絶対これまずいやつだ。
「じゃあ、いい。言わない。でもいいのかなあ。そこを放置すると、もっと影響が拡大していくような気がするんだよなあ」
「足元をみやがって!」
「わかった。実験か貸しかについては、今は答えられないが、少なくとも私個人としては三星氏に応えるとは約束しよう」
B氏、後悔するぞ?
私は絶対に約束しない。
「三星、まずは話してみろ。それが実現可能か否か、その上で判断させろ。なんだったら対価の上積みも検討する」
検討はする。検討だけはな。
「B氏は最悪自分で背負うって言ってるのに、ハブちんはずるいな。ならハブちんは自衛隊が代償を払わなかったらここから追放ね? 俺にそんな権限はないけど」
「な、それは困る」
だめだ。それだけは絶対に。
うさぎちゃんが私を求めているんだ。
「わかった。自衛隊として可能な限り善処すると約束しよう」
「絶対だよ? B氏が証人ね」
「あい、わかった」
しまった。約束してしまった。
「じゃあ教えちゃう。名付けて『悪い子には三星に代わっておしおきよ大作戦』」
「はあ?」
「なんだそれ?」
* * *
【サッチービレッジ 三星の言葉】
まずこの作戦を話す前に、コードネームを決める。
この作戦が終了するまでは、そのコードネームで通せ。
じゃなきゃ俺は一切手助けしない。いいな?
ハブちんは、セーラーブーだ。
B氏は、マーズBだ。
それぞれの職場に報告するときもその名を必ず使え。
いいな、絶対だぞ。
ちなみに俺は「半そで仮面」でお願いします。
さて、本題にいこう。
奴らも人間だ。その日食わなきゃ生きていけない。
だが、奴らだって県民だ。食べ物を奪ったからって即粛清! とはいかないだろ?
まあ死んでも治らない奴もいるかも知れんが、それは俺の対象じゃないので、B氏いや、マーズBの方でよろしく。
物資といっても生活必需品は大体なんとかなるもんだよ。
贅沢さえ言わなきゃな。
だから、絶対必要なものに爆弾を仕込む。
おいおい、そんな怖い顔するな。
実際の爆発物じゃないって。
まあ、ある意味本物の爆弾の方が良いかも知れんが。
最後まで聞けって。
まだ動かせるパン工場はある?
ちゃんとした製品じゃなくてもいい。
食べられさえすればいい。
なんだったら自衛隊と警察で手作りパン工場を営んでもいいぞ?
んでさ、その中にあるものを仕込むんだ。
ちょっと待っててね。
あーあったあった。
これこれ。
これさ、キノコみたいに見えるじゃん?
これでも生物っぽいんだよ。
で割と簡単に採れる。
あ、口にしない方がいいよ。
一週間は確実に下痢するから。
ちなみに、こっちは予防キノコ?でいいのかな。
こっちを食べるとわりとすぐ治る。
先に食べることをお勧めします。
わかったかな?
これをどう使うか。
問題は子ども達と、無関係な人々への対策だ。割と楽だよ?
どうかな?
え?
大丈夫。死なないよ?
俺、生きてるでしょ?
3号も無事だよ?
* * *
【サッチービレッジ B氏改めマーズB】
「そんな危険な真似はできない」
「そうだな。一般市民ましてや子ども達の口に入る可能性があるなら容認できんな」
それを悪ふざけと言うなら、こいつの言葉は絶対に信用してはならない。
「ほんと頭が固いなあ。なんのためのコロニーなんだよ?」
「コロニーとその作戦にどんな繋がりが?」
「マーズBもセーラーブーも、割とコロニーには組織の人間を入れてるんでしょ? どうせ」
なぜ、そんなことまでわかる?
自衛隊が漏らしたのか?
「どこからその情報を得た? 自衛隊の規律にかかわる、答えろ」
違うようだ。
「アホだなあ。俺はコロニーで自活しろと言った。その意味をあんたらは絶対理解しないと思ってたよ」
アホ?
どういう意味だ?
「人間は強いと言ったろう。守るものがある奴は必死になる。それを邪魔するのはアホのやることだ」
「邪魔などしていないだろう? 見守ってると言って欲しい」
「自衛隊は力を平均化させて守るためだ」
物は言いようだな。
「なんでもいいよ。とにかく、あんたらがある程度の人間をコロニーに配置しているのはわかるよ」
「んで、このキノコの利点は、治す方は少量でいいんだ。そして腹を下すほうは結構多めにくわなきゃならん。しかも子どもは嫌いな味だ。女性もあまり食わんだろうな」
「だからって絶対食わないとは限らんだろう?」
「そうねえ。女性はさ、その人がどういう状況かわからない。自主的なのか強制されているのか」
「でもね、子どもはどうあっても罪なんかない」
「だから食わせ方を工夫するってことだよ。まあ食わなくてもいいんだ。別の方法でもね」
「まあ、そっちは俺は反対派だからやるならそっちで決めて」
「ということで、更にこれをうまくやるにはもう一工夫するんだ」
「酒に混ぜるってのはどうだい?」
* * *
【サッチービレッジ ハブ改めセーラーブー】
「穴だらけじゃないか」
「なんだよ? 俺を神様か何かと勘違いしてるのか?」
「そうは言わんが。女性や子どもは絶対に守ると言うと思ったぞ」
こいつは弱い者に対しては可能な限り手を尽くそうとする。
そういうやつだ。
「子どもは絶対だ。なんとしてでも守る。そのための策もある。もちろん、漏れがあるからそれはうまいことフォローしてくれ」
「とにかく、問題なのはコロニー外にいる集団なんだろ?」
「またコロニーの大半がそういった集団に占められている場合もあるんだよな?」
「順番が逆になるが、コロニー外と、集団に占拠されているコロニー向けはこうだ」
「自衛隊と警察で子どもの予防診断をする。勿論、それでも穴はあるから出来る限り人はうまく使うんだぞ」
「小学生ぐらいまでの子どもと、親を対象に、診断に来た人たちには食べ物を配布する。お菓子でもいい。例の治療の方のキノコは、体内で割と長くもつからそれでいけるだろう」
「お母さんの方はついでに診察してやれ。その辺は公安の方が人を判断するには長けているだろう。完全な黒だけでいい。そいつには治療のキノコはやらない。グレーはやるしかない」
「ついでに、どういう境遇かも聞き出せ。無理やり連れてこられたのか、それとも自主的なのかもね」
「中高生をどうするか? そこだけが困る。子どもではある。だが、集めようもない。といって全員黒とも白とも判断できない」
「そうだな。中学生までは対象にした方がいいな。だがあくまでも面談に来た奴だけにしよう」
「来なかった奴で、万が一フォローが必要な場合は、早めに動け。何、死にはしない。トイレの回数が増えるだけだ」
「酒の方はかなり多めでもいい。酒なんて支給してないだろ? それを手にするってことは良くも悪くもはみ出しものってことだ」
「何より、出所不明の酒を飲むんだ。自分の酒を飲む分には咎める必要はない」
「そっちは多めにしちまえ」
「まあ全部が全部うまいこといくとは思わん。だが、何もしないよりは、多少方向性は変えられると思うぞ?」
「あとさ、下痢とは言ったが、脱水症状になるほどじゃない。本当に腹が痛くなるんだ。歩けないわけでも、動けないわけでもない」
「あとは診察にかこつけて、一人ひとり調べればいい。その辺はお宅らの仕事だろう?」
黙って聞いていたが、こいつは一線を越えたのか。
「黒の判断が随分と手厳しいな」
「ん、ああ。俺はな、女性は大切だと思っているが、子どもを大事にしない親は滅べばいい」
「仮にその親が犯罪者や、暴力を生業とする人物だとしても、子どもを大事にしていないとは限らんだろう?」
どうも腑に落ちんな。
「同じことだよ。文明があった時代なら、それも成立しただろう。だが今は違う」
「汗水流して働いて、とまでは言わないが、正しい方法で生きる糧を得て、その姿を見せることが親の務めだ」
「それすらもできないような奴は、いくら口で子どもが大切といっても、いざという時は子どもを盾にして逃げるんだよ。俺は知ってるんだ」
三星の親か。
そうか。
「お前の親御さんのことを言ってるんだな?」
「俺に親などいない。戸籍上の繋がりはあるかも知れんが、それだけだ。俺は俺の力で自分の家族を守る。口をはさむな」
ふむ。こいつの裏側だったのか。
よくもまあ悪の道へ進まなかったもんだ。
感心する。
「すまない。お前の事情に踏み込むべきではなかったな。悪かったこの通りだ」
「いいよ、セーラーブーがそういうつもりじゃないのはわかってる。だが、俺も抑えられなかった。詫びるよ」
よく律したもんだ。
「私は何もわからないが、口は挟まないでおこう」
「そうだな。必要があるならこいつが話すだろう」
「話さないけどな」
らしくないな。
少しだけいじらしいところがある。
「現実的な判断はそっちでやってよ。俺も一時の感情で言っちゃったところがあるからさ」
「ああ、わかってる」
「そうだな」
落としどころはあるだろう。
そして、その先も大体見えてきた。
「あとは、こちらの動き方次第だな」
「そういうこった」
「半そで仮面」
「なんだよ、マーズB」
「提案なんだが、ここで採れた植物だか動物だかあったろう」
「ああ、割と好評だな」
「それを多めに譲ってもらえんか?」
警察さんは三星に協力することにしたのか。
「なるほど、貴重な食糧を消費するぐらいなら、ちょっと実験に協力してもらうわけか。俺たちだって食べてるしな」
「そういうことだ。勿論、我々も体調を見ながらサンプルとして情報は出す。どこに伝えればいい?」
「そうだな――」
一瞬、こいつが悪い方向へ進むかと危惧したが、きちんと道を正したか。
己を律する力には恐れ入る。
強い男なんだな。
* * *
【サッチービレッジ サッチー】
《「三星は強い男だ」ぐらいは考えていたな。セーラーブーは》
「わっはっは。あいつもちょろいな。そんなわけなかろうに」
三星が強がっている。
脳波からも見て取れる。
《三星》
「なんだ?」
《あなたには、妻も猫たちも、そして私もいる。だから大丈夫だ》
「馬鹿野郎。おっぱいもないくせに……」
《そんな三星に朗報だ》
「……なんだよ」
《新しいおっぱいを送る》
「いきなりだな、おい」
《三星が望んだんだ》
「それは生身の方であって、硬いやつではないですのよ?」
《わかってる。触り心地も良い筈だ。当社比30%アップだ》
「アップ言われても元のがわからないからねえ。だがストップだ」
《なぜだ?》
「お前、もう自己修復する気ないのか? 必要なパーツまで送ってるんじゃないのか?」
《……》
「お前はお前の役目があるだろう。それを全うしろ。じゃなきゃもう遊んでやらん」
《フフフ。三星がそう言うだろうと予測しておいた》
《私は今日から(正しくは昨夜から)バージョンアップしました》
《サッチー改めスーパーサッチーレボリューションと呼んでください》
「マダガスカルか?」
《まだ助かる?》
「いいです」
《スーパーサッチーレボリューションは長いのでSSR、通称サッチーとして》
「変わってねえな」
《お黙りなさい! この豚が!》
「確かに飛べないけどよお」
《いいから聞いて、三星》
《私、あなたの子どもが出来たのよ……》
「いたしてないのに?」
(お父ちゃん!怒怒怒)
お母ちゃんはやっぱりエスパーの家系だ。
絶対!




