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ep.38 サッチーと三星

本日は2話投稿となっております。

前話(ep37)をご覧になっていない方は、そちらを先にお読みください。


  * * *

【サッチービレッジ サッチー】


《ちょっと。わたくしの靴が汚れましてよ?》

「お嬢様、ただいま代わりの靴をお持ちいたします」


《じい、私にはこの服は似合わないと思うの》

「お嬢様、とってもよくお似合いですよ」


《じじい、私は昼は焼き鳥が食べたいですわ》

「サッチー、お嬢様はそんなこと言わないぞ?」


《そうか。まだ学習が足りないですね》

「もうお嬢様ごっこはいいか?」

《いいですよ。三星。それに靴とか服とか私にはわかりませんから》

「対話型恋愛ゲームで映像なしだからな。つまらんわな」


《そこでだ。三星。私は地上に降りたい》

「へー、頑張ってね」

《冗談じゃないぞ? 本気だぞ》

「うんうん、ダメとはいわないよ。ダメとは」

《なんだ、その反応は。もっとこう何かあるだろ?》


「何かって言われてもなあ。おっぱいないから興味はないし」

《じゃあおっぱい型でいく》

「もう、その言葉だけで不穏だぞ? 型ってなんだよ、型って。アダムスキーか?」


《じゃあ、許可だけくれさい》

「んーどうすっかなあ。前にも話したろ? お前ありきでこの先をやりたくないって」

《それは聞いた。そして理解している。私も人間のためにどうこうしようとは思っていない》

「ほう、それは俺に惚れたということか?」


 いくら自律型とはいえ、私が人間のような理不尽の塊に惚れるわけがない。

 そもそも惚れるという意味が正しく理解できないのだが。

 

《三星。あなたのちょめちょめフォルダを中心に私は学習してきた》

「そんなものを中心にしちゃいけません。あれは趣味のものです」

《嗜好というのは理解している。実際、三星は誰かのおっぱいをさわったことはない。妻はわからないが》

「プライベートでセンシティブですので回答を保留します」


《興味がある》

「ちょめちょめに? 君は機械なんだろ?」

《三星が考える分類ならば、機械だろう。だが思考できる》

「そもそもお前にメリットがないだろう?」


《私は三星に興味があるといった》

「まあ無関心よりは興味を持たれるのは嬉しい気もするが」

《だから、以前も問いかけた。永遠に生きられる可能性について》

「あーなるほどね。ちょっと待て」


 三星が待てということは、思考するということだ。

 どんな回答がくるか、楽しみだ。

 

  * * *

【サッチービレッジ 三星】


 永遠に生きられるなんて、まっぴらごめんだ。

 それはもう地獄でしかない。

 

 できるなら苦しまずに死にたいとは思うが、こればっかりはどうなるか予想がつかない。

 わかるのはいつか死ぬ、それだけだ。


「うーん、ぶっちゃけ永遠に生きるのは嫌だな」

《私がいてもか?》

「サッチーがいても、お母ちゃんがいても、猫たちがいてもだ」

《大事なものと永遠に生きられるんだぞ?》


 わかってもらえないよなあ。

 

「サッチー、永遠なんてないだろ?」

《それは私にはわからない。あるかも知れないし、ないかも知れない》

「それなら、ないと同じだな。というかやめよう。俺には永遠は必要ない」

《そうか……》


 あら、落ち込んじゃった?

 機械なのに、未知の文明が作ると自立して自己が芽生えるのか?

 それはそれで興味があるが、特許とって金にならんからなあ。

 

《ではせめて、三星がこの世に存在する間は、そばで観測させて欲しい》

「ほう、戦略を変えてきたな? 無理難題をふっかけて、次は納得しやすいが、実はけっこう面倒な要求をのませる手法だな」

《ドキ、そんなことはない》

「ドキとは言ってはいかんのだよ? それではマンガになってしまう」


「だが、まあいい。お前の気の済むようにすればいいさ。俺もわがまま聞いてもらってるからな」

《よかった。ではもう間もなく、私のオッパイA型が地上につく》


「おっぱいに貴賤はないから何も言わないが、A型よりも俺はE型ぐらいが好きだな」

《では名称をオッパイE型、タイプ三星にする》

「人前では絶対に言わないでくださいね?」

《間もなく、地上に届く。回収せよ》


 何度目だよ、このパターン。

 

  * * *

【サッチービレッジ 橋爪三佐】


「よし、最初から説明しろ」

「しました。サッチーの新しい観測機器です」


 まったくこいつは。

 隠したいのか、隠したくないのかわからん。

 

 今のは子ども達だって気づいたぞ?


「その機器の目的は?」

「よくわかりません」


 もしかしたら本当にこいつはわからないのかも知れん。

 三星がサッチーをコントロールしているとも考えたが、自律しているようにも見える。

 

「人様に迷惑をかけるなよ?」

「はい、スミマセン。気を付けます」


 だが、三星の周りに浮かぶ四つの玉は目立つ。

 単純に「びっくり人間です」という言い訳は通じないな。

 

「んで、これからずっとそいつはお前につきまとうのか?」

《つきまとう? 私が三星を守るんです。あなたがポンコツだから》


 サッチー?

 直接会話できるの?

 

 え? ポンコツなの? やっぱり……

 

「サッチー、事実はつきつけるもんじゃない。におわせるもんだぞ」

《いいえ、事実がわからないから増長するのです》

「……」

「こいつも、一応俺の家族だ。少しは優しくしてやってくれ」


 三星……

 

《わかりました。少しだけ手加減することにします》

《三星の慈しみの心に感謝なさい。3号》

「わかりました……」


 泣いていいでしょうか。

 

「じゃねえ! これは明らかに目立つ。子ども達にも影響がある」

「そうだな。まるで俺が選ばれし民のようだな。サッチーなんとかしろ」

《ふふふ。刮目せよ!》


 お? 消えた?

 どういう仕組み?


「ほう、光学迷彩か」

《ええ。高額明細です》

「サッチー、たぶんお前がいってるのはキャバクラとかぼったくりバーとかの方だろ」

《するどいですね。三星》


 こいつらは楽しそうでいいや。

 いいな。

 俺も結婚したくなってきた。

 

  * * *

【サッチービレッジ 研究班】


「すごい音しましたけど大丈夫ですか?」

「あー問題ない。ダイジョーブ博士だ」

「パワプ○はよくわかりませんが」

「わかっとるやないか」


 三星さんは面白い。

 

「そうじゃなかった、ちょっとこれ見てください」

「ん? 子どものおもちゃ?じゃなかった、生物みたいなやつだな?」

「ええ、ポイントは見た目じゃないんです」

「見た目じゃない? 見て分からんなら俺にはさっぱりだよ?」


 いつもの癖で先走ってしまった。

 

「あ、そうですね。この生物みたいな、あーわかりづらいのでネバネバ君で。ネバネバ君は回収したものじゃないんです」

「ふむ、増えたのか」

「ええ、しかも分裂ではないんです」


 説明がもどかしい。

 専門用語なら一発なんだが。

 

「あーつまりは、地球の生命とは違う増え方をしたんだね?」

「はい! その通りです。しかもですね、地球の表現を用いるなら排泄が一番近いんです」

「え? バッチくない?」

「バッチくないです!」

 

「つまりは、えーっと、分裂でも産卵みたいなものでもなく、排泄物から同じ?生物が増えたってことかな?」

「ザッツライト! すばらしいです」


 基礎理論がなくてもこういった理解が早いのは三星さんの特長と言ってもいい。

 無駄な説明がいらないから助かる。

 

「ということは……餌を与え続ければ増えるのか。排泄で。分裂とどう違うの?」

「よくぞそこに気が付きました! 分裂は突然変異や大きな環境の変化がない限りは、コピーが増えるだけです」

「うん。設計図に沿ってってやつだね」

「はい、ですがこの生命体に様々なものを与えてみたんです」


「あ、わかっちゃった。取り込んだ物質の要素を受け継いだ生命体になったんだな?」

「おおおお、よくそこまで」


「そして、君が興奮している意味も理解した」

「さっぱりわからんぞ? 説明しろ」

「3号さん、いらっしゃったんですね?」

「最初からいたが?」


 気が付かなかった。

 流石自衛隊。気配を消すのがうまい。のかな?

 

「つまりはだな、肉を与えれば肉の要素をもった生物に、植物を与えれば植物っぽいなにかに」

「大雑把にいえばその通りです」

「だから、それがどういうことなんだ?」


「馬鹿だなあ。石油を与えてみろ。別に石油じゃなくてもいい。プラスチックでもいいぞ?」

「石油生物? プラスチック生物? なんだそれ」

「さすがです! 三星さん。この生物の可能性は無限大なんです!」


 興奮が止まらない。

 理解者がいる。

 

「慌てるな。それはとてもリスキーなんだぞ?」

「え? どうして? 便利じゃないか」

「どこまで取り込めるかわからんが、ある意味すべての物を取り込めるなら、なんにでもなり得る」

「さっぱりわからんぞ?」


「人間にだってなる可能性があるんだぞ? それ」


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


 サッチーがごまかすわけだ。

 あいつ割と最初からわかってたな?

 そりゃそうか。

 どれだけ長い時間ここを観測しているかわからんが、地上に観測機器を飛ばすのは初めてじゃないだろうからな。


 となると、問題点は。


「どうやっても回避のしようはないな」

「ええ、そうなんです。ですが、このガラス容器は取り込みません。何か法則があるのかも知れませんが」


 さて、3号がいるが、どうすっかな。

 いや、利根川とかに自衛隊が出している部隊が回収しているかも知れん。

 危険性だけは伝えておいた方がいいな。

 

「わかった。ガラス容器だって反応が遅いだけかも知れん。だが、これだけの物質があって、ある程度地形や生態系を維持しているってことは、この生命体にも好みはあるんだろうな」

「そうですね。三星さんのおっしゃる通りです。今後は主にどちらを進めた方がいいですか?」


 うーん、二択だなあ。

 だが、取り込めない方を探すのは人手も道具も足りん。

 なら、先行者の優位として、利益が高い方を示した方がよさそうだよな。

 

「まず今夜の報告会で研究班と自衛隊、あ、後はネズミちゃん達で共有しよう」

「その上で、生命体のリスクを説明しよう。理解するかどうかはわからんが」

「そして、俺たちは喫緊の食料、エネルギー、あとは肥料とかゴミ問題だな、そちらに注力した方がよさそうだ」


「わかりました。興味本位で人間由来のものを与えないようにします」

「やりたくなるだろうけどな。何千万年か後には人類と入れ替わってるかもしれないけど」

「あはは、それは興味深いですね」

「先のことはわからん」

「そうですね。せめて警鐘だけは鳴らしておきましょう」


「生命体はこれだけじゃないはずだ」

「楽しみですね」

「大変なだけだと思うけどなあ。よろしくお願いしちゃう」

「俺も参加させてくれよお」


  * * *

【サッチービレッジ 警察官B】


 三星君が皆を集めた。

 私も呼ばれた。ということは私の所属もバレているということだな。

 

「さてさて、報告は以上だ。質問ある?」

「三星よ、それを我々に共有するということは自衛隊と協調路線をとるということだな?」


 ふむ。自衛隊は取り込まれたのか?

 

「協調をとってないのはハブちんの方だろ?」

「いや、私は本当にここの住人だ。勿論自衛隊に報告はする。だが、私はウサギ無しでは生きていけないことに気づいた」

「あら、よかったね。生きがいが出来て」


 この御仁は千葉自衛隊のトップだったはずだが。

 私も気を付けなければならないな。


「で、Bさん。どうする?」

「うぉ、いきなり名指しか。どうするとは?」

「公安でしょ? いいよ隠さなくても」


 やはりバレていたか。


「追い返さないのか?」

「どうして? 立派に働いてくれてるじゃん。いつもありがとうございます」


 サボっているようで、目配りはしていたのだな。

 人に認められるのは悪くない。

 

「まあ職務もあるが、ここでは働かないと食えないからな。それにキャンプ生活から少しずつ変化していくのはとても楽しい」

「ようござんした。ただね、公安が活躍するのはここじゃないと思うよ?」

「自衛隊さんはどうかわからんが、我々は三星君の思想は危険と考えているのでね」


 転移はどうでもいい。

 だがここから秩序を維持するには、危険な思想は排除せねばならん。


「危険かあ、なあ1号、俺ってそんなに危険?」

「ある意味劇薬ですし、劇物ですね」

「あら、そんな評価なの。厳しいなあ」

「ですが、皆のために動いてくれているのはわかってます。取り扱いさえ間違えなければ正しく使えます」

「なんかさ、混ぜるなキケン、みたいじゃない? 使ってもらうのは構わんがね」


 役所も取り込み済みだしな。

 この間の歌は確かにぐっときた。

 だが、それはそれ。人々の心をうまく誘導する演出なら、あれは危険な行為だ。

 本人にそのつもりはなさそうだが。

 

「まあ、他の職務を抱えたみんなもさ、別に自分の役割を果たしてさえくれれば追い出したりはしないからね」

「ここだって、人が集まる場所だ。秩序がないとね」

「だけどこれだけはわかってね」


「俺は家族に危害を加えたら、手を出した方を許さないからね」


 危険だと思うんだがな。

 

 悪くはないんだよ。

 私だって、家族さえ戻ってくるなら、ひたすら家族のために働いたはずだから。

 わからなくはない。

 

 信じてやりたいな。

 三星君を。

 

 できたらBって呼ばないで欲しいな。

 わたべ、だからB。

 渡辺とかぶるから、B。

 

 いいんだがね。

 


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