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ep.37 故郷

あとがきに告知があります。

次話は本日19:50に投稿いたします。

本日のみ1日2話投稿となります。


  * * *

【サッチービレッジ 三星の言葉】


 あ、研究班の皆、ごめん。

 俺の方でも色々調べた。

 確実じゃないんだけど、植物に見えるものはおそらく安全に食える。

 

 ただ、アレルギーとか、個人に由来する反応については確認できないから、細かく目配りして欲しい。

 勿論、これまでの研究と並行してね。

 

 それからこれは全員に知っていて欲しいんだが……

 この惑星には動物もいる。

 

 どんな形かは見てのお楽しみだ。

 俺が調べた限りでは毒性のものはいない。

 

 何故わかるかって?

 勿論、食ったからだ。

 

 まあ、俺もすべての生物を発見できたわけじゃないからな。

 全部が安全ってわけじゃない。

 

 だから初めて見た生物や、植物っぽいもの以外の生えてるもの、また地中のものについては極力さわらないようにしてな。

 研究班は悪いけど、そっちで見つけた分のうち、少量でいいから俺にちょうだい。

 

 食べてみるから。

 え? 危険?

 そうかな? 地球だって最初の方の人類は誰かが食べ始めたから食物と認定できたんだろ?

 

 なら、俺が最初に食べるよ。

 だって、俺働けないから。

 

  * * *

【サッチービレッジ 橋爪三佐】


「馬鹿野郎!」


 くそが。まだ俺の知らないことまでやっていやがった。

 

「大きな声だすなよ。子どもと動物たちがびっくりするだろ?」

「すまん。だが、それはお前じゃなきゃ出来ない仕事じゃないだろ?」


 俺だってやるよ。

 当たり前だろ。


「いや、俺にしかできない。別に責任感とか、俺がびっくり人間だからじゃないぞ?」

「あ、そうか」


 サッチーだったよな。

 すまん、声をあげるべきじゃなかったか。


「何て言えばいいかな。子ども達は絶対真似しちゃだめだぞ? 俺は体内である程度のものを分析できると思ってくれ」

「そんな都合のいい人間はいません」


 研究職から見ればそうだろうな。

 医者ならもっと否定するだろう。


「それがさーいるんだよねー。詳しい話は研究のみんなを集めた時に話すけど、俺が特別なだけで、絶対に普通の人は真似しちゃだめ」

「普通じゃない人も真似しちゃだめです。そのために私たちがいるんですから」


「そうだねー。でもね、自分で言っておきながらなんだけど、六百万人を一年後も、その後も食べさせていくには、じっくり研究して、分析してーでは間に合わないんだ」

「でも、それではリーダーが犠牲に」

「大丈夫、それは俺が保証する。というかこの便利機能?があるから、俺がここにいるんだよ」

「そういう話ならわからなくはないのですが……」


「(ごめん、ちょっと子ども達には話せないことがあるから、ここは聞き分けて)」

「(あ、わかりました)」


 何か小声で話してるな。


「子ども達には特に言っておくぞー」

「俺みたいにはなっちゃだめだ。俺はダメダメ人間だからな。両親や一生懸命働いている人、誰かのために何かをしている人を見るんだ」

「その人になる必要はない。自分の得意なこと、やりたいことを見つけるんだ」


 お前が一番誰かのためにやってるじゃないか……


「大事なことなのでここで言うが」


  * * *

【サッチービレッジ 三星の言葉】


 子ども達を含めて、皆は幸運なんだよ。

 

 何故かって?

 ここには何もない。

 

 便利だった町も、便利だった文明も。

 便利だった道具もない。

 

 何にもないんだ。

 

 だから俺たちは何にも縛られず、自由に生きることができる。

 

 だがな、千葉県に残っている人たちはどうだ?

 

 今住んでいる、便利だった町が復興するだろう。

 便利な道具が使えるだろう。

 いつかきっと元に戻れるだろう。

 って毎日、自分が置かれている状況と比べなきゃいけないんだ。

 

 勿論、それが生きる原動力になるのは間違いない。

 

 だがな、この状況からあの便利だった時に戻るには、とてつもない時間が必要になるか、途方もない努力をするか、めちゃくちゃラッキーな事が起きなければ無理なんだよ。

 

 意味がわからなかったら大人に聞くんだぞ?

 

 ここは不便だ。トイレだって原始的だ。

 食事だって、誰かが加工してくれたものじゃない。

 あ、調理はしてくれるけどな。

 いつもありがとうございます。おいしゅうございます。

 

 自衛隊の用意した戦闘糧食とか、基本の備蓄ぐらい。

 

 だから、工夫して食わなきゃならん。

 だが、工夫して食えるんだ。

 

 良かったな。皆。

 俺たちは自由だ。

 

  * * *

【サッチービレッジ ある一人の女性】


「……いいですか?」


 皆の前で発言するのちょっと怖かったけど、聞きたかった。


「うんうん、なに?」

「私は今でもあの便利な社会に帰りたいです」


「そうだね。あの便利は手放せないよね。俺もネットやりたいよ」

「できるなら、また地球に帰りたいです」

「うん」


「帰れませんか?」


 聞いちゃいけないんだろうけど、今聞かないとずっと抱え込むような気がしちゃった。

 

「ごめんな。俺にはその答えがわからないんだよ」

「そう、ですか」


「ここでの生活が無理そうなら、元のコロニーとかで暮らせるようにするからいつでも言ってね」

「いえ、そういう意味じゃないんです……意味じゃないんだけど」


 なんて言えばいいんだろう。

 

「あのお、リーダーはどうしてそんなに強いんですか?」

「え? 俺? 強くないよ?」

「でも、皆のために知らないものを食べたり、こんなにいろんなことを考えてくれたり」

「あ、ああ、なるほど」


 わかってもらえたのかな?

 

「うーん、皆の前で言うのは恥ずかしいけど。本心だから言っておくかー」


 なんだろう。


「俺はね、本当はこんなリーダーとかやるような人間じゃない。立派でもなんでもない」

「ただね、お母ちゃんと猫たちが幸せならそれだけでいいんだよ」


 奥さん? 猫たち?

 

「うん、人の為じゃない。家族のためだ」

「だけど、俺だっていい歳だ。ずっとは一緒に居てあげられない」

「でもさ、こんな状況じゃん?」


 知らない惑星……

 便利なものは何もない。


「俺が先に死んじゃった時に、お母ちゃん一人だと可哀そうじゃん」


「だから俺が死んでも笑って暮らせるように、皆を巻き込んだんだよ」

「どう? 軽蔑した?」


 軽蔑? どうして?

 大好きな奥さんのために、自分の力を全部使ってるんでしょ?

 できるわけない。

 

 あ、そうか。

 

「もしかして、リーダーが最初の受付の時に言ってくれた、今日から家族って言うのは、そういうことなんですか?」

「まあ、ちょっと家族と言うには大きくなりすぎちゃったけどね。でも大事な家族だ」


 そうか、そうだったんだ。

 

「動物たちを大事にするのも、子ども達に一生懸命説くのも、女性中心って言うのも全部……」

「まあ、全部は背負えないけどなー。皆が頑張ればなんとかなるだろ?」


  * * *

【サッチービレッジ 橋爪三佐】


 くそ! くそ! くそ!

 俺はそこまで考えてやれてなかった。

 

 お前が全部しょい込む奴だって忘れてた。

 くそ!


「おい、お前だけいい恰好すんな!」

「俺にも分けろ。俺もお前の家族にしろ」


「馬鹿だなあ、お前はとっくに俺の家族だよ」

「みな、俺の大事な家族だよ」

「だから、心配しなくていい。俺が皆を守る」


「なので、俺が働かなくても許してちょんまげ」


 馬鹿野郎。

 台無しだよ。


  * * *

【サッチービレッジ 羽生】


 不覚、不覚、不覚!

 この私があいつの言葉に引き寄せられている!

 

 あいつの根底は家族だったのか。

 これでつながった。

 

 会議の資料で話題には出さなかったが、

 実の親から受けた事柄がやつの根底を作った。

 いや捻じ曲げたのか?

 

 だが、妻を娶り、自分の家族という新たな荷を背負ったのか。

 

 家族か。

 血のつながりよりも、出自がどうこうよりも、

 守りたいと思えるかどうか。

 

 そうか、お前はそういう考えでいたのか。

 

 自衛隊が敵うはずがないだろう。

 

 自衛官の私が敵うはずがないだろう。

 

  * * *

【サッチービレッジ にさにさ】


 これは結婚しなさいという啓示ですね。

 三星さんがくれた、私への言葉なんですね。

 

 ありがとう。三星さん。

 一生ついていきます。

 

 そしてここで幸せに暮らします。

 ありがとう。

 

  * * *

【サッチービレッジ 橘】


 三星さん……

 馬鹿だなあ。

 私がいますよ。

 大丈夫。

 一人にはさせません。

 

 大丈夫です。

 一緒にいてあげますよ。

 

  * * *

【サッチービレッジ 三星】


 ゾク。

 悪寒が走る。

 1号か?


「さて、なんかちょっと違う方向に走っちゃったな」

「まあ、あんまり深い意味はないよ。一緒に楽しくやろう」


「それにな、ここには日本出身じゃない仲間もいる。きっとわけわからんだろう」


 ベス、どこにいるんだろう?

 ここからじゃ見えないな。


「まあ、これからたくさん話す機会もある。今日は無事に目的地についたってことで皆で歌おう!」


「なんでここで歌が出てくるんだ?」


 3号は野暮だなあ。

 まあ、らしいっちゃらしいが。


「あれ、言わなかったっけ? 俺、歌手」

「うそつけ」


「なあお母ちゃん」

「ええ、そうですよ? 自称ですけど」


「えええ?」

「(諜報が集めた資料にもないぞ?)」

「初耳ですよ! 三星さん」

「パオーン」

「にゃー!」


 なんだよ、皆して。

 

「まあ楽器はあまりうまくないが、ウクレレのコードぐらいは弾ける」

「歌えるなら一緒に歌おう。歌詞がわからなかったら雰囲気でいい、声を出すといい」


 さて、ウクレレなんて久しぶりだが、間違えないといいな。


「♪は~る~こ~お~ろ~お~の~」


「おい、荒れた城の歌を歌うな!」


 えーボケじゃないっすかー。


「では改めて」


  * * *

【サッチービレッジ エリザベス】


 あ、三星が歌ってる歌、知ってる。

 カントリーロードだ。

 

 そうか、もう帰れないんだ。

 あの土地をもう歩くことはできないんだ。

 

 ダディ、マム……

 

  * * *

【サッチービレッジ 研究職】


 意外とうまい?

 いや下手ではないとは思うけど。

 

 でも、故郷を懐かしむ歌だ。

 

 リーダーは帰れるかどうかわからないと言った。

 そして、ここで自由に暮らせと言った。

 

 そういうことなんだろうな。

 

 捨てる。作る。

 リーダーが伝えたいのは。

 

  * * *

【サッチービレッジ 羽生】


 思わず一緒に口ずさんでしまった。

 いいな、久しぶりに歌うというのは。

 

 演出もなにもないが、一緒に声を出せるのはいい。

 

 次は何を歌うんだ?

 

  * * *

【サッチービレッジ】


 うさぎ追いし かの山

 小鮒つりし かの川


 夢は今も めぐりて

 忘れがたき 故郷


 いかにいます 父母

 恙なしや 友がき


 雨に風に つけても

 思いいずる 故郷


 こころざしを 果たして

 いつの日にか 帰らん


 山は青き 故郷

 水は清き 故郷


  * * *

【サッチービレッジ 子ども】


 大人がみんな歌っている。

 泣いている人もいる。

 

 歌詞の意味はわからない。

 でも、皆悲しそうだ。

 

 リーダーは守るって言ってくれたのに。

 皆を泣かしちゃだめじゃないか。

 

 僕まで悲しくなってくる。

 

 泣かしちゃだめだよ。


  * * *

【サッチービレッジ 三星】


「俺ばっかりウクレレ弾くのは飽きた! 誰か代わってくれ。そして子ども達も歌える歌にしてくれ」

 

 多くが涙した。

 俺は泣いてない。心の汗だ。

 

 でもいい、ここまで吐き出せなかった苦しみも、悲しみも、吐き出せただろう。

 そして、それまで皆を保護していた文明という殻を壊せただろう。

 

 今日からここが皆の家だ。

 皆が帰ってくる場所だ。

 

 子ども達はここから巣立ち、新しい世界へ行けばいい。

 

 動物達。

 どうか、この世界でも無事に暮らしてくれ。

 

 人間の勝手ですまん。

 この星の植物や動物をいっぱい食べ、

 生き抜いてくれ。

 

 俺は寝る。

 

 

第3章 「踏み出す」 了



【読者諸氏】

ご愛読いただき感謝感謝。ようやく第3章が終わりました。

これもひとえに投稿し始めてより、ずっとお付き合いいただきました十数名の皆さまのおかげです。

引き続き第4章をお楽しみいただきたく、以降につきましてのご案内とお願いです。


第4章より、投稿時間を午後7時50分(19:50)に変更いたします。深夜帯にも拘わらず、すぐにお読みいただいている諸氏には大変心苦しく思いますが、何卒ご理解を賜りたくお願い申し上げます。


重ねて、「評価」をつけてくださると大変励みになります。

誤字につきましては、可能な限り校正を行っておりますが、それでも漏れが出るかと思います。

お気づきの点や読みにくい箇所、意図がわからない、率直なご意見など忌憚なくお寄せください。

可能な限り、すべてに目を通し、お返事できるものについてはお返しする所存です。


今後も諸氏にお楽しみいただければ、幸いです。

作者


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