ep.36 未知とのSo good
* * *
【未知の領域】
始まりはわからない。
偶然の産物か、誰かのいたずらか。
一つの生命と呼ぶべき存在が活動を始めた。
中略
繁殖と言っていいのか、分裂と言うべきか。
もっともふさわしいのは排泄……
さらに中略
太陽光をエネルギーにするもの、地中の物質からエネルギーを取り出すもの、
微生物のような、プランクトンのような、虫のような、植物のような、
魚のような、動物のような……
面倒くさいので以下略
* * *
【未知の領域 サッチー】
《というような感じだと推察する》
「ずいぶん大雑把だなー」
《仕方ない。今ある情報から組み立てたら、大体こんな感じじゃないかと捏造したから》
「いいね。その辺の緩さが。いいんだよ、食えるのか、害はないのか、それさえわかれば」
《問題はオールド科学・化学の信奉者がこれを信じるかどうか》
「信じるかどうかはわからんが、あいつらでは分類とか分析はできても種族とかつながりとかは証明できまい?」
《私もできないのに地球文明にできたら、私は今日にでも引退する》
「だろうねー。まあなんとかするよ」
《任せた》
「はいよー、とりあえずお疲れー。ありがとなー」
* * *
【未知の領域 千葉大 研究員】
リーダー氏に招集を受けた。
彼は見所のある男である。
なぜなら、私をこの探検隊に迎え入れたのだから。
また、私と同じように人よりも思考と相対する方が好きというのも好印象である。
人はしゃべる。食べる。寝る。そして裏切る。
研究には、すべていらない。
「K氏、よく来た」
「リーダー氏、久しぶりだね。そして何故私はK氏と呼ばれるのだろうか」
「研究のK。ものごとに詳しいのK。きち……、いろんな意味はあるさ」
「そうか。いいね。往年のショートショート作品の登場人物のようだ」
「お、いける口かい? だがその話題はまたにしよう。本題だ」
リーダー氏は話が早くて助かる。
余計な時候の挨拶も、ご機嫌伺いもいらない。
「これを見てくれ」
リーダー氏から示されたのは一つの生物のようであった。
「なんだね? みたところアメーバでも、粘菌でもないな。もう少し形がある。スライム?」
「いいね。そこに気が付くとは。だがその形態が焦点じゃない」
「リーダー氏にしては珍しく遠回しな表現だね」
「ははは、俺だって多少はユーモアぐらいまぜるさ」
「そうか。私も嫌いではない。で、これの意味は?」
ふむ、この言い回し。
リーダー氏はかなり私好みだ。
「すでに研究班に渡した、例のブツあるだろ?」
「ああ、先発隊が持ち帰ったものだね」
「これは別ルートから手に入れた」
「ほう」
「例のブツとこの(仮称)スライムが同一体、もしくは近似種といったらK氏はどう思う?」
「ふむ。少しだけ考えさせてくれ」
生物の木、人々にわかりやすく言うなら進化の流れ。
そのルーツは本当に小さなものだ。
だがリーダー氏はそのような言い方はしていない。
肉食獣や人間が主食として食べられる例のブツ、そしてこの動く生命体のようなもの。
これが近似種か。
幼体とか、蛹、成虫、変態とも違うな。
おそらく根本が違うのだろう。
なるほど。
そういうことか。
「わかった。私は、いや我々研究班はこれが食べられるのか、問題ないのかを調べればいいのか?」
「その通り。ただ、それだけではつまらないだろう。俺の仮説を話しておくよ。それは――」
「とても興味深い。わかった、それとこれとは分けて調べよう」
「助かる。よろしく頼む」
「いや、こちらこそだよ。楽しいテーマが見つかった。あとは大船に乗ったつもりで船酔いでもしてればいい」
「わっはっは。いいね。しっかり酔っておくさ。くれぐれも睡眠、休息は忘れないでくれよ」
「ああ、リーダー氏の気遣い、感謝する」
ああ、転移してよかった。
ここにこれた幸せに感謝する。
* * *
【未知の領域 水場 羽生】
うさぎ達と共にここまでこれた。
楽しかった。うん。
私にはもしかしたら自衛隊よりこちらの方があっているのかもしれない。
だが、国民のために働くという任務は忘れまい。
「リーダーよ。ここがベースキャンプになるのか?」
「うさぎちゃん、ベースキャンプというか、まずはここを村にする」
「村か。動物たちはどうするんだ?」
「まあ、もう少し探索をしてから放し飼いだね」
「なに? それでは未知の危険に対応できないのではないか?」
「そうは言ってもね。ずっとエサの面倒は見切れない」
「確かにそれはその通りなんだが。なあ、贅沢は言わん。うさぎ達の面倒を見てもよいだろうか?」
「あれ? ハブちん、愛着湧いちゃったの? 丸のみしない、他のひとにも迷惑かけない、っていうなら別にいいんじゃない?」
「丸のみなんかするか!」
「いや、でもさ。増えたら多分食べるし」
「うっ……そうだな」
「まあ、増えるまでは面倒みてやってよ。ハブちんに任せるから。あ、でもウサギだけにかまけないでね」
「いいのか? 任せてもらっても? すまん。恩に着る。勿論約束は守る」
よかった。まだ一緒にいられる。
* * *
【未知の領域 水場 子ども達】
「ねーねー名前何にする?」
「そうだね。皆で意見を出し合おうか」
「ねえお兄さん、私ねネズミーランドとかいいと思うの」
「あはは、それはどうだろ。さすがにここで文句言う人もいないとは思うけど」
「僕はねー東京がいいかなー」
「なるほど?」
「女子はどう?」
「そうね。リーダーさんはなんでもいいって言ってくれたけど、難しいよね」
「俺は白いベースとかいいんじゃないかと思う」
「野球? それとも連邦関係?」
「ひみつー」
「さて、お前ら。決まったかー」
「決まらなーい」
「そっかー。まあ難しいよなあ」
「ねえねえリーダーは何がいいと思うの?」
「俺かー、そうだなーサッチービレッジかな? 幸せの村って意味だ」
「幸せのむらかー」
「うん、いいねー」
「それがいいー」
《三星……》
《幸せの村なら、ハピネスではないのか?》
「(やべ、しまった。まあいいさ。お前の名前を付けられるならな)」
《三星……おっぱいはもう少しまて》
「(はいはい)」
* * *
【サッチービレッジ 本田二佐】
サッチーってあのサッチーよね?
女の名前を村の名前につけるなんて。
男の中の男ね。
さすが三星さん。
奥様さえいなかったら、今夜にでもテントを襲うところだった。
* * *
【サッチービレッジ 橘】
子ども達を含めて、誰一人欠けることなく目的地にたどり着いた。
三星さん曰く、ここが今後の起点になるようだ。
いつの間にか目印の岩やロープが配置されていた。
先発隊の皆さんの仕事のようだ。
居住地、備蓄小屋、動物たちのエリアに分けられていた。
大きな混乱もなく、みなそれぞれの場所に落ち着き荷ほどきをしている。
集会用のエリアというか、キャンプファイヤーのような場所もあり、今後はここで打ち合わせなどを行うようだ。
「三星さん、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではない。なぜ俺は、最後ずっと歩かされたのかがわからない」
子ども達と動物たちが大きな一塊となり、その先頭には三星さんがいた。
最後の休憩ポイントからずっと、三星さんは歩いてきたようだ。
「もう、俺はここで寝て暮らすことにした。あとは任せたぞ1号」
「冗談は顔だけにしてください」
「お? 言うようになったな。多少は内勤から外回りの人間になったみたいだな」
「そう見えますか? 自分ではよくわからないですけど」
確かに、誰かの機嫌をとるためだったあの頃よりは、目的をもって生きている気がする。
「まあ、いいさ。そのまま頑張れ。1号と3号はここからが本番だ」
「それはどういう意味ですか?」
「そのうちわかるよ」
「意味深だなあ」
また何か企んでいるようだ。
「まあ、今日の寝る場所を確保して、夕飯の時間になったらわかるよ」
「あんまり無茶なことはさせないでくださいね」
「無茶? 無茶しかいわんからな。お前たちにしか頼めないし。俺の数少ない、限られた、限定パックの友人だ」
「友人……」
「ち、違うのか?(ドキドキ)」
「いえ、違いませんよ。私も橋爪さんも、あなたの友人です」
「(ほっ)なら、俺の命令に従え!」
「命令は違うのではないのですか?」
照れ隠しなんだろうな。
言葉の中に、様子をうかがうようなものを感じる。
「友達だから命令する。お前のものは俺のもの理論だ!」
「それは、便利なロボットがいないと大変ですね」
「わっはっは」
楽しそうだ。
この人が笑うと、なぜかこちらまで嬉しくなる。
さて、何をやらされるのやら。
* * *
【サッチービレッジ 三星】
すっかり暗くなったな。
皆ようやく落ち着いたようだ。
「よし、皆聞けー。リーダー様からのお言葉である」
「あまり自分でそのセリフを言う人はいないですよ? 三星さん」
1号め。
あいつは……しめしめ油断しているな。ほえ面かくなよ。
「では、これからの方針をお伝えしまーす」
皆の注目が集まる。
あんまり得意ではないんだがなあ。
「では最初に、ハブちん」
「ん? 私か?」
「こっちへ来なさい。あとは、にさにさ、そんで先発隊の――」
うふふ。
「皆、こいつらは自衛隊のスパイだぞー」
「なっ」
「!」
「おい、何を根拠に」
「別にスパイだから悪いとは言ってない。ただ邪魔だけはするな」
「……」
「どういうことですか? リーダーさん」
えーっと誰だっけ?
研究班? 知識班? 自分でグループ分けして忘れちゃった。
「大したことじゃないぞ? 自衛隊の協力があったからここまでこれた」
「それに、こいつらはとーっても役に立つ」
「もし、何かあった時はヘリとか、大型車両とかで迎えに来てくれるかもしれん」
「どうしてかって? そこのハブちんは自衛隊の一番偉い人だからだ」
「それなのに、退職してきたフリをしてまで、ついてきている」
「未知の領域が気になって仕方ないらしい」
「それにな、自衛隊だけじゃない。他のグループにも似たようなのは一杯いるさ」
「だが、それはこの集団だから特別なんじゃない」
「そんじょそこらの気になる集団には普通に入り込んでるし、普通に暮らしているぞ」
ふふふ。
驚いてるな。
サッチー様様だ。
《(感謝しなさい)》
「まあ、皆いろんな思いがあって参加していると思う」
「だが、これから先、千葉県に住む人たちが生きて行けるかどうか、ある意味俺たちにかかっていると言っても過言じゃない」
「あ、別に何かを見つけなきゃいけない、とか一日も早く物資を送り届けるとかじゃないからな?」
「その辺は、利根川の対岸とか、野田とか市川方面からも自衛隊が展開しているはず」
「そっちがメインだろう」
「な? ハブちん」
「そうだな。お前には衛星がいたのを忘れていたよ」
「だが、三星の言う通りだ。我々は別に邪魔しにきたわけじゃない。むしろここにいるすべての(うさぎを含めて)皆を支援するためにいる」
「専門家、とくに力をメインに発揮する集団としては、このクラン?には大いに期待していると言ってもいい」
「ハブちんは、うさぎちゃんが大好きだからいるんだろ?(ぷぷ)」
「……それもある」
かわいいのお。
「他の団体から派遣されている者たちもおそらくそうだろう。動機は様々かも知れないが、皆国民であり、守るべき存在を保護するために派遣されていると思う」
「(三星、あとで話があるからな)」
「さて、おっかないおっさんの話はそれぐらいにして、もう少し目的というか役割を説明しようかね」
* * *
【サッチービレッジ 三星の言葉】
あ、聞こえなかったらもう少し前にきてね。
子ども達も、意味がわからなくてもいいから、今はおとなしく聞いてくれ。
できるだけわかりやすく話すつもりだけど、わからなかったら周りの大人に聞くか、1号と3号に聞いてくれ。
こいつらは大体俺の考えをわかってる(はず)。
まずは、この村の目的だ。
この村はさっき言った通り、未知の領域になにがあるか、そしてそれが動物や人間に有益なものなのかを調べるためにここまできた。
だから、最初はこの水辺を中心に生活が成り立つか、普通に暮らせばいい。
力仕事は男たちを中心にやってくれ。そっちは3号がリーダーだ。
生活をどのように回していくか、子ども達はどんなお手伝いができるか。
女性の意見を取り入れながら、むしろ女性が先頭にたって意見を出してくれ。
そのとりまとめは1号、お前がやるんだ。
研究班というか、分析や調べものは専門職の皆がそれぞれ力を発揮してくれ。
基本的には俺に教えてくれればいい。
ここまではいいかな?
次に動物たちだ。
飼育や保護担当の人たちを中心に、この辺で暮らすことができるか、また勝手にその辺のものを食べて体調を壊していないか、注意深く見てやってほしい。
残念ながら、持ってきた餌はそんなに持たないからな。
あ、心配しないでいい。
この辺の植物っぽいものは、俺が食べて調べた。
問題ないと思う。
ただ、人間が食べて安全だからといって、動物、とくに小動物でも同じとは限らない。
だから、悪いけどこれまで以上に目を配ってやってほしい。
ちょっと人相は悪いけど、うさぎちゃんが大好きなハブちんを連絡員としておくから、そっちに情報を集めてね。
まだまだ続くよー。




